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私、ゲーム好きですから

 勇斗達が「合宿」を計画し始めた頃、月城陽菜(つきしろはるな)の母親である智恵子(ちえこ)は嵯峨野ゲームスの本社にいた。


 目的は和久井が今度、出版する本の打ち合わせである。



 「はじめまして、嵯峨野ゲームスの和久井です」

 「こちらこそはじめまして。南北出版(なんぼくしゅっぱん)の月城です」


 挨拶(あいさつ)が済むなり、早速両者は本題に入る。


 まず智恵子が今回、和久井が出版しようとしている著書(ちょしょ)の仮タイトルの候補(こうほ)を挙げた。



 『君はゲーム感想文を書けるだろうか?』

 『東大に受かりたければゲームをやりなさい』

 『カリスマYoutuberが教える凄い勉強法』

 『子供の才能を伸ばすゲーム活用術』


 目的は和久井の嵯峨野ゲームス、そして阪口塾のプロモーションである。



 「失礼致します」


 両者が本のタイトルの打ち合わせをしていると、嵯峨野ゲームスの社員と思われる男性が入ってきた。


 「お客様をお連れ致しました」

 「ありがとう。入ってもらって」


 男性に案内され、2人の人物が入ってくる。一人は阪口塾の代表取締役である阪口信昭(さかぐちのぶあき)。そしてもう一人は……



 「玉野先生じゃないですか!」

 「月城さん、何でここに?」

 「それはこっちの台詞です!」


 ――忘れもしない。去年の夏休み。


 娘の陽菜が提出した課題を「コピペした」と難癖(なんくせ)をつけ、本人の言い分も聞かずに再提出を要求した男。そして、親の自分が抗議したにもかかわらず「娘の宿題を代行した」と、さらに言いがかりをつけてきたトンデモ教師……



 「帰って頂けますか?」

 「いや、いきなりそんなことを言われましても」

 「迷惑なんですよ!」

 「まあまあ、お二方とも落ち着いて」

 

 突然始まった、両者の争いに和久井も困惑気味である。しかしそんな彼のフォローを振り切るかのように、


 「和久井社長、これは一体どういうことですか?」

 「どうって、今日の打ち合わせに参加する方々ですよ」

 「そうじゃありません。一体彼は何ですか?」

 「何ですか……と言われましても」


 どうやら2人には何か因縁(いんねん)があるらしい。だが、和久井はそんな因縁など知らない。



 「あ、そういえば」


 最初に南北出版から本を出さないかと打診(だしん)の電話があった時である。その時、学校の教師が(ひど)い奴で何とかかんとか……って、そんな話をしてたような気がする。



 「とにかく落ち着いて下さいよ」


 和久井は確かに、今注目されているゲーム会社の社長だ。とはいえ、現在21歳の彼は外見(がいけん)だけ見れば「そこいらの兄ちゃん」なのである。


 そんな彼が、下手をすれば親と同じくらいの年齢の「大の大人が」顔を合わせるや否や、仕事そっちのけで口論を始める。いくら彼でも「(はと)豆鉄砲(まめでっぽう)をくらったかのように」唖然として見ているしかない。



 「とにかくですね、今日は私も含め、4人での打ち合わせです」


 その姿は、少なくともこれから本を出版しようとする著者ではない。というよりはむしろ、討論番組(とうろんばんぐみ)の司会者か何かのようである。



 「今回、阪口社長。そして虎ノ口中学校の国語教諭(きょうゆ)である玉野先生に来ていただいたのには理由があります」


 阪口社長が来る意図は分かるにして、何故一介(いっかい)の中学教師がこんな場所に来ているのだ……少なくとも今の智恵子の気持ちはそうであった。



 「私が説明しましょう」


 智恵子の気持ちを察したかのように、玉野が和久井に続く。


 「月城さん、私がゲーム(ぎら)いだと思いますか?」

 「当たり前です!」

 「何故ですか?」

 「あなたね、生徒のゲーム機を没収したでしょう?」

 「確かに、そうです」

 

