1 裏切り
よろしくお願いします。
※このお話には流血や食人などのグロテスクな表現があります。
ヒロインは流されやすい性格で、全体的に暗めのお話です。
苦手な方はご注意ください。
吸血鬼に襲撃されたのは、卒業式前日のことだった。
校舎から避難する途中、最初に奴らに遭遇した私は覚悟を決め、腰の銃を抜いた。
ここで背中を向けて逃げても瞬殺されるだけ。もう死は避けられない。後輩のためにも足止めしなければ。
敵は三人もいる。バラけられたら厄介だ。一人では対応できない。
私は前を向いたまま傍らの友に声をかけた。
「戦おう! ここで食い止めてみんなを――」
最後まで言い切る前に、鈍い痛みが走った。
滑るように倒れてから、ようやく背中を蹴られたのだと気づく。
「どうして……っ?」
私は床に這いつくばって級友を仰いだ。
「一人でやってくれ。囮ならそれで十分だ。そのための安い命だろ? ばいばい、ヴィオン」
「あははっ! いい気味! 私、本当はあなたのことが大嫌いだったの。平民の分際でライル様に気安くして……本当に忌々しかった!」
二人が吐き捨てた言葉に私は愕然とした。
ともに厳しい訓練を受け、けがの治療をし合ったのに。
いつか戦場で武功を上げて出世しようと語り合ったのに。
戦死者の方を聞くたびに私たちも弱い者を守って死のうと誓い合ったのに。
預け合うはずの背中を蹴られ、信頼は粉々に砕かれた。
彼と彼女はそのまま私を置いて逃げた。
私はまやかしの友情に騙されていただけなの?
ふと視線を感じて窓の外を見ると、隣の棟からライル様が私を見ていた。
いつもとは違う、優しさの欠片もない冷たい瞳。
心の底から忠誠を誓った人は、私から興味を失ったように背を向けた。この距離ならば魔術で援護することもできるのに、何もしてくれない。
目の前が真っ暗になった。
私は……私はもう、ライル様に必要とされていない。
「哀れな娘だな。せめて我が糧としてやろう」
床に突っ伏したまま動かない私に、吸血鬼の一人が声をかけてきた。皮肉なことに、思わずすがりつきたくなるような憐れみたっぷりの声で。
顔を上げるのが恐ろしくてたまらなかった。
それなりに苦難のある人生を送ってきたけれど、こんなに惨めな思いをしたのは初めてかもしれない。




