第4話 変革
ダンジョンから早く出る為、俺のグランデ鞄に入っていた物をルネスのグランデ鞄へ移し変え。
冒険者ギルドでグランデ鞄の中身を取り出した後、受け取ることに決め――。
俺のグランデ鞄に入っていた、戦利品を確認部屋で全て取り出した。
グランデ鞄を戦場で使えばいいのでは?
確認作業に時間を取られていた俺は、そんなことを無駄に思考していた。
答えは無理だ。
アリステラド憲法、軍事法第33条185。
戦場における魔法製品の使用に関する項。
戦場また自陣に於いて魔法、魔力を使用した物品は魔法、魔力兵器を除いて使用してはならない。
兵器を搭載した物や古代石等を、使用した物も全て不可とする。
攻撃能力の無い魔法使用道具類の、使用も禁止とする。
早い話、武器や防具に属さない物は戦争では使用できない。
「ダンジョンでの戦利品は、ご苦労をお掛けしますが個人分配となっております。2人で話し合って決めてください、確認は終わりました。お疲れ様でした」
女性職員が部屋から出ていった。センラカド王国で採れるハーブ、ヴィクトワールの上品でほんのり甘い香りがある意味。懐かしかった。
「センラカド市名産の香水。ヴィクトワールを冒険者ギルドに勤めている程度の人が、買おうと思うかな……。あれ、小瓶ひとつで10万グート以上はするのにね?」
「そうだな……」
物品は全て換金し、折半することを話し合って決めた。
センラカド市某所。
4人が明るい部屋の中で、立ち話をしていた。
「イーストラは、まだ来ていないか……」
生成り色の髪を。その男が本を閉じながら言った。
「全世界で同時に精神掌握支配魔法。それを下準備無しで発動すると思っていたのか、パシオン」
女性が口を挟む。
「パシオンは解かって言ったんです。ばかレゾン」
小豆色の髪を少し揺らしながら、レゾンが女性へと近づく。
「いつも、一言多いんだよ。メディウム!」
「イーストラさんは、もう少しで来ますよ」
眼鏡を掛けた男の髪は煤竹色だ。
「フェルスロ、イーストラさんの次に強いからって。好い気になるなよ、解かったか!」
フェルスロが鼻で笑った。
レゾンが瞬時に魔力を高め、フェルスロに迫る。
「俺の方が強いと、証明してやるよ。気取り野郎!」
2人の間に男が出現。
「イーストラさ!」刹那、地面にレゾンが沈んだ。
「全員集まったな。早速だが本題に入る」
「複合魔法。《映像投射》」
イーストラが魔法を発動した。
「今日を持って、アリステラド憲法なる悪法を全世界へ共用する。アリステラド協会を解体させ、この世界の滅亡を防ぐ」
映像投射によって映し出されたのは、エンセクター王国内にある。
アリステラド本部。
ここで暦の管理、時間の管理、魔法の管理、アリステラド憲法の管理を行っている。
「全世界に支部があるようだが。今日でそれもお終いだ」
復帰したレゾンが、興奮気味に声を発した。
数日後。1部、王国以外にはアリステラド憲法。
それが失効していたとは、伝えれらていない。大きい王国に伝える義務が、あった。
この失効をアリステラド協会は、正式に発表しなかった。
小国は、発表されていない為知りえない。
だが、どの王国も発覚を恐れ。逆に隠匿に走ったほどだ。
戦場では、大変革が到来していた。
アリステラド憲法が失効していた。そのことを王国軍関係者だけは、民間人より数ヶ月以上早く知ることになる。
これは、のちにアリステラド事変と呼ばれる、世界変革の始まりだ。
ルネスが、全ての物品を換金してくれた。エタン家へくるのは、これで3回目だ。
「いらっしゃい。フェトルくん」
「いらっしゃいませ。フェトル様」
使用人も出迎えてくれた。
俺の住んでいる貸家とは違い、持ち家だからか豪華だった。
