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彼方へ。  作者: 逢坂瀬奈
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目覚めた私と胸のモヤモヤ。







「ここはどこだろう」


初めて見る真っ白い天井を見ながら知らないベッドの上で横たわっている。状況がいまいち把握できない。それを試みようと痺れたような痛みが残る体に無理矢理な力を入れて上半身を起こし、左半分しか見えない視界の中で辺りを見渡す。

知らない真っ白の部屋、知らないカーテンの柄、窓から見える知らない風景。

そこでようやく気づくことが出来た。


「ここは病院の病室だ」


と。



病院にいる理由も右目の視界が無い理由も分からない。

そういえば下半身も上手く動いてくれていない。

事故にでもあったのだろうか。

私の中には記憶も残っておらず、どうしても体が抱えている痛みについての原因が思い当たらない。


けれど違和感はそれだけに尽きなかった。否、それが私が持った一番の違和感だった。



──どうして私の体はこんなに成長しているのだろう。




頭を悩ませているうち、ドアをノックする音が聞こえた。

入ってきたのは40代半ばくらいに見える白衣を着た女性だった。

おそらくこの人が主治医なのだろう、と早々に見切りをつけた私は女性の話を聞く。


どうも私は約7年もの間、眠り続けていたらしい。


まだこうなる前の記憶すらもハッキリしていないので「らしい」としか言えないけど。

だからどうしても不安要素ばかりで訪ねたいことだってたくさんあるのだけど。

思い切って聞いてみようとも思ったが、どうしてか女性の悲しげな顔をこれ以上見ていられなくて、それ以上を言及するのはやめた。


それでも一つ安心した事がある。


7年以上も経っていればそりゃ体だって成長してて当然だよね、って事だ。

まだ大きさの違和感に慣れないけども早く慣れなきゃだね。


女性は最後に私の名前を教えてくれて、悲しそうで辛そうな顔をして病室を後にする。

女性の去り際の顔が強く印象に残ってしまった。


あの先生と私はどんな関係なのだろう。

以前に何か繋がりとかそういうのがあったのだろうか。








私にとっては『小学生になる前に事故に遭いました。私は7年も眠ってしまって起きたら12歳になっていました』くらいの記憶でしかない。

けれど今思い越せば、あれが全ての始まりで全てが変わってしまった運命の日だった。



私の名前は植村彼方。旧姓は不知火で、今は母である由紀菜の苗字と同じ。



病室で目が覚めたあの日、私は主治医だと勘違いしていた女性が実の母親だと知り、それと同時に本当ならば今頃同じように生きて同じように中学生として中学校に通っていたはずの同い年の妹が居た事を知らされた。

妹の愛以は彼女が6年生に上がったばかり頃──つまりは11歳の時に交通事故で他界したらしい。


遺影を見たことがないのでどんな顔、外見をしていたのかは教えて貰えていないけどとても母にそっくりだったそうだ。


私もよく近所のオバチャンから「お母さんそっくりね」なんて声を掛けられるのでやっぱり姉妹なんだなって思えちゃう。

私もその子もお母さん似なら、私とその子も似てたのかな。



私はずっと入院していたせいで小学校にも通っておらず、全くの学力の無いままに中学校に進学しました。

当然、そんな学力で授業に付いていける訳もなく塾だったり家だったりで猛勉強の毎日をこなしつつ、まあ今があるわけです。


回想はここまで。




中学二年生の始業式の日。

並んで体育館に向かい、始業式の長い目次を見て溜め息を吐きつつ、その課程を終える。

昨年こそ全てのことに関して「初めての」が付く私には何でも楽しく感じていて、長ったらしい校長の話ですら頷きながら楽しく聞けていたのだが、1年も経ってしまえばこんなものだ。


