新しいスキルとファーランの街へGo!
なかなか話が進まない
久しぶりに夢を見た。もう顔も思い出せないお母さんが笑っていて、お父さんは寡黙だけど優しくて、皆で一緒にご飯を食べている夢。寝る前に本を読み聞かせて貰った夢。私が幸せだった頃の夢………。
目を開けると空はまだ薄暗く、朝日が昇る前のようだ。上体を起こし辺りを見回すと焚き火の燃えカスと、それを囲む様にして横になっているアマンダさんとガルドさんの姿が視界に入った。寝起きの冴えない頭でしばらくボウっとしていたら昨晩のことを思い出した。顔が熱くなる。その日会ったばかりの人たちの前で子供のように泣いてそのまま寝てしまった……。恥ずかしい。でも、不思議と気持ちが軽くなった気がする。
そうこうしているうちにアマンダさんが目を覚ましたようだ。起き上がっている私を見て
「おはよう。よく眠れたかい?」
と声をかけてきたので
「はい、お陰さまで久しぶりに気持ちよく眠れました」
と返すと、
「そりゃよかった」
と笑みを浮かべた。アマンダさんは立ち上がると
「ガルド起きな!もう朝だよ!」
いきなりガルドさんを蹴りつけた。
「あぁ……。へいへい、起きたましたよ」
ガルドさんは蹴られたことを特に気にした様子もなく起き上がった。どうやらこの光景は毎朝のことらしい。朝ご飯は、昨日のスープの残りに硬いパンのようなものを浸して食べた。食べながら聞いたところによると、二人は食人鬼の討伐依頼を受けてこの〔人喰いの森〕へ来て依頼を達成し、帰る途中で血まみれで倒れている私を発見したそうだ。ていうか〔人喰いの森〕って名前怖っ。
それにしても、食人鬼か……。そうすると私はゴブリンライダーよりもずっと凶悪なモンスターに遭遇していた可能性もあった訳だ。しかも私が適当に選んだ方向は森の外へと向かっていたらしいし、その上大怪我でそのまま死んでたかもしれない私が二人に発見されるなんて、私は相当運がいい。そう言えばスキル欄の〔生命神の加護〕の効果の一つに〔幸運〕っていうのがあったはず。
ありがとう女神様。この前は残念女神とか言ってごめんなさい。
丁度いい機会だし、自分のステータスを解析してみる。
「解析」
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名称:二条麗華
種族:人間(異世界人)
レベル:6
状態:貧血(小)
魔素値:15665
筋力:20
防御力:20
敏捷:30
知力:30
スキル:〈アイテムボックス:Lv1〉〈解析:Lv3〉〈木登りLv1〉〈隠蔽:Lv1〉〈最適化:Lv--〉〈感情分離:Lv--〉
称号・加護:〈異世界からの来訪者〉〈生命神の加護〉〈格上殺し〉
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まず、レベルが一気に5上がっていた。やはり自分よりかなり高レベルのモンスターを倒したせいだろう。魔素値も微妙に上がっている。確か以前の値が15650だった筈だから15上がった事になる。基準がよくわからないな。あとは筋力と防御力が15ずつ、敏捷と知力が20上がってる。
状態は貧血(小)か……。まああれだけ出血したら貧血にもなるか。そしてスキルだ。〈解析〉のレベルが上がってLv3になっていた。なになに……。
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〈解析Lv3〉階級:希少級
対象の名前、種族、状態、レベル、ステータス、所持している階級〈一般級〉までのスキルを解析可能。
ただし対象が〈ステータス隠蔽〉のスキルをLv2以上で所有していた場合抵抗される。自身のステータスは全て解析可能。
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ステータスが詳しく見れるようになっていた。相手の持つスキルが〈一般級〉までとはいえ分かるのは戦闘に置いてかなりのアドバンテージになる筈だ。その上新しいスキルが二つもある。〈木登り〉はおそらく何度か木に登ったために入手したのだろうが、ハッキリ言ってあまり使い道がなさそうだ。それよりもよっぽど気になるスキルがある。
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〈隠蔽Lv1〉階級:一般級
使用時に自分の気配を周囲から隠蔽する。
Lv1ではあまり効果は高くなく、少し注意深く見られると解けてしまう。
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これはおそらくゴブリンライダーとフォレストウルフから隠れていたために入手したのだろう。Lv1のままでは隠れんぼぐらいにしか使えなさそうだけど、Lvが上がれば有用なスキルになるだろう。最後に称号・加護だけど……。