「おはようございます。リヤンさんお邪魔します」
今日はギガントゴブリンを倒してから1週間後になる。
「ルナールさん。紅茶をお願い」
「畏まりました。リヤン奥様」
使用人はたぶん、厨房へと向かったと思う。
「物品と金銭、合わせて。430万グートですので、215万2500グート。受け取ってください」
謝意を述べ、大金を受け取った。
紅茶が運ばれてきたので上品に飲む。
童話や伝記、レヒツさんを絡めた小話でエタン家を盛り上げていたら、昼になっていた為。
昼ご飯をご馳走になる。気をよくしてしまった俺は、饒舌とかしていた。
結局、晩ご飯までご馳走になり、現在――。
お酒で出来上がった、リヤンさんに絡まれた。
「フェトルくんー、好きな子いるー?」
左肩を掴まれる。
「……いいえ」
「16でしょ、大人でしょ。好きな異性の子位いるんでしょ?」
「……昔、1人」
(はしたないな……リヤンさん)
「1人! 乙女かってんの……うにゃ……」
左肩を掴んでいた手が、離れだらんとなった。
「早く(フェトルくん。今の内に)」
ルネスさんに最後、小声で呟かれたが耳に届いた。
玄関へ向かおうとしたら、襟を後ろから掴まれ引っ張られた。
「待ちなしゃい、フェトルくん……」
力で振り向かされ、顔を火照らせたリヤンさんと目が合う。
リヤンさんの吐く息によって、負傷した兵士に使用する消毒液の臭いを連想してしまった。
「お食事ありがとうございました。それでは、失礼します」
両手を使って優しく、リヤンさんの右手を掴み。
その手を、体へ戻してあげる。
玄関へと向かった、ルネスの方を視線をずらす。
リヤンの方を見ると、立ったまま舟を漕いでいた。
(器用だな……)
会釈し、立ち去ろうとしたら背後に気配を感じる。体を左に傾け、何かを躱す。
廊下から部屋へと、入って来た。次女のプロレと目が合った。
行き成り。右手首を掴まれたと思った瞬間に間接を捻られ、左足への衝撃。
両膝が地面に落ちる。
(巧い!)
技術的に関心してしまった。「フェトルさんがーー!」左の瞳に拳が映った瞬間、意識を砕かれた。
優しい感触の布団に俺は包まれていた。
布団を持ち上げると、僅かな埃が舞い上がった。
絹製のパジャマを着ていた。着替えをした記憶が無いのにパジャマ。
左顔面に痛みが走る。出来事を思い出す。
エンセクター空撃術。レヒツ中尉から、数10種類の攻撃方法を教えて持っていた。
「使用人に、着替えさせられたか……」
懐かしいだけで、恥ずかしくは無い。
服を置く台に、俺の服が置かれてあった。それに着替える。
空色の絹製パジャマを畳み、部屋を出た。
「おはようございます」
大きい机の備えられた椅子にルネスさん、リヤンさん、レヒツさんとルネスの妹。
プロレちゃんたちが座っていた。
全員、深刻そうな顔をしていて……。
リヤンとレヒツ中尉は椅子から、立つ。
「フェトルくん、昨日のこと。ごめんなさいね」
お辞儀。
「フェトル。大事な話がある、私の部屋へ来てくれ」
「え?」
軽く、言葉を詰まらせる。
「レヒツ中尉」
首を左右に振って口を開く。
「レヒツさん、大事な話とは」
「いいから来なさい」
レヒツに肩を掴まれ、来た道を戻った。
部屋の扉を優しく閉め、開口一番。
「アリステラド憲法が1週間前に失効していた」
「それは……」
それがどれほどの影響を世界へ与えるかを、考えていたら絶句した。
「更に4日前。ガリグラトム王国は、我らのエンセクター王国に降伏していた」
「質問、いいですか」
頷かれる。
壁時計の針が音を鼓動に合わせ、早く刻み始めた気がした。
憲法は一旦、置いておく。戦争の状況から、先に確認する必要があったから。
