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第四話 賜領、賜爵

「しかし、どうしたものか……」


 ルドルフは寝室で頭を悩ませていた。勿論その悩み事とはシラノに与える領地のことである。そこには宰相であるエヴィンと、王女であるユリアがおり、エヴィンは眉間に皺を寄せているのに比べ、ユリアは無表情で紅茶を飲んでいた。


「王家の恥だと言ったのはまずかったですな。それを逆手に取られたのが決定打となりました」

「うむ……」


 エヴィンがルドルフの失言を非難したが、彼も自身がとんでもない失敗をしたのは気付いていたので、特に反論はせずに受け入れた。


「もはや広大な領土と高い爵位を与えるしかありますまい。王女の命を救った事と等価だと誰もが認められるほどの領地を与えなければ、恥のある王家に仕えるのはゴメンだと突っぱねられかねません。その上、王女はその程度の価値しかないのだと周囲に広めることになりかねない」

「そんなことはなかったと、しらばっくれるのはどうだ?」

「愚策でしょうな。そんなことをして約束を守らない王家には仕えられないと突っぱねられれば元も子もありませぬ」


 ルドルフは打つ手なしの状況を改めて認識したのか、頭を抱えてうずくまった。


「陛下、彼をこの国に引き込まなければならないという前提がこちらにある以上、元々不利な交渉だったのです。その上、ユリア様の話では彼の戦力は一人軍隊のようなもの。今回は潔く領地を与えるしかないでしょう」

「その領地が問題だ。領主が不在の領地は殆どないぞ」

「アードラースの辺境があるじゃありませんか」


 優雅に紅茶を飲んでいたユリアがそこで初めて口を挟んだ。


「あの地はアルマン帝国との国境に隣してします。最近あの国は不穏な動きをしているとの話しもありますし、シラノ様にあの領地を治めてもらえば牽制できます。万が一戦争になったとしても、あの方が最前線にいることになるのですから問題ないのでは? 他の貴族がうるさいのなら帝国と戦争になる可能性を示唆し、そのように説明すれば問題ないと思います」


 おおよそ十五歳とは思えない思考に、エヴィンは感心したようにため息を漏らす。


「私も同じような考えです。もし陛下がシラノ殿の発言権を余り大きくしたくないのなら、別方面からの策を考えるしかありません」

「そうか。まぁ余の失言が招いた結果だ。仕方あるまい。エヴィンには迷惑をかけるな」

「いえ、所詮魔術師なのだから交渉事など起こらないだろうと侮っていたのは私も同じです。私が同じ立場でもあの時はああしておりました」

「そう言ってくれると助かる」


 ルドルフは少し安堵したようにため息をついた。その様子に、ユリアが呆れたように言う。


「お父様はもう少ししっかりなさってください。これから宮廷貴族や各地方貴族の面々に事の次第を説明しなければならないのですから」

「ああ、全く」


 これから起こるであろう各貴族の反対を考え、ルドルフは頭痛を感じ頭を抑えた。その様子を傍目に、ユリアは誰にも聞こえないような声で呟いた。


「絶対に逃がしませんよ。シラノ様」


 彼女が薄く笑っているのに、この場にいる誰も気がつくことはなかった。




 扉の左右に待機していた騎士が扉を開くと、シラノはゆっくりと室内へ入っていく。部屋の中央にはレッドカーペットが奥まで敷かれ、その最端には数段の階段があり、その上には玉座が佇んでいる。

 部屋の左右に並んで控えている多くの騎士に睨まれながら、シラノはレッドカーペットを歩いていく。部屋の中央に着いた彼は、その場で跪き頭を下げる。

 それから少しだけそのまま待機していると、ファンファーレが室内に響き渡った。


「アーデルハイト王国ルドルフ一世御入場!」


 シラノは頭を下げながら視界端のマップに視線を移し、室内に一人の人物が入ってきて玉座に着いたのを確認した。

 ルドルフは自身の玉座につくと、恭しく頭を下げるシラノを胡散臭げに眺める。


「面を上げよ」


 ルドルフがそういうと、シラノはゆっくりとした動作で頭を上げる。


「シラノよ、ユリアから話しは聞いている。良くぞドラゴンから娘を救ってくれた。心から感謝する」


 ルドルフの言葉に場が騒然とし、近衛騎士達に緊張が走る。もしシラノが突然暴れでもしたら、彼らでは抑えることが出来ないかも知れないからだ。


「そこで我娘を救ってくれたことに加えその類稀なる魔術の才能を評価し、そちには褒美として領地を与えようと思う」

「私のような下賎な者に領地など身に余る光栄だとは思いますが、陛下がそれを望むのなら私は期待にこたえたく思います」


 ルドルフはシラノに対して、どの口がほざくのかと言ってやりたい衝動に駆られるが、謁見の間である以上下手なことは出来ない。彼は出かけた言葉をぐっとこらえる。これ以上下手な発言をしてシラノに言質を取られてはたまらないし、正式な場である以上ここでの発言は取り返しがつかないからだ。

 そこから賜領・賜爵の儀はつつがなく進行した。

 彼が賜った爵位は辺境伯。前アードラース辺境伯が帝国と密かに取引をしていたことが露見し処罰され、空位になっていた所に彼が納まった形だ。名ばかりは伯爵の一つ上ではあるが、その実質的な権限は公爵にも匹敵する。

 市井の、それも出自も不明な魔術師が辺境伯を賜ったことは、数日後に就任パーティを開くという知らせと共に、瞬く間に王国内に広まることになった。

 当初ユリアは純粋無垢なキャラでいこうと……思ったんだけどなぁ。

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ユリアじゃ相手になんねえだろう
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