鍛冶屋に鉱石を届けよう
更新再開しました。
クエストを受けた私は、鉱石が保管されているという倉庫に案内された。倉庫の中には沢山の箱やら何に使うのかわからない道具やらが乱雑に置いてあり、その一角に金属や石が山積みになっていた。
さっそくアイテムボックスに入るだけ収納する。何度見ても物がいきなり消えるのは不思議な感じだ。二番街までの道はモニカさんから聞いていたので、大通りに沿って歩いていく。
(えーっと、確か三番目の横道を左に曲がって……薬屋の前を右……うわっ何あれ、トカゲの頭の干物? 何に使うんだろ)
この時、私はまだ周囲が珍しいものだらけで注意が散漫になっていた。そのため、
「きゃっ」
「おっと」
ちょうど曲がり角を曲がってきた男の人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい」
「いや、こっちも悪かったよ。ボウズ、怪我しなかったか?」
ぼ、ボウズって私のこと?
私がフードをかぶってるから分かりにくかったんだろうけど、流石にボウズ扱いは女として心に来るものがある。訂正しようとしていると、男の方が先に気づいた。
「ん? なんだ、お前女か。すまんな、顔が見えなかったんで間違えちまった」
男の視線が何処を見ているのかは分かったが口には出さなかった。けっ、どうせ私はまな板ですよ。
「いえ、お気になさらず」
思わず拗ねたような声になってしまったが、私は悪くないはずだ。
「おいおい、嬢ちゃんそう怒るなって。悪かったよ」
男は困ったように言葉を続ける。そんな素直に謝られたらこっちが大人げないような気持ちに
「まあ、なんだ、女は胸じゃねえからよ。そう落ち込むこたぁねえよ」
……ならなかった。この人謝る気あるの? 無いよね? これは一発ぶん殴っても許されるのではないだろうか。むしろ殴らせろ、戦争だコラ。私の胸には脂肪じゃなくて未来の可能性が詰まってるんだから!
そんな私の気も知らず、セクハラ男はマイペースに言葉を続ける。
「そういや、嬢ちゃん見ない顔だがこんなとこでなにしてんだ? この先には鍛治屋と酒場ぐらいしか無ぇぞ」
「……その鍛治屋に鉱石を届けにいくところです。私こう見えて冒険者ですから」
なんとか殴りたい気持ちを抑えて答える。すると男は少し驚いた様子で口を開いた。
「ほお、嬢ちゃん冒険者なのか。なら俺の後輩だな。俺も冒険者なんだよ」
なんとこのセクハラ男も冒険者だったらしい。改めて男を見てみると身長はかなり高い。身体も無駄な脂肪は一切無く、筋肉はまるで鋼の様。極めつけに背中には馬鹿でかい大剣を背負っている。年齢は三十代半ばといったところだろうか。
「てな訳で、お互い自己紹介といかねぇか? 俺はバルサス。さっきも言ったが冒険者をしているモンだ。バルさんとでも呼んでくれ」
ニカッと笑みを浮かべて自己紹介されたので此方も口を開く。
「レイカ=ニジョーです。さっき冒険者登録をしたばかりです」
「となると、嬢ちゃんFランクか。Fランクで此処等の依頼と言ったら鍛治屋への運搬。なるほどね。にしては荷物が無いようだが……。いや、同業者への詮索は御法度だな。じゃ、俺はそろそろ行く。依頼頑張れよ新人!」
バルさんはそれだけ言うとあっという間に大通りの方に消えてしまった。
変な人だったな……。悪い人じゃないんだろうけど。まあそれなりにベテランみたいだし、知り合いになれたのはいいことかな。取り敢えずさっさと依頼を済ませてしまおう。幸い件の鍛治屋はすぐに見つかった。
覗いてみると店の入り口付近には包丁や鍋といった日常用品、剣や斧、短剣等が並べてある売買スペース。店の奥は大きな炉や金槌の置いてある作業スペースに分かれていた。今は客が居ないらしく、店の中に人影はない。
「すみませーん! 冒険者ギルドの者ですが、鉱石何処に置いたらいいですかー」
店の奥の扉に声をかけると聞き覚えのある声が応えてきた。
「おーう! いま行く。ちょっと待っててくれ!」
暫く待っていると、扉が開いてダンカンさんが出てきた。
「スマンな、少し席を外していた。ん? お前さんは確かアマンダ達と一緒にいた……」
「レイカです。ついさっき冒険者になったので、最初の依頼に鉱石の配達を選ばせていただきました」
「なに?! お前さん冒険者になったのか? なんとも物好きなもんだな。アマンダは止めなかったのか?」
ダンカンさんは目を見開いて驚いていた。只でさえ恐い顔が更に恐くなっている。子供が見たら泣くんじゃないだろうか?
「いえ、止められましたけどどうしても冒険者になりたかったので、無理を通させてもらいました」
ダンカンさんはまだ「納得いかんいなぁ」とボヤいていたが気にせず話し掛ける。
「あの、依頼の鉱石は何処に置けば……」
「ん? ああ、鉱石か。それなら奥に倉庫がある。ついてきてくれ」
ダンカンさんについて店の奥に入っていく。ダンカンさんが出てきたドアがちょうど倉庫だったらしい。
「そら、此処に置いてくれ。って今更だがお前さん何処に鉱石持ってるんだ? いつもは台車とかで運んで来るんだが……」
「ご心配無く。ちゃんと持ってますから」
私はそう言うとアイテムボックスの中身を全部床に放出した。フッと空中から大量の鉱石が現れたのを見て、ダンカンさんは口をあんぐりと開けて固まっている。
「これで依頼は達成ですか?」
「あ、ああ、そうだな。この依頼は運んだ量に見合った報酬を払うんだが、これどれぐらいの量があるんだ?」
「キッチリ1000キロです」
アイテムボックス:Lv1だと丁度1000キロまでしか入れられないしね。
「せ、千……。そ、そうか。1キロ毎に10セレナだから……合計10000セレナだな」
因みにアマンダさんに聞いたり市場の商品の値段から推察した結果、だいたい1セレナ=10円ぐらいである。つまり私は一度の依頼で十万円を稼いだということだ。フゥーッ!
私はダンカンさんから銀貨10枚を受け取り、ホクホク顔でギルドに向かう。大通りを進んで脇道に入り、もうすぐギルドが見えてくるというところで、
「おっと待てや新入り。お前がさっき稼いだ金寄越しな」
「冒険者やってくなら先輩は敬わねえとなぁ? 素直に渡すならなにもしねぇよ。ヒヒッ」
野生のチンピラが現れた。