「最前線から、ガリグラトム王国の王都まで262kЯあり。
ガリグラトムの防衛線まで最短135kЯ。あっ、アリステラド憲法!」
ベッドの上に、グランデ鞄と魔法文記述巻物が投げ置かれた。
「戦場でグランデ鞄や転送魔法に代表される殺傷能力の無い。魔法文記述巻物、古代石や魔力石からの魔力供給を受けた魔法武器や魔法兵器等。これらを使用することができない法律がアリステラド憲法によって禁止されて……」
話を引き継がれる。
「今までは、それらを使用しないことを前提とした。王国軍の運用展開、兵站調達、運搬。その他、諸」
鼓動の高鳴りが、俺から言葉を奪う。
「今後、戦争が起きれば今までとは全く違ったものになる。誘導性魔法円の精密展開、開戦と同時に敵国王都へ兵士の大規模転送展開。一般兵への高威力魔法兵器、魔法武器や魔法防具の解禁。それら変革による戦術の再構築。兵員の指導変更、王国学校が今まで。できなかった未成年者へのより実戦的な軍事学教育解禁。アリステラド憲法は、中途半端な縛りがあったのは確か。それが冒険者たちより、遅れた装備で戦って無駄に戦期が長引く原因の1つでもあり。戦場でぶつかり合うしかない、1週間前の戦争の形だ」
レヒツの導き出した答えは、完璧だ。
「これは……」
「今、世界最大の王国がエンセクター王国。極論かもしれないが、これからは小国でも少数精鋭の部隊で国王狙いの短期決戦。それだけで戦勝国になうことができるかもしれない」
息を呑む。
「極秘なのだが1部弓兵に謎の、戦術魔法兵器なる。携行型発射機が5日前に支給された」
「どうやら王国は、数ヶ月前からこうなることを知っていたのかもしれない」
数ヶ月以上前から、王国は知っていただと。
戦術魔法兵器?
「戦術魔法兵器ですか。戦術級魔導師と戦略級魔導師なら、知っていますが」
「戦略級魔導師はその存在自体が、抑止力。そいつらが実戦で魔法を使用したら、国どころか土地すら消失または大地が変動する。エンセクター王国に2人居るな。戦術級魔導師は実戦での使用を想定した程度に抑えてあるな」
「確か、王国直轄で25人。でだ、戦術級魔法に準ずる魔法を使用する。
兵器の名称を、戦術魔法兵器と呼ぶみたいだ」
「それは、どんな見た目なんですか」
「クロスボウだ。矢を必要とせず、魔力供給石からの魔力供給によって魔力を矢へ形成変換し発射する。名称は、マジッククロスボウと確か呼んでいたな」
「なぜ、勝利したことや。アリステラド憲法が、失効したことに対しての公示が行われていない」
「解るだろ、ことの重大さが」
口を閉じる。
お父上の姿が、頭に浮かんで来た。
――抑止力の意味を答えられるか、フェトル?
お父上に課題として出され、戦場に於ける勝ち方を聞かれて答えた後。
決まって、新しい質問をされた。
――相手を圧倒する戦力と城壁を持って、戦争を起こさせないことです。
質問に答えると決まって、こう返す。
――平和の為に他にできることは?
解かる訳が無い。一桁の年齢、そんな子供に解かる訳が無いだろ。
王国図書館に毎日通ったのは、難解な本と格闘しお父上に知識で勝つ為。
――この世界を主観で捉えることができなければ、全て幻想となる。
俺は、予想以上にこの世界が嫌いだった。王国の偽善も商人の虚偽もそれらに騙される王国民も全て嫌いだ。
あの時。
王国公示人がした演説を、心の中で俺は公示人を馬鹿にし、笑っていた。
次々、今まで何故か忘れていたことを思い出す。
お父上に何時も、勉強不足だと言われ悔しい思いをしていたことを思い出した。
お父上は、優しかった筈……。
心の中で舌打ちをした瞬間。
更に少しだけ思い出す。
お父上のことが俺は、戦死するまで嫌いだった?
