血濡れの受付嬢と冒険者登録
ドーラ→アマンダに変えました。
「ぐあああああーっ」
「きゃあああっ」
思わず悲鳴をあげてしまった。だってもの凄い勢いで人が飛んできたんだもの。
叫びながらぶっ飛んできた男は入口から少し離れた壁に激突してからベチャッと倒れて白目をむいた。どうやら気絶しているらしい。一体何があったのかと男が飛んできた方向を見ると、恐らくギルドの職員と思われるピンク髪の女性が「フンっ」と鼻息も荒くパンパンと手を払っているのが見えた。状況から考えてこの女性が男をぶん殴って気絶させた張本人らしい。
ギルドに入って二秒でいきなり理解不能な場面に遭遇してしまった私が固まっていると、アマンダさん達は何事も無かったかのように進んでいく。ガルドさんが苦笑いしていたので尋ねてみると、「いつもの事だ」と返された。見れば周囲にいるほかの冒険者たちも気絶した男に憐れみの視線を送るだけで特に驚いた様子もない。それどころか「あーあ、また犠牲者が出たよ」とか「今週三人目だな。まあ”血濡れの受付嬢”に殴られて気絶で済んだんだからマシってもんだろ」といった、この様な出来事が頻繁に起きているということを示す言葉が聞こえてくる。
なんか怖い呼び名も聞こえた。
「あっ、アマンダさんにガルドさんお帰りなさいですぅ!」
その女性は近づいてくる私たちに気づいてパッと顔を輝かせて舌っ足らずな声で挨拶してきた。可愛らしい笑顔だけどその頬に血が点々と散っているのが怖い。
「ただいまモニカ、今日も絶好調みたいだねえ。またアホな男に口説かれでもしたのかい?」
女性はモニカという名前らしい。私は興味本意でモニカさんを解析してみた。
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名称:モニカ
レベル:52
種族:人間
状態:健康
魔素値:120
筋力:245
防御力:150
敏捷:173
知力:145
スキル:〈拳闘術LvMax〉〈瞬歩Lv4〉
〈礼儀作法Lv2〉
〈身体強化Lv5〉〈????Lv?〉
称号・加護:〈拳闘士〉〈魔物の天敵〉〈血濡れの受付嬢〉〈ストーカーの天敵〉〈痴漢の天敵〉
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レベル高っ。モニカさんは想像以上に強かった。筋力などは私の十倍を軽く超えている。しかも解析出来ないスキルがあるので、希少以上のスキルを持っているのだろう。それに称号が凄い。
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〈拳闘士〉
スキル〈拳闘術〉を極めた者である証。
武器を使わない場合筋力100Up
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筋力100Upってスゴ……。
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〈魔物の天敵〉
魔物を千体以上倒した者である証。
自身より低レベルの魔物に威圧効果
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この人本当に受付嬢なんだろうか。後の三つの称号も大変気になるが時間が無かった。
アマンダさんに尋ねられたモニカさんはほわ~んと笑いながら「はいぃ、それだけならまだ良かったんですけどぉ、丁寧にお断りしたのにあの”ピーッ”男が逆ギレしてきましてぇ、ギルドの悪口言ってきたのでついぶっ殺したくなっちゃったんですぅ」と、これまたほわ~んとした口調で答えた。のんびりした口調と言葉の内容のギャップが凄まじい。
「ほどほどにしておきなよ。この前もギルドに難癖つけてきた奴隷商人を半殺しにして逆に慰謝料までぶんどってたじゃないか。あれは流石にアタシも相手に同情したよ」
「はいぃ、分かりましたぁ。半殺しにしなければいいんですねぇ」
「いや、まずムカついた奴を誰彼構わずぶん殴るのを止めろよ」
とガルドさんがツッコむ。
「そういえばお二人は人喰いの森に食人鬼の討伐に行ってたんですよねぇ」
が、モニカさんは華麗にスルー。
「ああ、依頼達成の報告に来たんだ。頼めるかい」
「分かりましたぁー」
モニカさんはギルドの一番奥にあるカウンターを「えいっ」と跳び越えて椅子の一つに腰掛けた。
「えっと、依頼内容は人喰いの森に生息する食人鬼の討伐及びその魔石五つの納品ですね。こちらに討伐証明部位の牙と魔石をお願いします」
モニカさんの口調が変わった。仕事になると言葉遣いを切り替えるらしい。アマンダさんはカウンターに置かれたトレイに、持っていた袋から取り出した鋭い牙を数本と、紫色の結晶を五つ置いた。モニカさんは魔石を調べた後、カウンターの下から袋を取り出した。
「食人鬼の討伐依頼達成確かに確認いたしました。報酬の五万セレナになります。ご確認ください」
アマンダさんは差し出された袋を受け取り中身を確かめてからベルトのポーチに入れた。
「新しく依頼を受けますか?」
「いや、冒険者稼業は数日ほど休むことにするから今日は受けないよ。その代わりというか、この子の冒険者登録をしてやってくれないかい」
