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第3話 復活

 早朝、寒い空気が俺の吐く息を白濁させた。

 誰もいない、外でバスタードソードを振り続ける。

 軽い。重いかった、王国正式軍剣改とは違い剣の先まで意識を流せるような。

 扱い易さだった。

 2時間ほど剣を振ったら、汗が噴き出してきた。

 まだ、外は薄暗い。朝霧の寒さは、日中の寒さとは一味違う。

 1棟を挟んで、レヒツ中尉の家があることは知っていた。

 食事後、2月の冷たい風を感じながら考える。

 エンセクター王国の軍隊。

 総勢9万7130人の王国最大にして最強。

 なぜ、このような大国に戦争を仕掛けたのか。

 センラカド王国の行いたかったことが、俺には良く解からない。食料や資源かと訊ねられると、センラカド王国の方が土地が肥えていたし、鉱物資源も豊富に採れた。水資源だって、王国随一だ。

 センラカド王国は、今で言うところの旧時代的独裁国家だった。

 貴族特権。王家の国庫からの浪費(ろうひ)、王国国民への重税(じゅうぜい)。旧時代的奴隷制度。

 今となっては、そんな王国もあったな程度。歴史に埋もれた王国だ。

 一番優れた王国だと思っていた、ときもあった。

 

 話を戻そう、エンセクター王国の軍隊。

 それは、国王を最高位総指揮官とし。国王の意向を確認しながらも実際に指揮を執るのは元帥(げんすい)

 その下に将官(しょうかん)大将(たいしょう)中将(ちゅうしょう)少将(しょうしょう)准将(じゅんしょう)