俺は本当にフェトル・イーストラ=スズナなのか……。
「これから、フェトルはどうする?」
レヒツの声でやっと、お父上から離れられた。
あれから、2時間ほど話し合い。朝ご飯をご馳走になった。
この世界で、エンセクター王国へ戦争を仕掛ける度胸や軍事力がある国。
西の大国セイヴィアス皇国と竜人辺りだろうと2人で同意した。
竜人は、ドラゴンが人になった竜神族、竜族。
人が竜並みの力を手に入れた竜人種の3種がある。
どこに居るのかは、よく解かっていない。
人がドラゴン倒し、その血肉を取り込み竜を超える力を得た人間種を竜人種。
その過程は、諸説ある。竜と契約したとか、神を殺して力を奪ったとか伝記の中で色んな諸説が展開されていることが諸説あるの由来だ。
それら2つが存在する。まとめて竜人等と、呼んだりする。
エンセクター王国の王都から西へ直線で6250キロロス。
途中、リヤブラム密林と言う。上級冒険者殺しの密林が存在する。
ここに生息しているモンスターは、アリステラド大陸内で1番の強敵だと伝え聞いていた。
セイヴィアス皇国がエンセクター王国へ攻めてくる場合、迂回して移動する必要がある。
迂回進路に、北の大国ガリグラトム王国。
総進軍距離は大体、1万2145キロロスだろうか。
先に宣戦布告して来たのは、ガリグラトム王国。
エンセクター王国にしてみれば、一石二鳥だ。
――これからは個人の強さが、物を言う社会になってくる。
レヒツの言葉。
その全てが、的確であり、優れていた。
家に帰ったら直ぐ、母上に全て話した。
始めて見る。お母さんの、冒険者時代に使っていたと言うショートソードを授かった。
無性に剣を振りたくなり、俺は冒険者ギルドの練習場で剣を振っていた。
タオルで汗を拭う。
剣を振ったら、心が落ち着いた。
鞘に剣を収め、紐をベルトに巻き付け左腰に帯剣。
冒険者ギルド演習場の中には、冒険者がいなかった。
貸切だな。
「お前にとって、家族とは何だ?」
背後から、お父上の声が耳に届いた。
体ごと振り向く。
誰も居ない。
背後に気配。
そこへ視線を向けた瞬間、185センチロス位の男がいた。
「家族の意味を知っているか? 強さとは、何だ」
「な……」
口が固まる。
「愛の意味を答えられるか、人とは何だ?」
何を言っている。家族は俺の父や母。お祖父ちゃん、お祖母ちゃん。
親だったり、兄弟姉妹。親戚の子も一緒に住んでいれば家族。
婚姻で一緒に住んでいる者とその子供。
一緒に住んでいれば、血がつながっていなくても家族。
家族って、大きいな。この世界には多種多様な家族があったんだな。
で、この男は何が言いたい?
「それが答えか」
魔力が俺の口元を覆っていた。
質問しておきながら、俺には答えさせないこの状況に少し腹立たしくなる。
「うん?」
「…………癇に障るな!」
魔力を口元に込めたら、発声できた。
「何が強さだ。家族の愛など、小説や伝記で語っていればいい!」
辺りに魔力が飛び散る、魔力の開放で砂埃が発生した。
「ほう。本当の自我すら物とするか、まあ。それでいいがな」
一気に知識が、頭の中を駆け巡る。
知っている、今までに読んできた本。学んできた知識それら全てが、新たに書き加えられていく。
勝手に語り始める。
「英雄や勇者、強い者は強制で期待を背負わされてきた。
自己犠牲なんだよ、他者の為に?
笑わせんじゃね。自分のことで手一杯のくせに、他者を助けるから。
愛した物へ傾けるべき愛情が減り。命を削り、手にしたものは何だ。
賞賛か、金か、羨望か?
無形だから、欲しいのか意味が解らない。家族のことはどうだっていいのか!
若し戦いで死んだら、子供になんて説明する。
戦場では、運が悪くても死ぬと言ったのは親父だぞ!」
俺は……。
13歳からのフェトル・イーストラ=スズナ。
昔の俺は……生まれから13年間の生きた、フェトルでは無い。
俺は何だ?
