第一章 彼の名は。
ゾンビ映画あるある。
夢を語ったやつはだいたい死ぬ。
(トントン)
基地の一室にノックがなる。
「どうぞ。」
「失礼します。えー今回第238回目のチェックポイント設置が無事成功したことを報告に来ました。」
「それは良かった。今回もみんなの働きのお陰だよ。 勿論、キミ{祐雨}もね。」
「滅相も無い! 今回もただ奴らを地面に這いつくばらせただけです。」
「僕はね、祐雨君の能力を買ってるんだよ。それに君には何かを変えるような言葉では言い表せない何か強い力を感じるんだ。」
「僕は射撃が他の人よりちょっと上手なだけでそんな力なんて持ってません。」
「はは、そうか。でもきっと君にも分かるときがくるはずさ。」
そう笑うこの人こそ僕の、いや僕と妹を救ってくれた命の恩人。そして父のように優しく僕たちの面倒を見てくれたのも彼だった。
相模 優侍さん
拠点設置班、班長。そして山形に本部を置く新・日本国復興民間機構(NNO)下の東部方面復興戦士団団長だ。彼は今年で21になるらしいが、彼は幾度もの苦難を乗り越えてきた歴戦の勇士であり誰よりもその姿は大人びていた。
僕は彼に今回の成果を報告にいっていたのだ。
「そしてですけど、別働隊からの報告によると群馬県の吉井分屯地の弾薬庫を確保したとの知らせが入ったそうです。
自衛隊によって一部は持ち出されていたようですが多数の弾薬が見つかっています。」
「これで、弾薬の心配は無くなったかな?」
これまで弾薬は各地で確保していたが、十分な量は無かった。 その結果今回のチェックポイント設置における銃器の使用にも弾薬温存が強く意識されたため、各班員は数発の弾の使用しか認められなかった。勿論素人に与えるわけではなく、団長に認められた精鋭にしか最前線を行くことは許されない。 猟銃もある程度はあるがほとんどは基地の防衛用あるいは近接戦闘用に使われる2連ショットガンが殆どだった。
狩猟用の狙撃銃{スナイパーライフル}もあったが多数の感染者を相手にするには向かない。
銃器以外にもクロスボウや弓矢などがあるがクロスボウは数が少なく、弓矢は命中精度がかなり低くなってしまうため、接近戦による戦闘は避けられなかった。
だからこそ、今回の弾薬庫確保は我々にとってとても喜ばしい知らせだった。
「そういえば、 弥生ちゃん元気?最近忙しくて会えなかったから。」
「ああ、 ”妹”ですか?元気ですよ。 それもやかましいくらいですけど。」
相模さんは笑った。
「中学校、行けるようになって良かったよ。
そう各地の安全地帯では二年前まで使われていた校舎で学校の授業が受けられるようになったのだ。 ただし教員の数にも限界があるので地区は限られており、 僕の妹、弥生は第13基地周辺の安全地帯に隣接する中学校に通っている。
中学校といっても第13基地並みの要塞となっており、いざ感染者たちが現れても対処可能だ。
「祐雨君は高校へは行かないのかい?こんな血生臭いことやめて同世代の子たちと一緒にいたほうがいいとおもうんだけどね。」
僕は大きく首を振った。
「僕はあなたに一生ついていくって決めているので、そのつもりはこれっぽっちもありません。」
このまま学校にいけば、もう彼に会えなくなるようなそんな気がしたからだ。
そんな僕に彼はそうかと頷くだけであった。
「そういえば3時から”対人戦闘訓練”が始まるんじゃなかった?」
「あっ! 」
時計を見るともうすでに針は3時ちょうどを指していた。
「また、リンダに怒られるぞ。 」
相模さんは笑いながら言ったが僕にとってはある意味死を意味していた。
「す、すいません。これで失礼します!」
まずい、 またリンダさんにしごかれる。
決してやらしい意味では無く、割と本気で僕は焦った。
この物語はフィクションです。