 佐官さかんの大佐、中佐、少佐。

 尉官いかんの大尉、中尉、少尉。

 准士官の准尉じゅんい

 下士官かしかんは、かなりややこしく。

 最上級曹長、上級曹長、先任曹長(せんいんそうちょう)曹長(そうちょう)、一等軍曹、二等軍曹、三等軍曹。

 特殊技能兵、伍長(ごちょう)だ。

 一般兵の兵長(へいちょう)、上等兵。

 一等兵、二等兵、三等兵。

 一般兵最下位が王国兵だ。軍役2年以上で三等兵に昇格。

 初めて入隊した者に王国兵の称号が、与えられる。

 普通に称号では無いと、俺は思うが……。

 センラカド王国にある図書館で、軍事関連の本は全て読み、暗記した。

 6185年3月まで、俺はセンラカド王国の市民だった。

 世界の安定にセンラカド王国は、必要では無かったと思う。

 いつもこれだ。

 暇さえあれば、軍事、戦力、剣術。それらを、考えている。

 軍に染まり過ぎた、これ以上染まったら引き返せないと思っていた。

 下士官かしかん試験、受けなくて本当に良かった。

 右手の矢に射られた傷跡。

 戦場での禁を破った為にレヒツ中尉か弓矢で射られた。右掌中央の傷跡を頭が痛む、思い出すなと言っているようだった。

「おはよう、フェトルくん。もう仕度終わってたの、早いね」

「おはようございます。ルネスさん」

 数回言葉を交わし、防具屋へ行くこと、となった。

 防具屋に立ち寄り、体に合う防具が丁度あったのでクロスアーマーと手甲てっこうを購入。

 俺たちの住んでいる、エンセクター王国領内シロカット村から東に数10分。

 マリトガス区。マリトガスの森にある、第821号王国認証済みダンジョンへと向かっていた。

「扉の前にある台。そこへ2人分の入場料を置いた後、転送石に魔力を込めて下さいね」

「解かった」




 その後、2人で同時にダンジョンへと入り。部屋が分かれるまで一緒に行動した。

【164階】

 少し動きが速くなったゴブリンを瞬殺し現在。

 目の前に扉が2つ。

「165階から分岐式だったんだ……」

「ここでお別れだな。色色、教えてくれてありがとう、又何時の日か逢えたらら」

「そうですね。“冒険者なら、また逢える”ですから」

「また逢える。そうだな」

 ルネスは、手を大きく振り何かを正そうとする。

「違います。冒険者なら、また逢えるって言うのは冒険者が冒険者へ送る言葉です。意味は、生きてまた逢おうってことです」

 何が違うと言いたかった、直ぐに理解できた。最適の返答を声に出す。 

「冒険者ならまた逢える。先に行かせて貰う」

 扉を勢いよく開き、部屋の中へと足を踏み入れた。




【198階】と石質の違う壁画(へきが)が、壁に埋め込まれていた。

 部屋の中で異様に強かったゴブリンが砂化した。石畳の床に落下した硬貨が、音を立てる。


 部屋の先に扉が無く、廊下。

 数分歩いたら、行き成り。扉が目に入った。生成り色の扉は、場違いなほど豪華だ。

 その以下にもな感じが強敵の出現を示唆(しさ)しているようだった。

 中へと入って驚く。

 部屋の中には、モンスターがいなかったからだ、更に一切の扉が無く。後ろを振り返ったら先ほど入ったときに使用した、扉も消えていた。

 敵が居ない、扉も存在しない。部屋は不気味なことに明かりの元が存在しないのに、明るかった。

 ダンジョンでモンスターが出現することを“湧く”と言うらしい。

 昨日、知ったことだがな。取り敢えずモンスターが湧くまで、待つことにした。



「ヒュッン、シュッン、ヒュン」

 静かなダンジョン内の部屋で、剣を振り空気を裂く。振り下ろしから、中段で静止させる。

 いつまで経っても、湧いて来ない。

 この部屋は、遭遇率と湧き率が低いようだ。

 遭遇率とは、部屋へ入った瞬間。モンスターがいる割合を示す。

 湧き率とは、その部屋でモンスターが湧く時間の割合を示している。

 他に敵を倒した後、部屋に留まり。時間経過によってモンスターが湧くことを、時間湧き率と呼ぶ。

 

 ルネスから、教えて貰った知識だ。


 音と共に扉が開く。

「やっと、ボスの部屋に到着ー!」

「ルネスさん……」

 ボス? 聞いたことが無いな……。

 モンスターのことか?

 朱色の髪を右手指で、右耳へ掛けた。

「合流式だったの……。私も、ここまで来たことは無くて……」

 中央に高密度の魔力を感じる。

「合流式はパーティと合流するまで、首領(しゅりょう)が出現しません。あっ! 湧きます」

 瞬時に出現。

 巨大なゴブリンの体は小豆色で、231cЯ。普通のゴブリンが鏡を持っていた。

 180cЯ位の鏡を地面で固定する。

「ギガントゴブリン、ミラーゴブリン。フェトルくんは、ミラーゴブリンの方をお願い!」

「解かった」

 ギガントゴブリンと呼ばれた方は、ロングソードを所持していた。

 ギガントゴブリンまで、28Я。ミラーゴブリンまで12Я。

 頷きながら走り出し、抜剣。

 残り、6Я。ルネスさんの方を見ると、弓を構えて矢をつがえていた。

 小型ナイフをベルトに付けたケースから抜き、投擲(とうてき)

