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プロローグ

 かつてアスファルトが敷き詰められていた地面はあちこちが砕け、一部は砂漠のように砂に埋もれている。日本の中心であったビル郡など今や見る影もなく、その殆どが崩れ去り、辛うじて原型をとどめているものも地面に埋もれていた。辺りは静寂に包まれており、風の音すら聞こえない。まるで世界の時が止まってしまっているかのようである。

 その止まった世界で、砂漠と化した大地に佇む男が一人いた。黒髪黒目でアジア人然とした顔をしている彼は黒く端々がボロボロになったローブを着込み、いかにも魔法使いだといった風貌をしている。彼は盛大にため息をつくと自虐的に笑った。


「世界征服は、思いのほか詰らなかったな」


 そしておまけに虚しいと、彼は呟くように言った。彼はその見た目から分かるように魔術師だ。それもこの世界最強の魔術師であり、この世界最大の敵として全人類に認識されていた魔術師でもある。

 世界征服ーーなどと言えば大抵は妄言か狂言だと思われるだろう。しかし、この男はそれを成し遂げた。世界中の軍隊を一人で滅ぼし、欲しいものは何でも奪い、男も女も犯し、従わぬものは殺し、抗うものも殺し、最終的に全ての人間を殺し尽くした。彼の魔術は殺した相手の魂を奪い自分の魂に取り込むことが出来る。つまり殺せば殺すほど彼は強くなる。一国の軍隊をすべて殺した時点で、彼を止めることの出来る人間は魔術師とは言えどいなくなった。魂を取り込むとはすなわち存在の強化に他ならない。一般人に百の魂を持つものは殺せない。戦車を使えば傷つけることが出来る程度である。百万の魂を持つものには、百万人の人間を一撃で滅ぼす核兵器のようなものでないと傷つけることは出来ない。彼が一国を滅ぼした時点で、この世界で彼を止めることの出来る存在はいなくなったのだ。

 全ての人間を滅ぼした後、煩わしい蟲や動物を含むすべての生物を彼は排除した。結果、この世界から生物は消え、世界は名実共に彼のものになった。

 だがそれからの彼の生活は余りに空虚だった。何をするにしてもまず相手がいないのだから当然だ。一人で何かをしてもそのうち飽きが来てしまう。それゆえに、彼は今や魔術の研究くらいしかすることがなくなっていた。


「そろそろ潮時か……」


 何かを決心するように呟き、指を鳴らす。すると、彼の足元や周囲の空中に幾何学的な模様の集合が幾つも浮かびあがり、まるで波紋のように広がっていく。それはファンタジーでよくある魔法陣のようであるが、余りに不気味で歪な形をしたそれは、魔法陣と呼ぶには余りに冒涜的なものであった。やがて世界が悲鳴を上げるように空間が軋み、大地が揺れ、暴風が吹き荒れる。そんな中でも、彼はまるで何事もないかのように自然体で立っている。


「次の世界では、もう少し自粛しようかね」


 彼はまた独り言を呟く。彼は長い年月一人で生きてきたせいで、独り言が多くなってしまっていた。しばらくすると、今度は映画のように大地が割れ、世界そのものが崩れ出した。彼の足元も直ぐに崩れ始めたが、足元から地面がなくなっても光を放つ幾何学模様が足場となり彼を空中に留めていた。


「あははははっ! これでは日本が沈没する映画そのものだな」


 彼はまるで子供のように笑った。世界で最も恐れられた男は、その時だけは童心に返ったかのように笑っていた。笑い終えた彼は、また無表情に戻る。そうしている間にも世界の崩壊は続き、空間もまるで割れたガラスが剥がれていくように少しずつ崩壊していく。仮にも征服した世界であるにも関わらず、彼はこの世界には愛着がないのか冷めた目で崩壊を見届けていた。

 完全に崩れ去った世界では周囲を暗闇としか認識できない。そんな新たな発見に、彼は少し嬉しそうにしながら次の魔術を発動する。


「この世界では全て滅ぼしてしまったが、次の世界では愉快に過ごせるよう努力してみよう」


 そうして世界を滅ぼした神のごとき魔術師は、別の世界へと旅立った。崩壊させた世界の全てを取り込みながらーー。

 まだまだ稚拙な部分がありますが、楽しんでいただけたら幸いです。

 評価、感想等頂けたら嬉しいです。

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