〈格上殺し〉
なにやら物騒な称号がある。
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〈格上殺し〉
自らの十倍以上のレベルの者を倒した者に与えられる称号。
効果:自身よりレベルが上の相手を倒した場合に限り取得経験値100%Up
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チートキター! 自分よりレベルが上の相手っていう制限はあるけど〈異世界からの来訪者〉と同じ取得経験値100%Upの効果を持つ称号ゲット!これで私は他人の三倍の経験値を得る事が出来るという事だ。それにしても、取得条件鬼畜過ぎない?何よ「自らの十倍以上のレベルの者を倒す」って。
この条件は自身のレベルが上がれば上がるほど満たすのが難しく……っていうか不可能になる。レベルが1だと倒さなければならない相手のレベルは最低10。確かに十倍というのは大きな差だけど、単純な引き算で考えたらその差は9で、何とかならなくはない。でもこれが仮にレベル10だったなら倒さなければならない相手のレベルは最低100。十倍というのは同じだけど、単純なレベル差は90。
ね?どう考えても鬼畜でしょ?つまりこの条件を満たすのは自分のレベルが1の時じゃないと実質不可能に近いってこと。……やっぱ私、運がいいわ。
次になんとなくアマンダさんを解析してみる。
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名称:アマンダ
種族:獣人
レベル:57
状態:通常
魔素値:105
筋力:290
防御力:185
敏捷:220
知力:105
スキル:〈槍術:Lv9〉〈暗視:Lv4〉〈先読み:Lv5〉〈身体強化:Lv6〉
称号・加護:〈槍術士〉〈Bランク冒険者〉〈魔物の天敵〉
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おお、解析出来る項目が増えてる。それにアマンダさんかなりの実力者だったらしい。
そうこうしているうちにアマンダさんとガルドさんは夜営の後片付けを終えたらしい。私も何か手伝いたかったけど、夜営どころかキャンプすらした事がないので〈最適化〉を使おうにも明確なイメージが出来ず、突っ立っているしかなかった。二人ともリュックを背負っており、アマンダさんは槍を持っていて、ガルドさんは腰に剣を提げている。流石に私だけ何も持っていないのは心苦しかったので、アマンダさんに頼んで主に鍋など調理道具が入っている小さめの袋を持たせて貰った(後でアイテムボックスを使えば良かったと気づいた)。その時にアマンダさんが
「アンタはこれを羽織っときな」
とフード付きの外套をくれた。そのまま二時間ほど歩くとだんだんと周囲の木が疎らになってきた。途中三回ほどゴブリンやフォレストウルフに襲われたけど、どれもガルドさんが瞬殺してしまった。私が目を輝かせて見ていると、
「調子に乗ってんじゃないよ」
とアマンダさんに怒られていた。どうやら私にいい所を見せたくて張り切っていたらしい。やがて森を抜けると辺りには特に何もなく、道が一本延びていた。アマンダさんが
「あと一時間ほど歩くと今アタシとガルドが拠点にしているファーランの街に着くよ」
と教えてくれた。その言葉どおり暫く歩くと外壁に囲まれた街が見えてきた。外壁で中の様子は見えないけど、正面には大きな門があるのが分かった。
門の前には二人の槍を持って簡素な鎧を身に付けた男性(おそらく衛兵?)が立っていて、ガルドさんが二人に近づいていって何やら話している。どうやら私に関することらしい。暫くは街に入れないかなと思っていると話がついたらしく、ガルドさんが私とアマンダさんを呼んでいる。てっきり質問とかされると思ってただけに拍子抜けした気分だ。 そのまま私達は門をくぐり、ファーランの街へと足を踏み入れた。
「うわぁ-」
眼前に広がる風景はまさにファンタジー。
目の前には幅十メートルぐらいの広い道があり、地面はレンガが敷き詰められている。通りにはさまざまな店が並び、店主が熱心に客引きをしている。通りを歩く人の中にはアマンダさん達と同じような耳や尻尾が生えた人や、身体に鱗が生えた人、中には翼が生えている人もいた。文化レベルは中世のヨーロッパぐらいだろうか。
雰囲気に圧倒されている私にアマンダさんが芝居じみた調子で
「ようこそ、ファーランの街へ」
と笑いかけてきた。
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