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とある悪役令嬢から元婚約者様達へ

イライザ様視点です。

前回よりガールズラブ成分多めなのでご注意ください。

 王立学園卒業式の夜に開かれた国王陛下ご臨席の夜会での事。

 私、イライザ=アクヤーク公爵令嬢は、婚約者であった第二王子殿下とその側近達によって身に覚えのない罪を突きつけられて、婚約を破棄され……この度、殿下の想い人であるショコラーテ=ヒローイン子爵令嬢と結婚する事と相成りました。



 ど う し て こ う な っ た ?!




 とりあえず自己紹介を。

初めまして、所謂乙女ゲーム『キュンキュンラヴリー王立学園v~イケメン☆パラダイス』に登場するイライザ=アクヤーク公爵令嬢、の前世だか憑依しただかの元OLです。


 ハハッ…… な ん だ こ れ


 確か、事故に巻き込まれたのは覚えている。でもそれは高速道路での多重事故であって、豪奢な馬車での転落事故なんかじゃない。

 目が覚めたら、プリンセス系家具と言うには高級感溢れる天蓋付きのベッドにいた。

涙を流して喜ぶ乳母やによれば、転落した馬車から投げ出されたものの奇跡的に崖下の茂みに落ち、命を取り留めたとか。

怪我も大神官クラスの治癒法術なら後も残さず治る程度。ただ、頭をひどく強く打った様で、意識だけが何日も戻らなかったという。

知らせを受けて飛んできたらしい公爵夫妻も、目を潤ませて意識が戻った事を喜んでくれて……とても「どちら様でしょう?」なんて言える雰囲気じゃなかった。



 混乱から少しは落ち着いてくると、私の中に私じゃない記憶があるのが解る。

それはイライザ=アクヤークという少女の記憶。


 私は、多分あの事故で死んだんだと思う。

でも、イライザは? 即死したとは言い切れないけど、無事だったとも言い難い。

 そして自分の名前とアレ過ぎる学園名で、ここが以前後輩に勧められた乙女ゲームの世界だと判明したのだけども……マジか……


 正直気が遠くなった。


 ネット小説であったような憑依だったら……人生を乗っ取ってしまった訳で、申し訳ないにも程がある。

 せめて事故のショックで前世の記憶と人格が蘇りましたのほうがまだマシだけど、そうすると私の来世が乙女ゲームのキャラという事で……何だそれ?


 『キュンキュンラヴリー王立学園v~イケメン☆パラダイス』略して『キュンラヴ』は、絵は好みだったし始めた以上途中でやめるというのがどうにも落ち着かなくて、一応メインの王子ルートをエンディングまで進めた。

 けど……後輩には悪いけど、趣味じゃなかった。

まず、婚約者のいる相手をっていうのが生理的にダメ。

うん、この時点でこのゲーム全否定だね? っていうか対象キャラが全員婚約者か彼女持ちってなんなの? NTRってやつ? シナリオライターちょっと給湯室まで来いや。


 ……まあ、好みは人それぞれだしね。自分の身に降りかからなければ……って現在進行形で降りかかってるんだったわ。あーヤダヤダ。

 正直、私としてはあの王子と結婚するとか何の罰ゲームかってくらいだから、本気で慕っていたらしいイライザには本当に悪いんだけど、ヒロインちゃんに心からご進呈申し上げたい。

 イライザ視点の王子はそれはもうキラキラしい、完璧な王子様。

だけど、残念ながら私視点では甘やかされた我儘坊っちゃんにしか見えない。

そもそもあんなヒョロッこいお子様に恋しろとか無理。

せめて陛下くらいの渋みがあれば……勿論、王妃様が健在だから範疇外だけどね。

不倫ダメ絶対。



 学園に復帰したとたん、取り巻き達に囲まれました。

そしたらイライザ視点では気づかなかった粗が見えること見えること。

おべっかは……美人で学業も礼儀作法も優秀なのは事実だったから、あながち嘘でも無いのだけれど。

私を思って、とか私の為に、と嘯きながらまあ言うねえキミタチ。

それ私じゃなくて貴方達の都合でしょうよ?

