はい二人組つくってー
これは、私がまだ高校生の頃の話です。
都会というほど賑わってはいないけど、田舎というほど寂れてもいない。
そんな絶妙な町に生まれた私は、人並みの学力とそこそこの友達をもち、日々それなりに生きていました。
季節は夏。
ちょうど今日のような、蒸し暑い夜のことでした。
「全然勉強してないよ〜(汗 」
と言いつつ期末テストでまぁまぁの点数を確保できた私は、夏休みの宿題も後回しに日々怠惰な生活を満喫していました。
照りつける太陽の光は眩しく、部屋の温度をじんわりと上げていきます。
今日は暑くなりそうだ、そう思っていると、私の携帯に一通のメールが届きました。
補習が面倒だとか彼氏がムカつくだとか愚痴に見せかけた自慢でしょうか?少しイラっとしながら読み進めていると、どうやらお誘いのメールであることがわかりました。
余計な文章を削ぎ落とすと「肝試しに行こう」という内容です。
メンバーは私を含めたクラスの男女五人。
暇だったし、少しは涼しくなるといいな。そんな程度の気持ちで、私は参加を決めてしまいました。
それが悲劇の始まりだったなんて、その時はまだ気が付いていなかったのです。
闇の中を彷徨いながら、仲間達に引き寄せられる。それは希望か、それとも・・・。
午後10時。
町外れのトンネルに私達は集まっていました。
国道が出来てすっかり車の通りがなくなったここは、地元でも有名な心霊スポットです。
「絶対何かいるって!嫌な感じがするよ・・・。」
幽霊話など信じていない私には何も感じませんが、自称霊感があるエリは何かを感じ取ったのでしょうか。小柄で物静かな彼女は、小動物のように怯えています。
「うん・・・。俺も嫌な感じがする。」
コウタも何かを感じたように肩を抱いていました。背が高く威圧感のある彼ですが、怖いものは苦手なようです。
「昔このトンネルを掘るのに囚人が使われたんだって。過酷な労働条件で死んだ囚人達の霊が今でも彷徨っているって噂だよ。」
「うわっ!怖っ!」
その手の話が大好きなサヤカと、怖いと言いつつノリノリのアキラ。
そう言われると背筋がぞぞっとするのを感じます。
「じゃあ早速行ってみましょうか!」
「みんなで行くの?」
「まずはみんなでね!」
サヤカにはちゃんとした計画があるようで、1人トンネルへと進んで行きました。
「あっ!サヤカちゃん待ってよ〜!」
アキラが追いかけていきます。
コウタも何かを決意したように進み始めました。
「僕達も行こう。エリちゃん、大丈夫?」
「うん。ありがとう。大丈夫だよ。コウタくんも無理しないでね。」
私達もサヤカの後を追いかけトンネルに進みました。
生ぬるい風が辺りを包み、オレンジ色のライトに照らされた光景は、どこか異世界へ通じる道のようです。
ジャリ、ジャリと歩く音だけが木霊し、どこか異様な空気に皆緊張の面持ちでトンネルを進みました。
わずか数分。期待や緊張とは裏腹に特に何もなくトンネルを抜け、皆に安堵の表情が戻ります。
「ぷっはぁ〜!」
「なんもなかったねー。」
「これからどうするの?」
みんなの視線がサヤカに向かいます。
その視線一つ一つに対応するように、サヤカは語り始めました。
「昔このトンネルは囚人が作ったって話はさっきしたよね?で、その話には続きがあって。囚人達は逃亡を防ぐために、二人一組で鎖に繋がれて作業していたらしいの。だから、このトンネルを二人で通ると・・・仲間だと思って寄ってくるんだって。だから帰りは二人一組で行ってみましょ!」
・・・ん?あ〜なるほど。
そういうアレか。
うん。待って。
それならなんで奇数だよ!
おかしいだろ!カップリング的に私ハブリじゃんバーカ!うわーん!!
私は違う意味で帰りたくなりました。
でもここまで来た以上、もう一回トンネルを通らないと帰れません。
「私とアキラが先に行くから、次はコウタとエリね!最後二人は前の二人がトンネルを抜けてから行くのよ!」
一瞬、思考がついていかなかった。
そうこうしているうちに、サヤカとアキラは先に進んで行ってしまいました。
「ねぇ・・・。私達、あと三人だよね?サヤカ、何言ってるのかな?」
エリは真っ白い顔をしています。
ただ無言で、私の言葉に答えることすら出来ないようです。
「僕達を怖がらせるために言ってるだけだよ。大丈夫。」
「本当?そうだといいけど・・・。」
「そういうことなら話に乗ってあげようか。私、最後に一人で行くわ。」
「うん。今度は僕達が話に乗って、逆に驚かせてあげようよ。」
そうこう話しているうちに、サヤカとアキラはトンネルを抜けていました。おいでおいでと手招きしています。
「じゃあ行こうか。」
「うん。気をつけて。」
コウタとエリがトンネルを進みます。
必死にコウタにしがみつくエリに余裕はなさそうです。
二人も無事トンネルを抜け、最後は私、いや私と誰か?
いや、いいんだけどね。
みんな友達だからね!
・・・でもちょっとでも酷くないですか?
向こうに着いたらあることないこと話して怖がらせてやる!
そう息巻いて私もトンネルを進んで行きました。
先ほど通ったトンネルも、みんながいないとまた違う雰囲気に感じられます。
「そこのあなた?ちゃんと私を守ってね〜。」
しかしまだ余裕はあるほうです。
決して寂しくはありません。決して。
むしろみんなの怖がる顔が今から楽しみで、笑いを堪えることのほうが大変そうに思います。
中ほどまで歩き進み、このまま何事もなく終わると思った、その瞬間。
背後に、人の気配。
背中に感じる悪寒。
私は反射的に駆け出していた。
全速力で走り抜け、無事トンネルを抜けだした。
「みんな!見た!?早く逃げ・・・。」
いない。
誰もいない。
・・・酷くないですか?
泣きそうです。もう。
「帰ろ・・・。」
トンネルを背に山道を進む。
辺りは静寂に包まれ、足音一つしない。
あぁでもそういえば。
私に帰る場所なんてないんだった。
前からは四人の男女。また肝試しだろうか。
楽しそうに笑いながら、トンネルの入り口へと進んでいく。
戻らなくちゃ。あのトンネルに。
みんなが、待ってるから。
いかがでしたでしょうか?
今もここに居る私の気持ち、少しは理解できたでしょうか?
助けて。寂しいよ。
なんで私が?一体いつから?
誰かに気が付いて欲しい。
悔しい。羨ましい。
そこのあなたも、一緒に遊びましょう。
今度こそ、二人で。