2話目
人類が形成され、良識が芽生え始めても、人間は欲望のまま生きることをやめなかった。世界は無秩序で、犯罪が横行し、生命の保証は存在しなかった。そして多くの命を犠牲に、誰かが気付いた。
無秩序から秩序の世界へ変わらなければならない。
そして創設されたのが秩序保全組織であった。組織は世界の平和と秩序を守る為に存在し、国の支配下に置かれない独立した組織である。
ヒビキは組織に所属し、戦闘員として働いている。戦闘員には格付けがあり、特に優秀な人材が選ばれる最重要戦闘員、15人で構成されている幹部、40人で構成されている幹部候補、それ以外の一般戦闘員となっている。ヒビキは幹部候補である。
一週間前、ヒビキは要人守護の任務を任されていた。研究者を施設まで護衛する簡単な任務だった。
組織本部から施設までは徒歩で1時間程度の距離だった。
ヒビキは常に周囲に鋭いアンテナを張り巡らせていた。異常はなかった。
研究者の胸ポケットが赤く光り、取り出した通信機器を耳に当てた。
通信機器の奥の誰かと、ボソボソと低い声で話していた。
「結果が出れば全てわかる」
研究者がそう言うと、風を切る鋭い音が研究者のこめかみを貫いた。気配も殺気も感じない、ただ風が吹き抜けるように、自然に殺害が行われた。
ヒビキは倒れる研究者を横目に、直感で死と戦力差による絶望感を感じた。
周囲を警戒していたが、気付けなかった。そして、攻撃が始まったが未だに気配を感じ取ることすらできなかった。ここから導き出される答えは、敵は暗殺のプロで、尚且つ相当な手練れで経験を積んでいるということだった。
ヒビキは咄嗟に刀を抜いた。
このような緊急事態に対応するため、戦闘訓練や精神訓練も受けていた。しかし実際目の当たりにすると何もできなかった。
死ぬことが急に怖くなり、まばたきの一瞬でさえ視界が塞がれるのが怖かった。
ヒビキは眉間に向かって飛ばされた何かをはじき返した。反射的に反応して、ギリギリだった。次は確実に回避できない。
ヒビキは頭部と心臓部の防御だけに集中し、殺されないことを最大の目標にした。
殉職は名誉だというが、人間である以上死ぬことは恐怖でしかない。生にしがみつくことは極当たり前である。