不意に、頭の中が真っ白になる。
「記憶が溢れたか……」
右手を肩に載せられた、瞬間。記憶が綺麗に収まった。
「俺は、フェトル・イーストラ=スズナ」
両腕の力が抜け、だらんと落ちる。
「イーストラ家の直系にあたるお前には、行って貰いたいことがある」
走り始める。
「おいっ!」
練習場からでると、石畳に足を捕られそうになった。
それでも走る、走り続ける。
「イーストラ戦役で、俺の両親は……」
数百人に俺の涙目を見られたと思うが、気にせず。家へ向かって走り続けた。
家の扉を乱暴に開ける。
「お母上」
返事が無い。
「お母様!」
背後に気配を感じる。
「どうしたの? そんなに慌てて」
確かに、キャメリア母上は存在していた。
母上を振り返って見る。
『こんなこと、試したくはなかったが……。土は土へ砂は砂へ』
魔法の発動、前段階で近づく。
「フェトル……。もうお終いにしましょう」
「え?」
「本当は気づいているんでしょ」
「それは……」
壁に左手をつくと、汗に大量に埃が付着した。
「どうしたら……」
部屋では綺麗好きの母上、掃除をしない訳がない。
「全てはフェトルが、私たちが戦死してから数ヵ月後に自我を閉じ込めてしまったから……」
親に生きていないんですか?
と訊ねることができない。
「本当は、両親に甘えたかった。ガリグラトム王国へ復讐心、20歳になったらイーストラ家の所有する領地。侯爵という爵位でも上位にあたる爵位を継ぐことに対する重責と不安感。あなたが1部の記憶と感情を深層に閉じ込め、理想のフェトルを演じてきた。それが、2つの人格を形成してしまった原因」
言葉が浮かばなかった。
「空の上に居る。その空間は、理想を見せるだけ」
全て知っていたのか。
「本当はイーストラ戦役のとき。エンセクター王国は、5000人の精鋭部隊も同行していました。ですが私たちは、1人の竜人種に殺されました」
母上の体から、魔力がゆっくりと流れ出ていく。
「俺のせいだ。俺が、何時までも生きているんだと思っていたから。現世に縛られて……」
「このような言い方があっているとは思わない。
恨むなら竜人種ではなく。首領のサンデス・ロガールセンだけにして」
「そいつが、イーストラ草原で戦った相手ですか」
急に、埃っぽさを感じる。
「誰かを好きになって、相手も同じ気持ちなら。愛してあげなさいね」
行き成り、消えた。
13歳の時、両親を亡くしていた。
センラカド市より、北に位置する。イーストラ市、かろうじて昔の王国があったと感じられる場所だ。
イーストラ市スズナ区、人気の無い町に墓地がひっそりと存在していた。
センラカド墓地にある、イーストラ家の墓標。
そこに今では軍神アルセとエンセクター王国軍内で呼ばれている。
【アルセ・イーストラ=スズナ/6186年9月】
【キャメリア・イーストラ=スズナ/6186年9月】と墓石に刻まれていた。
その後、爵位協会。
爵位は、爵位協会へ返納するまで名乗れる。
頭の中で、自分に都合が悪いところは消し、書き換えていた。
なぜ、そのようになってしまったのか、解かる。
心。それがただ、弱かっただけだ。
自分の存在意義が復讐だ、と決めつけ。左上腕に巻いた白い布を外し、戦場で拾った剣でガリグラトム王国兵を斬り続けた。
幾ら斬っても、心は埋まらない。
心は満たされない。
1つの小隊500人程度の部隊を白い布を巻きつけたまま、壊滅させたとき。
偽善らしく、戦闘能力を奪う攻撃で命はできるだけ奪わなかった。
1人生き残った、将兵に対してレヒツ少尉は……。
――申し訳ない。この罪は、こいつに償わせる。
生き残った将兵に見られながら、拘束され。両手を紐で後ろに縛られた。
レヒツは俺の耳元で、呟く。
――額の真ん中を狙うから、両手をそこに合わせて矢を止めろ。
紐を将兵から見られないように、弛めてくれた。
弓を構えるレヒツ。
矢が放たれ、飛んでくる。
その時、矢は動きを落とした。
矢の飛翔軌道上に右手を出したら、激痛。
泣き叫ぶ、俺。
こんな俺でも、愛を受ける資格はあるのだろうか……。
そんなことを爵位協会の中で、待たされている間に過去のことを少しだけ思い出していた。