合宿計画(後編)
「でも、そんなお金ないだろ? 」
「いや、旅館とかそういうのじゃないよ」
「じゃあ、何? 」
「とりあえずOKしてくれそうな奴の家」
「オイオイ、何だよそれ」
「俺も一応、親に頼んでみるからさ」
なるほど、それなら大してお金はかからない。しかし、それにしても「宿題合宿」なんて前代未聞だ。
1人や2人ならば許可してくれる親もいるだろう。が、それが5人あるいは10人くらいとなるとどうだろうか?
現にほとんどの生徒が宿題を終えていない状況だ。もしクラス全体を巻き込むことになれば、一人の家に20人以上が押し掛ける事になってしまうのではないか……
「なんか、無理っぽくね? 」
「大丈夫だよ、そんなに人来ないって」
「何でそう言えるんだよ」
「だって、みんな部活忙しいじゃん」
勇斗はなるほど、と思った。
確かに、部活で忙しい連中は泊まり込みで宿題など出来ないだろう。なぜなら翌日、練習がある。
あるいは現在、合宿で家を空けている奴もいるかもしれない。そうなると、この企画に参加出来る奴はどうだろう……勇斗が考えたところ、おそらく5人もいればいいという感じだ。
「まあ、俺達も含めてせいぜい3~4人だろうな」
稔も勇斗と同意見だ。そして更に、
「4人くらいが終われば、全員終わるんじゃねーの? 」
つまり稔に言わせれば、宿題を終わらせた「メンバー」が、それぞれ別の友達に教えれば解決する、という算段だ。
「なるほど」
「だろう? 」
「お前、そういうとこ「だけ」は頭いいよな」
「だけ、は余計だろ! 」
なるほど。確かに、今の勇斗なればゲーム感想文の書き方をクラス全員に教える……それだけじゃない、学年全体で「国語の授業」だって出来そうな感じだ。
しかし、夏休みも残り10日を切った。そんな状態で今から全員と連絡をとり、そして個別に対応するなんてまず不可能だ。
そういえばテレビのニュースでやっていたな。何だっけ? グラスに注がれたお酒が上から流れて行く……そうそう「トリクルダウン」だったっけ?
それならば自分一人だけで何もかもやる必要はない。稔の提案は、一見冗談のようにも感じられるが、よくよく考えてみれば非常に効率のいい方法といえるだろう。
「それじゃさ、俺が連絡してみるから」
「ああ、頼むよ」
「明日、もう一度連絡するわ」
「OK、じゃあお願い」
そう確認すると、稔は電話を切った。
稔は部活をやっていない。いわゆる「帰宅部」だ。しかし、こういったコミュニケーション力とか、あるいは情報収集能力は何かな、運動部のマネージャーとかに向いてんじゃないかと思う。
ドラクエだと何だろうな? 仲間を纏め上げるってことは……
(あいつ、実は勇者に向いてんじゃねーの? )
ふと勇斗は思った。もしこの合宿が成功したとして、ゲーム感想文に合宿の計画から実行を書くとする。
そして、「自分が仲間を集めた方法」という経験を基に感想文を書けばよいのではないだろうか?
