第3話 希望の中の不安
ロイドや、一緒に出産を経験し、今では母となった沢山の人達の応援や励ましを受け
カトレアは笑顔を絶やすことはなかったが、夜、一人になると時折、寂しそうな顔をする。
なぜならカトレアは、未だに自分のお腹に触れる事が出来ずにいたからである。
その事をいつも優しいロイドに話す事が出来ずに、出産を迎えることになった。
お腹の子に話を聞かせてあげようと、ソファーで絵本を広げていると
突然の陣痛に襲われ、思わずカトレアは手でお腹を押さえてしまったのだ。
その時カトレアは、全身に凍る様な寒さを感じ、お腹から手を離した。
腕には一瞬で鳥肌が立ち、出産の喜びよりも不安でいっぱいになってしまったのである。
そんな時、支えになったのがやはりロイドであった。
「僕がついているから大丈夫だよ。」
カトレアはそっとロイドに寄りかかると、体の震えがひいていくのを感じた。
3300g
元気な女の子を出産。
カトレアの目には今まで流したことのない
喜びと幸せの涙が溢れていた。
それは彼女が看護婦になって初めてのお産に立ち合った時の感動に近いが、それとは比べ物にならないほどであった。
けれど幸せに浸っている時間は長くなく
カトレアに試練の時が訪れる・・・
深く深呼吸をして、婦長から我が子を受け取った。
その瞬間、カトレアの頭に映像が飛び込んできたのだ。
今、胸に抱いている我が子の大人になった姿。
・・・とても美しく、幸せそうに隣の人と腕をくんでいる。
けれど相手の人の姿は、真っ黒な人の形をしたシルエットだったのだ。
カトレアはゾッと背中に冷たいものが伝わっていくのを感じた。
家に帰るタクシーの中で、カトレアはロイドにその事を伝えると
「そんな事気にすることないよ。この子に変な虫がつかない様に僕らが気を付ければ良いって事だろ?」
そう言ってロイドは微笑み、更に付け足した。
「白衣の天使の子供だからマリアってのはどうかなぁ?きっと黒い影なんてどっか飛んでっちゃうよ。」
その言葉にカトレアは久しぶりに心の底から笑った。
「優しいパパで良かったわね。」
と、パパの腕にはすっぽり入って眠っているマリアの頬を撫で
カトレアはロイドの肩にもたれた。