こっちを体よく利用する気満々すぎて、いっそ微笑ましいくらい。

利用する気なら、ほら、もうちょっと腹の内は隠さないと。もしくはこっちにもちゃんと利益のあるところに持ってかなくちゃ。

 イライザも多少は気づいてたみたいだけど、王子がからむとどうも冷静になれなかったみたい。

ふふ、みんな若いねぇ……あっ、なんかちょっと切なくなってきた。歳の事考えるのはヤメヤメ。


「あの……イライザ様、お加減は本当に良くなってらして?」


 いつもの様に乗ってこないんで不審に思われたらしい。ああ、でも心配してるのも本当っぽいあたり、何だかんだ言って育ちのいいお嬢様方なのね。


「ご心配ありがとう、皆様。怪我はもうすっかり良いのですけれど、少しばかり永く眠っていたものですから、まだ時々ぼんやりしてしまうのですわ。」


「本当になかなかお目覚めにならなかったのですもの。仕方ありませんわ。」

「学園にお戻りになられたのは嬉しいですけれど、ご無理はならさないで下さいましね。」


 ホントみんな可愛いねえ。

やっぱり、イライザは優秀だっただけあって取り巻きもある程度はちゃんと選んでたみたい。家格が高くても分かり易く問題アリなのはさりげなく遠ざけてたもの。例えばあそこであからさまにヒソヒソやってるカゲーグチ侯爵令嬢とか。

……しかし、ネーミング酷いな。




 あれから、何故か時々第二王子や側近のボンボン達が突っかかってくるけど謹んでスルーしている。

王子やショコラーテちゃんに近づかなくなったのを、何か企んでると思ってるらしい。

その度に私の取り巻き、もとい友人達が怒ってくれてる。


 うーん、もう何もしなくても順当に婚約破棄イベントに入れそうだね。

まあ、断罪(笑)については冤罪部分はきっちり証拠付けて叩き返すつもりだけども。

イザベラが実際にした嫌がらせ(嫌味やお茶会の参加拒否)はともかく、やってもいない事や悪意の曲解まで受け入れるつもりはないからね。


 最近お父様から少しづつ領地経営の事を教えていただいています。

先日、第二王子とショコラーテちゃんの事をさり気なく聞かれたので、分かり易く直球で状況報告して、破棄後の人生設計プランの希望をプレゼンしたら苦笑いされました。

学園内の事は国の上層部の方々はとっくに把握なさってたらしい。

だよね。普通父兄に報告行くよね。問題行動オンパレードだものあのヒト達。

 逆ハーmen’sの御実家も、ご子息方の身の振り方についてそれぞれ着々と準備なさっているとか。

我が家も、まだ公にはしていないものの、後継ぎだった逆ハーmen’s真面目クール担当の兄はとっくに後継者から外されていて、私が条件の良い家から婿をとって継ぐ事になっていました。

兄上様ドンマイ。

 まあ、生前から仕事するのは好きだから私は良いけども。

勿論前世の仕事とは全く違うけど、馴染みのない新しい分野のプロジェクトって燃えるのよね。新雪に足跡つける快感に近いかな。

日本よりずっとトップダウンが強いから企画通しやすいし、その分責任の重さは段違いだけど。NAISEIとまでは言わなくとも、自分の手腕を試す機会が与えられたからには全力で行きたいよね!



 そういえば、ショコラーテちゃんに夢中になってからこっちを敵視しまくって疎遠になっている兄はともかく、両親やメイド達に中の人が変わったことで不審に思われないかと心配していたのだけれど……どうやら大丈夫そうです。

 命に関わる事故にあったというのが一番だけれど、婚約解消から第二王子妃→公爵家跡継ぎへの進路変更という状況の大きな変化によって、むしろ以前のまま変わらないほうが不自然という事らしい。

 それに、『私』も確実に『アラサーOLの私』とは違っている。

目覚めてからこっち、ずっと考察していたけれど、『私』の中にはちゃんとイライザが混じっている……だって、『私』の感じている今の両親への愛情や、幼いころから好きだった果物、貴族としての責任感は、『アラサーOLの私』には無い物だもの。

 前世だか合成合体だかはともかく、憑依で無関係のイライザ・アクヤークという少女の人格を押しつぶしてしまった可能性が低いという事は喜ばしい限りだ。





 そんな訳で、ゲームの流れに関しては気楽に考えてたら────────土壇場でやらかしてしまった、らしい。


 私はここが『キュンラヴ』の世界だと思っていたけれど、全く同じなら、そもそもイライザが『私』な訳もなく。というか後半から跡継ぎ教育その他が忙しいこともあって、王子達には自分からは全く関わらなかったし……それでどうして全く同じ結末になると思ったの私!迂闊すぎるでしょ!


