衛兵の詰所へチンピラを連行しよう
こんばんは。冒険者のランクにFを追加しました。それに伴って主人公の冒険者ランクもEからFに変更してあります。
気絶した二人のチンピラは、武装を剥ぎ取られたうえで男の子がその辺から探してきたロープでぐるぐる巻きにされて転がっている。当分目を覚ますことはないだろう。このまま放置してもいいかなと思ったけど、男の子によると街の衛兵につきだしたら僅かではあるが報酬が貰えるらしい。
私は貰えるものは貰っておく主義なので、衛兵の詰所まで男の子に案内してもらうことにした。男の子は「二人とも僕が運んでいくよ」と言っていたが、比較的細身のカスールを持ち上げた時点で結構限界そうだったので、見かねた私がなおも渋る男の子を説得してもう一人を担当して運んでいる。
なお、男の子が担当しているカスールは、ちゃんと(?)肩に担がれているが、私の担当しているダスは足を肩に担がれ、地面で後頭部を削りながら運ばれている。別に私がそうしようとした訳ではない。最適化さんにお任せしたらこうなってしまっただけだ。詰所に着く頃には後頭部がかなり悲惨なことになっているかも知れないけど、自業自得である。そんなダスの姿を見た男の子の顔が微妙にひきつっていた様に見えたけど、多分気のせいだ。私、悪くない。そんなことを考えながら歩いていると、まだ男の子にお礼を言っていないことに気が付いた。
「あの、さっきはありがとう。とても助かったわ」
「はは、お礼なんていいよ。結局何も出来なかったし、逆に助けられちゃったしね」
声を掛けると男の子は照れくさそうに笑いながらそう言った。
「そんなこと無いよ。私、君が来てくれたときとても嬉しかったよ?」
「いやあ、あの時はなんでか気付いたら走り出してて。ほんとは怖くて堪らなかったんだ。それに君が一人を倒してる間、僕は防戦一方だったしね」
そうかな? 確かに危なっかしかったけど、剣の扱いはダスよりも上手かったし、カスールに押されていたのはレベル差のせいだと思う。
会話しながら一瞬解析で調べてみたら、男の子は案の定レベル4と私より低かった。そりゃ無理だわ。よく瞬殺されなかったものである。まあ男の子が強かったと言うよりはカスールが相手を舐めすぎていたというのもあるだろうけど。
「そう言えば、まだ自己紹介してなかったね。僕はライノス=エル=ファーラン。ライノスって呼んでよ」
今度は男の子の方から話しかけてきた。
「私はレイカ=ニジョー。今日この街に来たばかりの新米冒険者よ。よろしくね。ライノス」
「へえ! 君も冒険者だったんだ。僕も丁度昨日登録したばかりの冒険者なんだ。こちらこそよろしくね。レイカさん」
聞けばライノスも冒険者初仕事として大通りの清掃をしてギルドに報告に行き、帰る途中で私が絡まれている場面に遭遇したらしい。
「そう言えば、あの時相手を素手で瞬殺してたけど、何か武道系のスキルでも持ってるの?」
「え? いや、そういうわけじゃないけど」
確かに熟練の技っぽいなと自分でも思ったけど、特にそんなスキルは持っていない……はず。〈木登り〉の例があるから知らないうちに獲得してたって可能性がないわけじゃないけど、少なくともあの時点では持っていなかった筈だ。
「じゃあ単純な体術で倒したってこと? 凄く強いんだね!」
うーん、ほめられてるんだろうけど、強いって言われてもあまり嬉しくないというか、複雑というか。ライノスよ、女の子の誉め言葉に「強い」というのはどうかと思うぞ。
そうして暫く他愛もないお喋りをしながら歩いていると、衛兵の詰所に着いた。簡単な事情聴取を受けたあと、チンピラ二人が衛兵に連行されていく時に見えたダスの後頭部は、全く毛が残っておらず、夕日を反射して輝いていた。
南無。
報酬として渡された二枚の銅貨は、二人で一枚ずつ受け取った。ライノスは二枚とも私が貰っていいと言っていたが、半ば無理やり受け取らせておく。私はギルドに以来達成の報告をしにいかなければならないので、ライノスとはここでお別れだ。といっても、また冒険者ギルドですぐに会うことになるだろうけれど。
「じゃあねライノス。また明日」
「うん、またねレイカさん!」
ライノスの後ろ姿を見送った私はギルドに向けて歩きだす。詰所とギルドは結構離れているので、ちゃんと帰れるか心配だったけど、十五分程でギルドが見えてきた。時刻はすっかり夕方だ。鍛治屋に鉱石を持っていくだけの筈だったのに、なぜこんなに疲れているのだろうか。早く宿に帰ってご飯食べたい。
「まあ、それでもいい一日だったかな」
こうして私の冒険者生活一日目は過ぎていったのだった。
(このあとチンピラに絡まれたことをモニカさんに話したら無言で頭に拳骨を落とされ、目から火花が出るというのを初めて体験した。その上モニカさんから話を聞いたアマンダさんにキッチリ一時間お説教されました。グスン。)
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