初めての戦闘
戦闘描写が難しいです
いま私は、頭の中で「女神様ーー」とか「返事してくださーい、女神様ー」とか「返事しろよこの駄女神!」だとか叫んでいる。だが一向に返事がない。寝ているのだろうか。
「はあ、こんなこと続けてても時間の無駄ね…」
私は早々に諦め、まずはこの森から出ることにした。女神様とのお話はまた今度にしよう。だが、
「とは言っても、どっちにすすめばいいんだろ。それに魔物とかに襲われたりしないかな」
そう。どっちに進めば森から出られるのかまったく検討がつかないのだ。その上、私の今の装備は
・学生服
・なんの変哲もない木の枝(長さおよそ60cm)
これだけだ。初期装備としてたいへん心もとない。こんなことならチート武器でももらえばよかったかな。今さら言っても後の祭りだけど。
「はあ、まあそんなこと言っても始まらないし、とりあえず森から出る努力をしますか」
流石に武器が枝だけでは不安なので手ごろな大きさの石を五つほど拾ってアイテムボックスに入れておく。どの方向に進むかは木の枝を地面にたてて、それが倒れた方向に進むことにした。
「えいっ」
枝は私からみて右側に倒れた。
「よし、行こう!」
こうして私は、不安しかない記念すべき冒険の第一歩を踏み出した。
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「はあ、ふう」
あれからもう三時間ほど森のなかを進んでいるが、木々が途切れる様子はない。歩きにくかったので〈最適化〉を使用し、(イメージしたのは足場の悪いところでも軽やかに歩ける)かなり体力の消耗を抑えることができたけど元が運動音痴のもやしっこなので流石に疲れてきた。
「ふう、少し休憩っと」
私はちょうどいい高さの木の根っこに腰かけて、息を整える。
「でも、もっと魔物とかに襲われるかと思ってたけど、ぜんぜん襲われないわね」
私が読んでいた小説ではゴブリンとかスライムとかウルフとかお決まりのザコ敵がおそってくきてたけど、そんな気配は全く無い。このとき私は疲れて思考力が低下していたのだろう。
「まあ、襲われないに越したことはないんだけどなんか退屈よね」
と、どう考えてもフラグでしかない言葉を呟いてしまった。
ガサガサッ
「!!!」
私の右斜め後ろの方向から音が聞こえた。
(き、気のせいだよね)
そんなわけ無いと思いながらも現実逃避してしまう。
「ゲギャギャッ」
そんなアホなことを考えているうちに、不快感を誘う鳴き声まで聞こえてきた。
(ヤバっもっと開けた場所に行かなきゃ!)
五十メートルほど前方に周囲より木がまばらな場所がある。私は地面に足をとられそうになりながらも必死で走った。たった五十メートルの距離がとてつもなく長く感じる。やっとの思いで木の後ろに飛び込むように隠れる。
「ハッ、ハッ、ハッ」
さっきまでの疲労ではなく、恐怖により息が荒くなる。心臓が痛いほど早鐘を打つ。冷や汗が流れる。数十秒前の呑気な自分をぶん殴ってやりたい。ただただ怖い。
(ダメだ、落ち着かなきゃ)
乱れた息をどうにか落ち着ける。私は意を決して木の陰から顔をだし、注意深くさっきまでいた木の近くを見る。
「ギギャッ」
数秒後、緑色をした身長一メートルぐらいの生き物が現れた。頭部は毛がほとんど無く、目は黄色く濁り血走っている。手には錆びたナイフのようなものをもっていて体に纏っているのは薄汚れた動物の毛皮のような腰巻きだけだ。
まだ此方には気づいていないようだが盛んに辺りを見回している。やはりというか獲物を探しているようだ。今すぐ逃げ出したいのをこらえ、解析を試みる。
(解析!)