教室に戻り席に着いて復習でもしようか、と教科書とノートを取り出したまさにその時だった。


「おはよう、植村さん!」


隣のクラスの街田奏が声をかけてきた。

彼女とは一年生の時に同じクラスで仲は良い方だと思うけど、私は少し苦手だ。


「おはよう、街田さん。今日も元気だね」


「うん!だってもう二年生だよ、私達。今年は修学旅行もあるし、後輩も出来るし楽しみだね」


「そうだね。私、話せる人少ないから修学旅行までに話せる人増やさないとだ……」


私は一年生の時、皆に追いつくべく勉強ばかりしていたせいか交友の輪はあまり──というか全くと言っていいほど広がらず、唯一話せる人というのが奏だけという訳だ。


修学旅行について話をして、新学期の勉強の事、新しい担任についてなどを話し込んでもうすぐチャイムがなるという時間になり、奏は教室に戻ると言って立ち去った。

しかし、すぐに戻ってきて


「さっき言おうとして忘れてた本題なんだけどね」


今までのは本題じゃなかったんだ……と思ってしまったことは口には出さずに飲み込むことにします。そして少しばかり彼女テンションが低いことにも気づきます。


「実は私、課題終わってなくて……」


ああ、なるほど。つまり奏ちゃんは私に課題の話をするために始業式後にこの教室を訪ねた。しかし、当初の目的を忘れていて今になって戻ってきた、と。


「私は全部やって来てるから後で貸してあげるよ」とそう答えると彼女は「恩に着ます」とだけ残してすぐに教室をあとにしました。



チャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきました。


「はい、一年間君らの担任をする事になった竹原です。先生の自己紹介をする前に、先に転入生の紹介をしたいと思います」


先生がそう告げた途端、教室内が騒がしくなった。


小学生の頃から見知っていた同士が多かった中学校に知識ゼロ・知人ゼロという状態で入った私は転入生に少し親近感を覚えている。

仲良くなるのは難しいかもしれないけど、少しでも気持ちが分かる分、気遣ってあげたい。そう思う。


先生は一度廊下に出て、何らかの合図をしたのだろう。すぐに転入生を連れて戻ってきた。


どうしてだろう。その転入生を見た途端、こう、胸が苦しくなるような感覚に襲われる。

私は知らないはずの彼を知っている。

そんな気がした。


「本郷大和です。親の都合で隣の県から引っ越してきました。趣味は読書でゲームもよくプレイします。これから宜しくお願いします」


少しツン張った態度でそう挨拶をした彼。私は胸に残るモヤモヤの正体が何なのか分からないまま、拍手で彼を迎えてあげた。


普段なら人に声を掛けるような事はしない私だけど、どうしてもこのモヤモヤの意味が知りたくて彼に近づこうとした。

けれどそれはクラスメイトに阻まれる。


「本郷くん、カッコいいね」

「読書ってどんな本を読むの」

「どんなゲームをプレイしてたのかも知りてぇ」

「隣の県ってF県だよね?都会育ちいいなあ」


彼はクラスメイトの質問攻めにあってました。

いやはや、私の入る隙間なんてどこにもありません。ここは大人しく引き下がりましょう。


どうしてあの顔を見ると胸が苦しくなるのか。どうして頭が痛いのか。目の疼きも気になります。



こうして胸の閊えも無くならないまま、一ヶ月が過ぎてしまいました。



一ヶ月過ぎて分かったことがありました。彼は私と同じで人と話すのが苦手らしい、ということです。


最初こそクラスメイトの対応に真面目に答えていた彼も、自分から話しかけていく事はしなかったようで段々と一人でいる姿を見かけることが増えてきました。


彼のことが気になる私はほぼ毎日のように彼を見ていました。


昼休みも教室で一人読書をしていたり、図書館に向かっているところをよく見かけます。

図書館でもやっぱり一人でいる事が多いですね。

話す相手がいない訳ではないみたいだけど……。




奏に「ストーカー紛いの行為はそろそろやめない?」と声を掛けられてしまったある日、放課後の図書館に一人でいる彼を見つけ、私はチャンスだ、と思いました。


だから彼に聞いてみたんです。

「私達、どこかで会ったことはないか」と。


答えはノーでした。


彼は私と初対面で今初めて話した。そう言いました。それはそうですよね。私も今初めて話しました。


自分が変なことを言ってることに気づいて少し吹き出します。

そうすると彼も何がおかしかったのか吹き出しました。


少し似たもの同士な私達が少し仲良くなった瞬間でした。

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