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合宿計画(前編)

 「終わった! 」


 午後12時50分。勇斗は感想文を書き終えると、帰る支度(したく)をし、そしてその足でスタッフルームに向かった。


 その直後に杉田が昼ご飯を食べ終わったのか、スタッフルームに戻ってきた。



 「終わったのか? 」

 「終わりました」

 「どれ、見せてみ? 」

 「これです」


 勇斗は書き終わった原稿を杉田に渡す。すると彼は1枚目を見るなり、


 「よし、80点」

 「あとは見なくていいんですか? 」

 「見なくても分かるよ。よくやった」

 「あ、ありがとうございます! 」


 そして杉田は2枚目の原稿を読み始めようとすると、


 「これ、コピーしていいかな? 」

 「大丈夫ですけど」


 勇斗がそう言うと、杉田はコピー機のある場所にいき、コピーを取り始める。



 コピーを終えた彼は、勇斗に対して言った。


 「じゃあ、これ返すから」

 「ありがとうございます」


 杉田から原稿を受け取り、カバンに入れようとすると、彼は再び勇斗に尋ねる。



 「ところで、玉野先生だっけ? 」

 「玉野が何か? 」

 「その人、ゲーム好き? それとも嫌い」

 「何バカな事言ってるんですか! 」


 玉野というのは、とにかくゲームというものを目の敵にする。そして生徒から没収したゲーム機を、本人が卒業するまで返さない。そんな彼を「魔王」あるいは「泥棒(どろぼう)」という生徒だっている。



 「本当にバカか? 」

 「バカですよ。いくら何でも」

 「意外にゲーム()きなんじゃないの? 」

 「有り得ないですね」

 「そうか、ならいいんだけどな」


 何を訳のわからない事を言っているのだ。冗談でもさすがに常識と非常識というものがある。


 アイツの立場がドラクエのゲームのシナリオにおける「王様」というのはいいとして……それが本人のゲーム好きと関係あるとでもいうのだろうか?



 「大体、何でそんな発想が浮かぶんですか! 」

 「そうだなぁ、何ていうか「(かん)」かな? 」

 「いい加減なこと言わないでくださいよ」

 「そうだな、いい加減だよな」


 杉田は自分から言い出した話を自ら(ほう)()げるかの(ごと)く、その場を収拾(しゅうしゅう)させようとした。



 「それで、宿題の事だけど」

 「宿題、ですか? 」


 勇斗はすっかり忘れていた。別に、今の話で激高(げきこう)したからとか、そういう問題ではない。


 単に忘れていた。そういえば、自分は宿題を出されていたな。



 「何でしたっけ? 」

 「勇者以外の立場で考えて来い」

 「分かりました」


 ようやく平静(へいせい)を取り戻すと、勇斗はカバンの中をチェックし、先程入れた原稿の存在を確かめる。


 「じゃあ、失礼します」

 「おう、じゃあ次な」



 ▽


 (かえ)(ぎわ)、勇斗は(ひと)り考えていた。


 ドラクエにおける「主人公の代名詞」ともいえるのが「勇者」という存在だ。攻撃も、魔法も「2番手(にばんて)」である。よくいえば「何でもできる(オールラウンダー)」であり、悪く言えば「中途半端(ちゅうとはんぱ)」だ。


 そんな自分を勇者に例えた場合、自分がその地位にいる理由は「他のメンバーの能力を活かす」というのが勇斗の考えだった。



 (では、勇者以外だと自分は一体、何になるのだろう? )


 考えられるのは、例えば自分が魔法使いだとして、自分よりも攻撃力の高いキャラをパーティーに加えようとする。


 そして、そのキャラを探すのが最初の旅の目的……大体、こんな感じだろうか。



 「そうか、なるほど」


 今までドラクエにおける自分のポジンションンは、「ほぼ無条件に」勇者だと思っていた。なぜなら、ゲームにおける主人公が他ならぬ自分自身であるから。


 しかし、その条件を完全にひっくり返した場合、どうなるだろうか?



 「自分では意識していなかった、自分の適性を考えろ」


 いわゆる「自己分析(じこぶんせき)」というやつである。今回の課題はそういうものなのだろう、と思った。


 「では、自分にはどんな特性があるのだろうか? 」


 

 ▽


 家に帰り、遅めの昼食をとる。


 そして二階の自分の部屋に戻ると、感想文を書き終えた疲れがどっと出たのか、そのままベッドに倒れて「寝落ち」してしまった。


 「ヤベ、寝ちまった」


 気付けば夕方の5時である。遠くから聞こえる学校の()()()()()が、まるで目覚まし時計か何かのように勇斗の頭に()(ひび)く。



 「ブーブーブー」


 そのチャイム音に続くかのように、マナーモードに設定した彼のスマホに着信音が鳴る。電話の主は稔である。


 「もしもし、龍崎か? 」

 「ああ」

 「ゲーム感想文、どう? 」

 「どうって? 」

 「いや、言ったじゃん」


 自分は既に感想文を書き終えている。そして杉田からも「合格点」ともいえる80点の評価をもらっている。



 「やっぱ書けねえの? 」

 「書けないんだよ……」


 俺、何すっ(とぼ)けてんだろ、思いつつ、勇斗とは一つの判断に(せま)られていた。


 ここで稔には現状を正直に明かすべきなのか? それとも今の段階では、まだ言わない方がよいのだろうか?



 「俺、塾に通ってんだけどさ」

 「いや、それは聞いたって」

 「それでさ」

 「それで? 」


 彼の判断は「真実を明かす」であった。


 「いや、終わったんだよ。一応(いちおう)

 「オイ、マジかよ! 」

 「いや、()()だって」


 電話の向こうの稔は、どうやら信じられないという様子である。教えてほしい、というよりもとにかく「信じられない」が先のようだ。



 「それ、マジでやばいよ! 」


 ここで言う「ヤバイ」というのは、悪いという意味ではない。むしろ逆である。


 「スゲー! 信じらんない」


 そんな感情が入った表現だろうか。



 「で、何書いたんだよ? 」


 まるで自分を救世主(きゅうせいしゅ)か何かとでも思っているのだろうか? それとも「さっさと答え、教えろ」ということなのだろうか?



 「別に、そんなに難しい事じゃないけど」

 「勿体(もったい)ぶってないで、早く言えよ」


 勇斗は自分が塾で習った事。即ち連想ゲームの話をした。


 単にゲームの内容を説明するのではなく、自分の身近な出来事と比較する。そして最後に、「ドラクエから学んだことは何か? 」という話で()(くく)る。例えばチームワーク、といった感じで。



 「何となく、分かった気もするけど……」


 言われてみれば、言葉のやり取りだけで全てを説明するのは難しいのかもしれない。


 「それで龍崎、相談なんだけどさ」

 「相談? 」

 「一度会わねえ? 」

 「別に、いいけど」

 「それとさ、他の奴はどうする? 」

 「みんなで宿題をやろうって事? 」

 「そういうこと」

 

 なるほど、稔の事だ。おそらくクラスの他の連中に対しても()()()()確認をしているのだろう。



 (つまり、誰も終わっていないということか)


 少なくとも稔が確認した友達は全員、だ。


 「でも、全員だと時間かかるんじゃねーの? 」

 「それでさ龍崎、合宿(がっしゅく)やらねえ? 」

 「合宿? 」

 「そう、合宿」


 部活の合宿みたいなものだろうか? 宿題のために集まった連中が、どっかの旅館(りょかん)か何かを借りようってことだろうか?

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