 智恵子の怒りは一向に収まる気配を見せない。



 「それで、卒業するまで返さなかったとか!」

 「あれは()()()()()()ですよ」

 「フィクション、何言ってるんですか?」

 「単なる「ハッタリ」です」

 「()()()()ですって?」


 一度振り上げてしまった(こぶし)は容易には下せない。しかし今の智恵子はまさしく「(おろ)さざるを得ない」状況である。



 「それに私、ゲーム……()()なんですよ」

 「この後に及んで一体、何を言ってるんですか!」

 「いや、好き「だった」というべきでしょうか」


 玉野の子供の頃、ドラクエシリーズの1~5を中心にやり込んだ、いわば「ファミコン世代」だ。したがって、そんな彼がゲーム嫌いになるわけがない。


 むしろその逆。その前後の世代、というより今の生徒達よりも()()()「ゲームに対する思い()れ」が強い。



 「このような言い方は少々、不適切かもしれませんが……」


 ゲームは多くの子供達にとって有害だ。なぜならゲームは強力な中毒性(ちゅうどくせい)があるからのだという。


 そしてその中毒性に(おか)され、「禁断(きんだん)症状(しょうじょう)」が悪化した挙句(あげく)に勉強、そして部活動を止めてしまった子も決して少なくない。



 「そんな大袈裟な!」

 「月城さん、大袈裟なんかじゃありません」


 彼自身、ファミコンに夢中になった世代の人間だからこそ、その恐ろしさを「誰よりも知っている」のである。


 「だからこそ、禁止すべきなんです」

 「でも、だからって没収は……財産権(ざいさんけん)の侵害じゃないですか!」

 「おっしゃることは分かります。でも」

 「でも?」


 多くの子供達はゲームに夢中になる。最初は10分のつもりが20分。そして30分……気付けば1時間、いや2時間を過ぎてしまっていることも不思議ではない。


 「ちゃんと勉強するなら」という条件で始めたにもかかわらず、当初の予定を大幅(おおはば)超過(ちょうか)している。そして一向に止める気がない。親からすれば、明らかな「契約違反(けいやくいはん)」である。



 しかし……


 「出来る子は分かっているんです」

 「分かってるって?」

 「ゲームは毒にも(くすり)にもなるってことです」

 「どういうことですか?」

【登場人物紹介】


・龍崎勇人 / りゅうさき ゆうと(14歳)

 本編の主人公。虎ノ口中学校2年生。一応、将棋部所属


・玉野悟 / たまの さとる(46歳)

 虎ノ口中学校の国語教師。教員生活20年以上のベテラン。

 夏休みの課題として「ドラクエのゲーム感想文」を出す。厳格な態度のため、生徒達の評判はイマイチ。


・月城陽菜 / つきしろ はるな(13歳)

 虎ノ口中学校2年生。文学少女。

 中学1年生の夏休みの課題で「コピペ疑惑」を疑われたため、玉野に対して不信感を持っている。


・月城智恵子 / つきしろ ちえこ(42歳)

 出版社の編集者。南北出版勤務。陽菜の母。

 本好きで、その趣味やセンスは娘にも大きな影響を与えている。

 娘の読書感想文がコピペと疑われたため玉野に抗議するも却下されており、彼に不信感を持っている。


・阪口信昭 / さかぐち のぶあき(45歳)

 株式会社阪口塾の代表取締役

 学習テキストにアニメのキャラクターを入れた手法が人気を呼び、虎ノ口中学校の生徒の多くが阪口塾の塾生となっている。


・和久井為良 / わくい ためよし(21歳)

 株式会社嵯峨野ゲーム興業の代表取締役。東大中退。

 「元東大生Youtuber」として若者の間で絶大な人気を誇る。

 大学在学中に立ち上げた「嵯峨野ゲームス」は人気のスマホゲームメーカーとして注目を浴びている。

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