いざ冒険者ギルドへ!
冒険者登録は次回になります。
ファーランの街に入った私達は現在アマンダさんたちが泊まっているという「岩熊の巣穴」という宿屋に向かっている。道中珍しいものだらけで私が急に立ち止まったり迷子になりかけたりといった事があったけど、十分ほどで二階建ての建物の前に着いた。
着いたのだが……その宿屋はなんと言うか……ボロかった。塗装はところどころ剥げてるし、看板も傾いている上に文字も掠れてる。あ、今わかったけど私この世界の文字普通に読める。恐らく女神様が気を利かせてくれたのだろう。
私が突っ立っているとアマンダさんたちはサッサと入っていってしまったので、私も慌ててあとを追いかける。入ってみると宿の1階は食事処になっていて、今も数人のお客さんが遅めの朝食を食べていた。2階が宿泊施設らしい。外観と違って中は小綺麗で居心地が良さそう。
(どうせなら外見ももう少し綺麗にしたらいいのに)
私がそんなちょっと失礼なことを考えていると、
「おお、アマンダにガルドじゃねえか。三日ぶりぐらいか?」
丁度食事を終えたところらしい日焼けしてガッチリ体型のオッサンが声をかけてきた。
「ああ、ちょっくら人喰いの森へ食人鬼の討伐にね」
アマンダさんの反応からそれなりに親しい関係だとわかる。そのオッサンはガルドさんとも暫く言葉を交わした後、やっとアマンダさんの背後に隠れている私に気がついた。
「ん?誰だそこのちっこいフードマントは」
私がフードを深く被っているためか、声に少し警戒が滲んでいる。私はフードを脱いでアマンダさんの前に出て、ペコりと頭を下げる。
「はじめまして、私は二条麗華。人喰いの森でドーラさんたちに助けていただいた者です」
顔を上げるとオッサンは目を見開いたまま固まっていた。何か言っては不味い事でもあったのだろうか。私が困惑していると
「まあ、そういう事だから警戒しなくていいよ」
アマンダさんがオッサンに声をかけた。
「あ、ああ、分かった。しかし、人喰いの森で倒れていたって、よく無事だったな」
話しかけられてオッサンは硬直が解けたらしく、私が人喰いの森で倒れていたという事に驚いていた。
「まあ、運が良かったんだろうさ。どうやら行く宛がないみたいだからアタシたちが暫く面倒見ることにしたんだ」
「なるほどな、嬢ちゃん、警戒して悪かったな。俺はダンカン。この街で鍛冶屋兼武器屋をやっているもんだ。アマンダとガルドはうちの常連でな、それなりに長い付き合いなんだ」
へえー鍛冶屋か。ムキムキなのはそのせいかな。
「ダンカンさんですね。よろしくお願いします」
「おう、もし武器が必要になったら2番街にある俺の店に来な。サービスしてやるよ。じゃ、俺は仕事があるんでな 」
そう言うとダンカンさんは宿屋から出ていってしまった。
「顔は怖いけどいい人ですね」
私が笑いながら言うと
「くく、顔のことは言ってやるな。あれで結構気にしてるんだ」
ガルドさんも笑いながら答えた。
「さて、とりあえずアタシ達の部屋に行こうか。そこでレイカ、アンタの今後についても話し合うとしよう」
部屋は二階の廊下の突き当りにあった。家具は一人用のベッドが二つにテーブルが一つと椅子が二脚と少ないけど、ちゃんと掃除がされているらしくみすぼらしいという感じはしなかった。荷物を置くとアマンダさんが切り出した。
「さてレイカ、率直に聞くがアンタなんかやりたいことは無いかい?流石にアタシたちもずっとアンタの面倒を見ることは出来ないから、何かしら生きていくための仕事を見つけないとね」
仕事か……まあ、やっぱりあれだよね。
「私、冒険者になりたいです」
私がそう答えるとアマンダさんは顔を顰めた。
「本気かい?冒険者ってのはアタシが言うのもなんだけどロクな仕事じゃないよ。確かに誰でもなれるけどしょっちゅう人は死ぬし、それなりの実力がつくまでは稼ぎも良くない。アンタは見た目も良いし頭も悪くなさそうだから他にも選択肢はあると思うけどねえ」
アマンダさんが私のことを心配してくれているのが分かる。でもこれだけは譲れない。
「それでも、私は冒険者になりたいです」
「そうかい、アンタがそれがいいと言うなら構わないけどね。それに冒険者になるのならアタシ達もそれなりのサポートはしてやれるだろうし」
私の答えにアマンダさんはため息を吐きながら答えた。
「くくっ、そうと決まればさっそくギルドへ行くか。俺たちの依頼達成報告のついでにレイカの登録も済ませるとしよう」
ガルドさんは特に反対する様子もなく、楽しそうだった。
「はぁ、全く何だって冒険者になんかなりたいのかね。ああ、それとレイカ、アンタギルドではフードを脱ぐんじゃないよ」
私はドーラさんの言っている意味がわからず首を傾げる。
「フードを?何故ですか?」
「何故ってアンタ、さっきのダンカンの反応を見て分からないのかい?」
ダンカンさんの反応?そう言えば私が挨拶した時すごく驚いてたっけ。でも、何でそれがフードを脱いじゃいけないことに繋がるのか分からない。私の顔が変だったのかな……。転生したって言っても前世と顔は変わってないはずだからブサイクではないと思うんだけど。ああ、そう言えば瞳の色を金色にして下さいって希望したけど、それだけだし。
私が頭の上に「?」を浮かべていると
「その様子だと自覚がないらしいね」
アマンダさんが頭が痛いというように話を続ける。
「いいかい、アンタの髪は黒くて瞳は金色だろう。それはこの世界を創ったと言われる女神様の特徴と同じなんだよ。その上アンタは顔も結構整っているから厄介ごとに巻き込まれる可能性が高いんだ」
(えっ、つまり私モテモテって事?)
「アンタ本当に分かってるのかい。下手したら攫われてもおかしくないんだよ」
私が少し浮かれているのが分かったのだろう。アマンダさんは怒ったように言った。尻尾が不機嫌そうに揺れている。
「ごめんなさい」
怖かったので素直に謝っておく。
「分かったならいいんだよ。まあアタシ達と一緒にいる限りそんな事はさせないから安心しな」
アマンダさんは最後にそんな頼もしい言葉をかけてくれた。それから私達は宿屋の1階で食事を済ませて(パンとシチューだけだったけどすごく美味しかった。やっぱりこの宿はもっと外見の修理をするべき)冒険者ギルドへ向かった。
どうやらギルドは街の中心部にあるらしく、周囲はとても賑やかだ。そして到着したギルドは石造りの無骨な建物で、外見よりも機能性を重視した感じだった。正面入口の上には剣と杖を盾の上でクロスさせたものが飾られている。
(剣と杖かあ、剣士か魔法使いどっちにしようかな。いっそのこと両方やってみようかな)
私がワクワクしながらアマンダさんとガルドさんのあとに続いてギルドに入ると
「ぐわあああーっ!!」
いきなり人がぶっ飛んできた。
眠い……。