「この子?」
なんとモニカさんは私に気づいていなかったらしい。アマンダさんが私の頭をポンと叩いてみせてやっと気づいた。ダンカンさんといいモニカさんといい、なぜ私に気付かないのだろう。私の背が低いせいかな。なんとなくモニカさんは自分の興味がある物しか見えてないような感じがするけど。
「この子どうしたんですか?」
「人喰いの森で倒れていたのを助けてね、暫く面倒見ることにしたのさ。それでこの子が冒険者になりたいって言うんで連れてきたんだ」
「へぇ~それはまた物好きな子ですね。よりにもよって冒険者とは」
ほっとけ。
「確かに物好きだけど一人でゴブリンライダーとフォレストウルフを倒せるだけの実力はあるよ」
「なるほど、それは将来有望かもしれませんね。まあ本人の希望ならギルドとしては構いませんよ。少々お待ちくださいね」
そう言ってモニカさんは一枚の書類と金属製のプレートを取り出した。
「この書類に貴女の名前と種族を書くのですが、代筆は要りますか?」
文字は読めるけど書けないので代筆をお願いする。
「名前はレイカ。種族は人間です」
「はい、ありがとうございます。次にこの金属板に一滴ほどで良いので血を垂らしてください。この金属板はギルドカードという魔法具でして、所有者のステータスの一部やギルドへの貢献度が分かるのです」
針で人差し指を刺してギルドカードに血を垂らすと、カードは一瞬光ってすぐに消えた。
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レイカ
レベル6
魔素値15650
筋力20
防御力20
敏捷25
知力25
冒険者ランクF
貢献度0
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ステータスは名前とレベル、各種のスペックのみ記されるらしい。
「これで貴女の冒険者登録は完了です。ギルドについての説明をいたしましょうか?」
だいたいラノベとかと同じ様な説明だろうとは思ったけど、ありがたく聞くことにする。
「お願いします」
「分かりました。ではまずギルドカードの説明から。ギルドカードの一番下に貢献度というのがありますが、これは依頼達成の度に溜まっていき、一定以上の値になると冒険者としてのランクが上がります。ギルドカードは紛失した場合罰金と再発行が必要となるので管理にはご注意下さい。次にランクについてですが、ランクは下からF、E、D、C、B、A、S、SS、SSSの10個あります。
なお、S、SS、SSSの三つのランク以外のランクはランクによって受けられる依頼が決まっていて、自分のランクと自分より一つ下、一つ上のランクの依頼を受けることが出来ます。例えばDランクだとE、D、Cの三つのランクから依頼を受けることが出来るということですね。C以上のランクに上がる際には昇格試験があります。他に聞きたいことはありますか?」
「じゃあFランクからEランクに上がるには貢献度はどれ位いいるかお聞きしてもいいですか?」
「FからEに上がるために必要な貢献度は50です。早ければ五日ほどで昇格出来ますよ。」
「ありがとうございました。とてもわかり易かったです」
「どういたしまして。ではさっそく依頼を受けますか?」
「はい。お願いします」
「ではギルドの右手にあるボードから自分が受けたい依頼の依頼書をカウンターに持ってきてください。手続きをいたしますので」
私は小走りでボードに駆け寄った。アマンダさんとガルドさんも微笑ましいものを見る目付きで付いてきた。
(どんな依頼があるかな〜っと)
Fランク依頼〈街の清掃〉
大通りの清掃をしてもらいます
大変だけど頑張って!
報酬:60セレナ
貢献度:6
Fランク依頼〈鉱石運び〉
2番街の鍛冶屋に鉄鉱石を運んでもらいます。力自慢募集!
報酬:運べた量に比例
貢献度:運べた量に比例
Fランク依頼〈屋台の売り子〉
可愛くてよく働く人募集!
報酬:55セレナ
貢献度:4
「……」
まあ、分かってたけどね。やはり最低ランクの依頼には討伐などは無く雑用が殆どだ。私の微妙な表情を見てガルドさんが笑って言った。
「ガハハっ、Fランクの依頼なんてこんなもんさ。討伐系の依頼があるのはEランクからだ。まずは雑用をして要領を覚えなさいってこった」
「そうだよ。それにFランクの依頼には街の人と親交を深めるって狙いもあるんだ。最初は素直にFランクの依頼にしときな」
うっ、正論だ。そうだよね、まずはとにかく依頼を受けてみよう。
そうして私が選んだのはFランク依頼〈鉱石運び〉だ。選んだ理由は私にはアイテムボックスがあることと、運べた量に報酬が比例するということがある。アイテムボックスは最大で1000キロ運べるからそれなりの稼ぎになる筈。それに恐らくこの鍛冶屋というのはダンカンさんの店だと思うから、挨拶しておきたかったのだ。依頼書を見たモニカさんは驚いていたが、アイテムボックスのことを言ったら納得してくれた。
でも、「冒険者は軽々しく自分の情報を晒すものではありませんよ」とやんわり注意されてしまった。気をつけよう。
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