 ショコラーテちゃんと王子と逆ハーmen’sがこの夜会に現れてから婚約破棄宣言までの流れはゲームの通り。

私と王子の婚約破棄、というか解消はこの時点ですでに主だった貴族には密かに知れ渡っていたし、イライザがこのやり取りを茶番と断じて退場しても違和感のない流れだから、あえて変える必要もないと思ったんだけど……


 なんかよくわからないけど、ダメだ。これ。


 何を間違ったのか判らないけど、もう「間違えちゃった☆てへ」で済む雰囲気じゃない。


 王子と逆ハーmen’sがかつてないほど混乱してるけど、観衆は好意的、というか盛り上がってる。そんでショコラーテちゃんがなんかうっとりした顔でこっち見てんだけど?!



 とにかく、いったんこの場を終わらせなきゃ。


「─────それでは、皆様ご機嫌よろしゅう。」


 全力で余裕ぶって、できる限り優雅な礼をして堂々と会場を後にした。

どないしょ。




 そして現在、ショコラーテちゃんをお嫁にもらう方向で話が進んでおります。

なんで?! てか初耳なんだけど同性婚ありなのこの世界?!


 お父様には


「一体いつからそのような想いを……しかし、それではこの一年はさぞや複雑な心境であったろうな。」


 と、うんうん大変だったね、こうなったらお父さんがんばっちゃうから任せなさい的な慈愛あふれる眼差しで微笑まれ、


 お母様には


「まあ、貴女ったら、困ったわ、どうしましょう、こんな、かの白百合歌劇座の演目ではあるまいし、まあまあ───────」


 と、全く困ったようには見えない嬉し気な顔で困られた。


 ちなみに、次期公爵改め部屋住み浪人になった兄には


「この泥棒猫おおおぉ!」


 と号泣された。知るか。




 そんな折、ショコラーテちゃんの親友(いたんだ?!)だというノーマ・ル=モブ伯爵令嬢から面会の申し込みが来た。


 ゲーム知識完備の元日本人転生者でした。


 知ってたんならもっと早く来てよおおおお!!

……いや、ごめん。無理だよね。元々接点ない上に、婚約者に粉かけてる女の友人なんて門番の段階で塩撒かれるわ。今は現婚約者の友人だから来れるけど。お姉さん大人気なかった。反省。


 そして夜会で赤ワインを掛ける事の意味を教えてもらって悶絶。

ファ────────────ッ?! もうダメあんな公衆の面前で若い娘さんに「ヤらないか?」とかなにそれ私痴女じゃない?! 社会的に爆死じゃない?! 知らんもう呑まずにいられるか畜生おおおおぉ!!


 えぐえぐしている私を宥める彼女は、ショコラーテちゃんとは別枠の癒やし系でした。地味なんだけど、安心するっていうか……お母さん枠?いや、流石に失礼か。


 赤ワインのアレだけど、意味は意味としてもそこまでアカン行動ではなかったらしい。

どっちかというと演劇めいたアダルティなプロポーズという位置づけらしく、世間様に痴女認定されてはいないと分かってちょっと救われた。

そう言えばあの時歌劇みたいだとかはしゃいでるご夫人がいた気がする。お母様のおっしゃってたのもそれか。


そして私が知らない事──────日本とこの世界の常識の差異とか、他の逆ハーmen’sルートの事とか、ショコラーテちゃんの事なんかを聞いた。


……ダメだ、もうホントに腹くくってあの子嫁に貰うしかないわ。

放っとけないにも限度があるでしょあの子。

変に名が売れた今、ここで放流したら絶対質の悪い男にいいようにされて碌でもない結末になる予感しかしない。



 そして私達は善き日をもって、盛大な結婚式を挙げましたとさ。

婚礼衣装は最高級手編みレースをたっぷり使い、トレーンを長く引いた純白のウエディングドレス。この世界では結婚式では必ずしも白ではないのだけれど、なんとなく──────一応、前世でも結婚願望あったのよ。叶わなかったけど。

かつて夢見た現実では無理よねーアハハと笑っていたような、一見清楚ながらも贅を凝らしたドレスと銀とダイヤモンドが煌めくティアラ。

色とりどりの光を透かすステンドグラスが荘厳な大聖堂。

相手もドレスだけどね!

