第66話 繋がる過去と現在
中に入ると、予想通りシーンと静まり返っている。
何度も『夢』で味わって、この先起こる事を知っているカトレアではあるが、やはり銃口をマリアに向けている自分の姿を思い出すと、恐怖心を拭いきれなかった。
けれど自分の能力が本物かどうか確かめたい。そんな気持ちがあったのか、カトレアは覚悟を決め、マリアが居るであろうリビングに向かって足を進めたのであった。
カトレアはリビングの扉の前に立ち止まり、一呼吸おいてからノブに手をかける。
震える手を抑え、ゆっくりと扉を開け、中を伺う。すると・・・。
やはり真っ先に目に飛び込んできたのは、いつの日にか買った、あの白い服を着て立っているマリアの姿だった。
ついに現実に来てしまった『この日』ではあったが、カトレアは言葉を発する事ができず、ただ立ちつくしていた。
すると口を開いたのはマリアの方だった。
「おかえり・・・ママ。やっぱりこの日が来ちゃったね。」
そう言ったマリアは一瞬笑顔であったが、すぐに哀しい顔になり
「私・・・今日・・・ママに殺されるんだね。」
「あなたの日記見たわ。でもそんなこと絶対にないわ!未来は変わるのよ!」
すると哀しそうな表情だったマリアが突然、険しい顔になったのである。
「未来は変わらない!変えてはいけないの!・・・未来が変わっちゃったら、私もママもパパと同じただの凡人じゃない!!」
その言葉にカトレアは耳を疑った。
「・・・マリア・・・あなたがパパを殺したの・・・?」
怒りや哀しみではなく・・・そう無表情でマリアはこう答えた。
「えぇ、そうよ。だって『あの人』ママの事『悪魔みたいだ』って言ったのよ。なんの力もない凡人が・・・!」
「・・・どうして・・・」
カトレアの目から涙が溢れ出した。
そして震える手でバックから銃を取り出し、マリアに向けたのである。
「・・・やっぱり変わらないのかなぁ?」
マリア小さく呟いて、更に続ける。
「私が小さい頃、パパの銃をゴミ箱に捨てた事があったでしょ?その後でパパとママにすごく怒られたよね?だって私にはこうなる事が分かってたから・・・。毎日『夢』で見てたのよ。今日の事を・・・。だから夜泣きが治らなかったの。だってそうでしょ?こんな夢を見て、起きたら目の前に私に銃を向けてる本人が居るのだから・・・。ママだって辛かったと思うけど私だって・・・」
カトレアは『ハッ』とした。
昔、子育てで悩みノイローゼ気味になった事を思い出したのである。
「そうだったのね・・・。そうとは知らず、自分だけが悩んでたと思い込んでたわ。ごめんなさい・・・マリア・・・。」
あの時、もっとしっかりしていれば違う結果になっていたかも知れない。
カトレアはマリアに向けた銃を降ろそうとした時、マリアの足元に人が倒れているのに気付いたのだ。
涙でボヤけているせいか、生きているのか気を失っているのかは分からなかったが、その人物はニックであった。
そうである。『黒い影』についてまだ何一つ解決していなかったのだ。
そんな倒れているニックの姿を見て、カトレアは銃を降ろすのをためらってしまったのであった。




