第39話 マリアの嘘
横になったまま、ふと窓に目をやると、まだ月が高い位置にある。
さっきの夢で喉がカラカラになり寝付けなくなったカトレアは、水を飲むためにキッチンへと向かった。
すると真夜中なのに扉の隙間から電気の明かりがもれている部屋があったのである。
そこはマリアの部屋である。
コンコン
「まだ起きてるの?」
扉越しに尋ねると、少し扉が開きマリアが顔を出した。
「部屋の掃除してたら、いつの間にかこんな時間に・・・。ところでどうしたの夜中に?」
小さな隙間からマリアが顔を出し、さらにそのわずかな隙間からベットが見える。
そしてその上に黒い何かが置いてあったように見えた。
それが何なのか分からなかったが、カトレアは
「ちょっと目が覚めちゃって・・・」
と、たった一言発して自分の部屋に戻ったのであった。
結局その後も眠れなかったカトレアは早めに起き、少し濃いコーヒーを入れて飲んでいると、マリアもキッチンへやってきた。
夜中にベットの上にあった物であろう少し大きめの黒いカバンを持って・・・。
「おはよう」
カトレアの存在に気付いてなかったのか、若干その声に驚いたように感じられた。が、特に慌てる様子もなく、足元にそのカバンを置き、コップを取りカトレアと同じテーブルに腰を下ろした。
その『カバン』の事に一向にふれないマリアに対し、明らかにカバンを気にしているカトレア。
ようやくそれに気付いたのかマリアは
「彼が風邪をひいたみたいで・・・少し見てこようかと・・・。彼、一人暮らしだし・・・。」
と、何となく歯切れの悪い言い方であった。
どうして荷造りだと言わず掃除だと嘘をついたのか?
その時は分からなかったがおそらく言いにくかったのであろう。
『ニックと一緒に住みたい』とは・・・。
現にその日から結婚式までマリアは帰って来なくなったのだから・・・。