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種族:ゴブリン(ゴブリンライダー)
レベル:11
状態:狂化
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やはりゴブリンだった。レベルも地味に高いし状態も変だ。しかもゴブリンライダーという種類らしい。
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〈ゴブリンライダー〉
ゴブリンがレベル10で進化する上位個体の一つ。
ゴブリンマジシャンやゴブリンソードマンよりは驚異度は低いが、騎獣との連携は厄介。
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どうしよう。最初の敵が進化個体とか。それに騎獣ってことは……。私の嫌な予感は的中し、ゴブリンの後ろから一匹の灰色の狼が現れた。
(解析……)
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種族:フォレストウルフ
レベル:6
状態:テイム
森に生息する狼。ゴブリンライダーの騎獣と言えばだいたいこれ
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どうやらこいつがゴブリンの相棒らしい。ゴブリンよりレベルは低いけど、私からしたら十分驚異だ。私が今とれる選択肢は…
1.こっそり逃げる
2.このまま隠れてやり過ごす
3.戦う
これだけだ。1は魅力的だけど絶対見つかるし速さで負けるので却下。2は……ダメだ。フォレストウルフは多分鼻が利くだろうし、そもそも隠れる場所がない。となると……3しか無いのか。正直、ここまで怖いとは思わなかった。今まで私は無意識にゲームなどと同じように考えていたのだろう。
でも、やるしかない。そうと決まれば迷っている時間はない。まず、どのタイミングで仕掛けるかだ。おそらくゴブリンとフォレストウルフは私の匂いを追ってここまで来るだろう。現に今も地面を嗅いでこちらに近づいてきている。
(なら、上から奇襲するしかない)
私は〈最適化〉を発動し、隠れていた木によじ登る。見つからないように少しゆっくり上ったため、地上五メートル程の枝に登ったときにはゴブリンとフォレストウルフはもう十メートル先まで近づいていた。アイテムボックスから木の枝と石をとりだし構える。五メートルまで近づいた。まだ気付いていない。三メートル、二メートル、一メートル…遂にゴブリンが私の真下まで来た。左手に持っていた石を離れた茂みに投げつける。茂みが揺れる音がしてゴブリンとウルフの意識がそちらに向いた。
(いま!)
足場を蹴って飛び降りながら〈最適化〉を「一撃で相手をしとめる」イメージで発動する。私の腕が固定され、ゴブリンの首めがけて枝を突き出す。ズグッ、と肉を抉る嫌な感覚が私の手に伝わると同時にゴブリンの凄まじい絶叫が上がる。
「っ、まだ死んでない!」
レベル差のせいか一撃で倒すことはできなかったらしい。ゴブリンがナイフを滅茶苦茶に振り回す。
「痛っ」
かわしきれず、腕を浅く切られた。
「最適化!」
ゴブリンの振り回すナイフを取り上げるイメージ!私はゴブリンの腕を掴み手首を捻りあげる。ゴキリと音がし、ゴブリンがナイフを取り落とす。すかさずナイフを取り上げ、その勢いのままゴブリンの喉目掛けて切りつける。
手応えがあった。
勝ったと思ってしまった。
それゆえ、一時的にフォレストウルフのことを忘れてしまっていた。
気を抜いてしまった。
肩に激痛が走る。
「いっああああぁぁああぁーっ!」
フォレストウルフが私の右肩に牙を突き立てていた。
血が溢れてくる。
痛い 痛い 痛い 痛い 痛い 痛い 痛い 熱い 熱い 熱い 熱い 熱い 熱い 熱い 熱い!!
痛みを通り越してもはや熱さしか感じない。こんな痛みを受けたのは生まれて初めてだ。視界が赤く染まる。
「ぐううっ、ああぁあーっ!」
私は手に握ったナイフを滅茶苦茶に背後に突きだした。〈最適化〉を使う余裕も無い。何度もナイフが肉に刺さる感触が伝わってくるが、フォレストウルフは噛みついたまま離れない。
どれ程時間がたったのだろう。おそらくほんの十数秒だったのだろうが、私には数分にも感じた。気づけば目の前二メートルほど先にはゴブリンライダーの死体が転がっており、フォレストウルフは私の肩に噛みついたまま絶命している。
私の手はまだナイフを握ってフォレストウルフを刺していた。どうやら偶然心臓にナイフが刺さったらしい。
「はあ、はあ、はあ……」
私の顔は涙でグシャグシャだ。ふと死んだゴブリンと目が合った。
「っっっ!」
その瞬間私は理解してしまった。たった今、自分の手で生き物を殺したのだということに。手のひらにゴブリンを殺したときの感触がよみがえってくる。
「うっ、おええぇ」
吐き気がこみ上げてくる。私はみっともなく嘔吐しながら泣き続けた。やがて出血のショックと極度の精神的疲労によって私は意識を失った。
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《その頃の女神様》
「ふへへっ麗華さんったら、そんなに褒められたらわたしてれちゃいますぅ~zzz」
呑気にお昼寝中でした。
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