 子爵夫妻に、これであの子も安心です、不束な娘ですがどうかくれぐれも末永くよろしくお願いします、と咽び泣かれた。

本当に、愛娘を心配してたんだろうな……実は成り行きの結果で申し訳ないんですが、大事な娘さんを貰った以上は、はい、がんばりますね。


 後日、かの白百合歌劇座から今回の顛末の舞台化オファーがあって、お母様とショコラーテちゃんが喜んで了解してしまいました。

マジか。


 ──────でも流石に夜の方は…悪いけど無理かなって……思ってたんだけど……


 最近、イケそうな気がしてきた自分が怖い。


 いや、だって、この子ホントに可愛いんだって!

下心とか裏無しのキラキラした尊敬の目でこっちのする事全肯定するし、少しくらい厳しく注意をしても叱られた子犬みたいにシュンとしながらも素直に聞くし(但し改善できるかは別)、尽くす系で手作りお菓子はめちゃウマ。

そんでもって、私あなたと居てとっても幸せですvオーラ全開ではにかまれてみろ!

 王子と逆ハーmen’s馬鹿にしてごめん。

こりゃ、ローティーンの小僧共じゃ血迷いもするわ。

だからって仕事や義務や婚約者への礼儀を放り捨てるのは別の話だけどもね。



 ……コンコン


 入室許可を出すと、ショコラーテがカートに紅茶と焼きたてスコーンを乗せてやってきた。


「お仕事お疲れ様です。今、よろしければお茶になさいませんか? スコーンにとっても良く合うラロッタ産の蜂蜜が届いたんです♪」


 あーめっちゃいい匂い。

あら、熱中してて気づかなかったけどもうこんな時間。


「そうね、丁度キリの良い所だし、頂こうかしら。」


 嬉しそうにいそいそとお茶を入れる姿がまた可愛らしくて癒される。

つくづく気遣い上手なんだよねぇ。タイミングを読むのが上手いって言うのかな?


 難しいがやりがいのある仕事に、可愛くて気の利いた妻。

香り高い紅茶にはクロテッドクリームと金色の蜂蜜を添えた熱々のスコーン。

────────なにこの幸せ。


 細かい礼儀作法なんかは未だに拙い所もあるんだけど、もてなそう歓迎しようっていう気持ちが伝わるからか、結婚してから開いたお茶会や夜会での彼女の評判は思いの他良いんだよね。

他所に参加する側でも、何でも素直に称賛するし聞き上手だから受けがいい。

前評判が悪かったせいもあると思うけども。

 そして、半比例して第二王子達の評判がさらに緩やかに下がっております。

彼等抜きでショコラーテと会った人達が


『あれ?思ったより悪くないじゃない?』→『むしろいい子なのにどうしてあんな悪評が?』→『あ、パートナーの差か!』


 となりまして。


 あれから、第二王子達はそれぞれ再教育されたり僻地へすっ飛ばされたり、それぞれ忙しい日々を送っているそうだけど、まだ更生もとい復帰の目途は立ってないらしい。

未練がましく監視兼教育係の目を盗んでショコラーテに手紙を送ってきたアホが何人かいたけれど


『えっと、良く知らないけど皆さん新しい所で頑張ってるんですね♪ ショコラ応援してます! それから、イライザ様はとっても優しいですよ? 意地悪なんてされてませんから大丈夫です♪ この間博物館の視察に行った時も、廊下がピカピカすぎて転ぶといけないからって、手をつないでいてくださって、お仕事なのにデートしてるみたいでショコラ嬉しくて……きゃv それから、その前にもぉ──────』


 という悪気のない惚気8割の返事をもらって廃人みたいになっていたらしい。

ざまぁっていうのかな、これ。





 前略 第二王子+逆ハーmen’s様


  まぁ、可愛い妻(キミらのヒロイン)は私が責任もって末永く大事にしていくから。

 心置きなく真面目に仕事or訓練してなさいな。


                      かしこ



悪役令嬢とヒロインは末永く幸せになりましたとさw

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「泥棒猫」発言がツボに入ってしまいました。 主人公が全てをかっさらっていってしまい、逆ハーの皆さんが哀れでこれぞ「ざまあ」ですね! [気になる点] ラブラブになる過程がもっと見たかったで…
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