(ま、合宿というのが実現すればの話だけどな……)
やはり宿題合宿、なんて前代未聞なのだ。それに、いくら子供の友達だからって、そう簡単に泊めてくれる家なんてあるわけがない。
現に自分の家の場合、親は絶対に断るだろう。その理由はもちろん「正しい勉強のやり方じゃない」からだ。
おそらくは、やれ学校の先生の引率がなければダメだとか、あるいはゲームを持ち込んだらダメだとか、まるで修学旅行か何かのようなルールを押し付けてくるに違いない。
▽
時刻は午後5時25分を回っている。
「そうだ、塾に電話してみるか! 」
もしかしたら、最大で5人くらいが集まる。ドラクエでいえば「パーティーの人数」くらいにはなっている。
仮に合宿……そうでなくても稔と、そして他の友達と一緒になる時間があるとすれば、おそらく自分では考えない発想で文章が書けるのではないか。
だとすれば、事前に確認しておいて損はなさそうな気がする。
勇斗はスマホを取り出し、学進ゼミへ電話をする。
「お電話ありがとうございます。学進ゼミナール虎ノ口校でございます」
電話の声は若い女性。おそらく千賀美智子だろう。
「あの、龍崎です」
「ああ、龍崎君。こんばんわ」
「こんばんわ。杉田先生いらっしゃいますか? 」
「ごめんね。杉田先生、今授業中だけど」
「何時に終わります? 」
「ちょっと待ってね」
千賀がスケジュールを確認するため、電話を保留状態にする。そして1分くらい経過しただろうか。
「もしもし、龍崎君」
「はい」
「6時頃かな、こちらから折り返し電話するけど」
「よろしくお願いします」
「杉田先生に伝えておくこととかある? 」
「そうですね……宿題の質問とかで」
「了解」
▽
電話を切ってから40分くらい経った。
「ブーブーブー」
マナーモードに設定していた勇斗のスマホが鳴る。電話の主は学進ゼミだが、おそらく杉田だろう。
「もしもし」
「龍崎? 今、大丈夫? 」
「大丈夫です」
案の定、杉田だ。
「宿題で質問があるって聞いたけど」
「実は、友達と会うんですよ」
「なるほど、で? 」
「たぶん、3人~5人くらいなんです」
「そうか」
「これって、ドラクエのパーティーくらいの人数ですよね? 」
「なるほど、つまり自分と友達の立場を比較したいってことか? 」
「そうです」
もし、自分が勇者だったら? あるいは友達の誰かを勇者にするとしたら……そんな話を友達同士でやれば、大いに盛り上がるのではないか?
「一つだけアドバイスがあるな」
「何ですか? 」
「君が仲間外れになること」
「何ですか? それ」
「もし5人だったらな」
「どういうことですか? 」
「ドラクエって、3~4人編成だろ? 」
「そうですけど? 」
「5人だと、誰かが余るわけだ」
「確かにそうですね」
「で、そこで「抜ける」役、やってみろよ」
なるほど、これは勇斗も想像していたし、感想文にも少しだが触れた内容だ。
例えば自分が勇者になるとした場合、自分一人で感想文を書く場合は「ほぼ無条件に」勇者となる。
だが、大勢で「各自の役割を与える」となった場合、どうだろうか? 必然的に「ポジション争い」が発生する。
希望の役を与えられなかった人間には不満が残るだろうし、何よりパーティーから「仲間外れ」にされた友達とはギクシャクしてしまうかもしれない。
だとすれば、
「最初に僕が抜ければいいんですよね? 」
「そう、立場の強い奴が最初に言い出さないとな」
もし仮に何人かが集まったとして、例えば勉強が出来る。あるいはスポーツの出来る奴が「パーティー」でも発言力を持つだろう。
そうなると、その中で「下位」あるいは「役立たず」にされてしまった奴は可哀想だ。
しかし、最初から自分が「嫌な立場の役」を引き受けると宣言すれば……
おそらく、既に感想文を書き終えた自分は間違いなく「最も重要なメンバー」となる。しかし、そこで調子に乗ったらダメと言う事なのだろう。
「お前、今度はもしかしたら王様かもな」
「王様? 僕が、ですか? 」
「そう、魔王を倒すメンバーを決める役」
「なるほど」
いわば「司会進行役」みたいな感じだろうか。
確かに。魔王を倒すのに必要なのは、何もプレイヤーが操作するキャラクターだけとは限らない。
例えば、些細な情報提供者に過ぎない村人や、伝説の武器の在り処を教える町の長老みたいな人も、もしかしたら「自分の適性に合った存在」かもしれない。
「ちょっと聞いていいですか? 」
「ああ、いいよ」
「村人の立場でドラクエを論ずる、ってアリですか? 」
「もちろん。ソレ、面白そうじゃん」
なるほど、ならばもっと極端な事例。例えば魔物や魔王といった立場で論じてもおそらくOKだろう。
それって、もしかして……
「魔王の適性がある奴っていますかね? 」
「もちろん、いるとも」
例えば5人の内、自分が魔王の立場になるとする。そして残りの4人がパーティーを組む……そんな「ロールプレイ」も可能なのではないか?
「分かりました、ありがとうございます」
「これでいいか? 」
「大丈夫です」
「それじゃ、次な」
次の予定を確認し、杉田は電話を切った。
(自分がもし魔王ならば、どうやって勇者を倒すだろうか? )
面白そうだ。そして「友達の」勇者と意見を交わしてみる。
「もし合宿になれば、この話題で盛り上がりそうだな」
まだ決まってわけでもない「合宿」。しかし勇斗は不安よりもむしろ「これは成功するだろう」という大きな期待感を感じつつあった。