 鏡に弾かれる。

「スケルトン、フナーティクスケルトン。現れたまえ」

 ミラーゴブリンが、普通にアリステラド語を話した。

「魔法含み矢、使います!」

 俺にゆっくりと、近づいてきていた。ギガントゴブリンが針路変更。ルネスを狙いにいく。

 鏡の中から、スケルトンが9体ほど出てきた。

 スケルトンを斬りつける。

 効果があったのかよく解からないので、地面を蹴って後退。

 轟音。ギガントゴブリンが、吹き飛ばされ壁に激突した。

 砕けた石積み壁は、そのまま砕けた状態で変化しなかった。

「カーー!」

 唸り声を聞いた瞬間、空気を抉る音が耳に届く。

 スケルトンがメイスを装備していた。

 メイスを持ち上げ、空気を抉る。地面を右足で蹴って、後退。

「斬撃系では、効果がほとんど無いか……」

 鏡の中から続々、スケルトンが出現した。

「土は土へ、砂は砂へと《返れ》」

 スケルトンが崩れ落ち、砂化。

 精神浄化魔法を発動したのだが、1部のスケルトンは動き続けていた。

 メイスの振り回しを躱しながら、剣を打ち付けるが効果が無い。

「そのスケルトンは、フナーティクスケルトン。元聖職者がスケルトンになったもので、精神浄化魔法は効果がありません。打撃系の攻撃で倒してください」

 鈍器が、鈍く空気を切り裂く。

「今の剣に《魔法式記述》はされてる?」

「どうすれば、確認できる!」

 2体のフナーティクスケルトン。

 スケルトンがメイスを振り回す。

 フナーティクスケルトンに背後を取られる。前にも1体。

 メイスの柄を斬りつけるが、金属音。

「ちっ!」

 背後からメイスが振り下ろされる、右に跳び避ける。剣を叩きつけるが魔力で、生前より強化された骨を砕くことはやはりできなかった。

「魔力供給《(ルート)》」

 ルネスへ視線を向けると、弓が魔力を吸い込む。魔力が赤く可視化され、紐状となり弓に巻きついた。

 スケルトンへ視線を切り替える。

 背後にいた。フナーティクスケルトンの頭をルネスさんが矢で射た、瞬間。頭部が爆ぜる。

 顔に砕けた骨が、顔に軽く当たった。

 直後、崩れ落ちたフナーティクスケルトンから魔力が抜けていく。

 砂化し、消える。

 矢をつがえ、ギガントゴブリンを射り始めた。

 

 ギガントゴブリンが起き上がろうとしていたところを、更に射る。

 試してみるか。

「魔力供給《(ルート)》」

「フェトルくん。それは……」

 剣に魔力が集まる。目の前にいる、フナーティクスケルトンを斬りつけると骨が砕けた。

 蹴り飛ばし、ミラーゴブリンへ斬撃。

 鏡を砕き。左に剣を傾け、上げる。力を一瞬で込め、斬る、斬られた場所から勝色へと変化し、砂色の砂へと変化。

 砂化だ。

 ルネスの方へ視線を向ける。

 ギガントゴブリンが、ロングソードを動かした。

 ルネスの体に何かが直撃。

 壁を破壊した、ルネスの体が床に激しく落下。

 剣に集まっていた魔力が、弾ける。刀身も合わせて砕け散った。

「なぜ……」

 考えるのは後にし、ルネスの方へ走って向かう。

 ギガントゴブリンは首領の余裕を見せ、有り難いことに静止していた。

「痛っ……。強化石使ってもこんなに痛いって……。やっぱり。ボスは手強いな」

 右脇腹を左手で擦りながら、易しい声で発した。

 ボスは首領のことなのか……。

「大丈夫か?」

「復活石を使いたいから、ギガントゴブリンの引きつけ。頼めます?」

 頷く。刀身が半分も残っていないバスタードソードを見たルネスは、グランデ鞄に手を入れた。

「この剣を使ってください」

 両手剣グランデ鞄から取り出し、俺に手渡してくれた。

 バスタードソードを床に置く。

 空気が動いた気がしたので、後ろを振り返るとギガントゴブリンがゆっくりと近づいてきていた。

「クレイモアです。2分間、頑張ってください」

 ルネスはポケットから復活石を取り出し、強く握り締める。

 次の瞬間、目先に淡い光にが発生し体を包まれた。

 俺はクレイモアを鞘から抜き、ギガントゴブリンを目指して走り出した。

 


 2分間、ギガントゴブリンが行った。全ての攻撃を躱し、流した。俺の攻撃は13回直撃していた。

「ありがとう、フェトルくん。一旦下がってくれる」

「わ……解かりました」

 言葉が途中で止まってしまった。疲労していたことに、気づく。

 ルネスはブロードソードを抜剣。

 後退すると、目標をルネスへと変更したようだ。

「魔力流下。《突撃(チャージ)》」

 ギガントゴブリンは斬られる度に砂を飛ばす。

 ルネスの所持した、剣が赤く発光していた。

 砂が飛び散り、床に吸い込まれる。

「ロィーグ!」

 ロングソードが床を砕く。ルネスは飛び散った破片を、後ろに跳んで躱す。

 体力が回復したと思うので、援護に入る。

挟撃(きょうげき)する」

 頷かれた。

 2人で交互に、攻撃を加える。

「あと少し!」俺は叫んだ。

 

 見て解かるほどに動きが遅くなったギガントゴブリン。

 剣を振り下ろしたらギガントゴブリンの体が勝色へと変化し、砂化。

 ギガントゴブリンの砂が一瞬で、物品へと変化した。

 洋服に防具、武器、硬貨。

 異様に服が多いな……。

 小豆色のカーディガン、橙色のワンピースなどなど。女性物の服が、圧倒的に多かった。

「これは、冒険者ギルドに報告しないといけない量ですね……」

 モンスターから倒されたら、装備品の1部が無くなる。

 その対象は、身に付けているもの全てだが下着だけは除いてあるらしい。

 まったくもって、原理が理解できない。

 物品の山は、俺たちよりうず高く積まれていた。

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