第2話 遺跡
ダンジョン。目の前にある古ぼけた石造建築の建物はごく最近、出現したらしい。
だが1人の女子のせいで、ダンジョンへ入ることができなかった。
「だから! 3グート足りないから入れないって。そのぐらい、どうにかしなさいよ!」
「俺が入場料を、決めている訳じゃないんです。入場料は700グートと言う決まりです」
「先にいかせてくれ」
受付の男性に伝えた。
「700グートです」
「入り口の台に置いてください」
703グート置く。
100グート硬貨7枚だけ台から消え、扉が左右に開いた。
中へと入る。
長い通路が目の前にあると思った瞬間、扉が閉じた。
以外に明るい。照明が存在しないのに明るいとは、不思議だ。
早速、出現。
小麦色した体毛の小動物。
ウサギだな。
ウサギが1羽、飛び掛ってきた。
全力で殴りつける。兎の体が勝色になり、砂が飛び散るように消失した。
何だこれ、一体どうなっているんだ……。
完全に何も残っていなかった。
訳が解からない。亡骸が残らないというのは、聞いたことが無い。
後ろに引き返してみるが扉はすでに無く、薄汚れた壁に変わっていた。
どういう原理なのか、理解できないが。
進まないと、ここから出ることはできないと思う。
先に進む。
目の前に扉があったので開く。
部屋の中にゴブリンがいた。反応が遅い奴らだと思いながらも、剣を抜剣した。
「リスィーー!」
ゴブリンがのんびり、向かってきた。
萌葱色のゴブリンに対して、右手の剣を振り下ろす。瞬時に砂化したので、他のゴブリンを葬る。
躱すまでも無く、簡単に片付いた。
消えたゴブリンがいた場所に、石みたいな物と硬貨があった。
拾い上げる。
「グード硬貨、お金だ。こっちは、疵が入ったただの石だな……」
数えたら、213グード。
「不思議だ。モンスターを倒したらお金が手に入るなんて……」
ゴブリンが行き成り、目の前に出現。
「俺から、行かせて貰うぞ」
38回目の扉。
いつまで経っても、出口が出現しない。
扉を開く前に抜剣、部屋へ突入。
硬貨を拾い上げながら、溜め息をつく。
体の限界は、あと4時間ぐらいで。もう駄目だと思う。
この扉で67回目の部屋。
そろそろ、お腹が空いてきた。
このダンジョンに入ってから、5時間以上は明らかに経つと思う。
すでに剣は抜きっぱなし、通路にモンスターが現れることがあるからな。
部屋へと入った。
「よし。これで合計、9050グード!」
先ほどの鮮やかな。朱色の髪を伸ばした女子が俺より先の部屋にいた。
「お疲れ様です」
剣を鞘に収めながら、取り敢えず言っておく。
「君は、扉で3グードを忘れ。更に普段着で、ダンジョンへと入った。見えるからに新人冒険者」
「て、え! 嘘。本当に、防具無しでここまで来たの」
視線を上から下へ向け、じっくりと観られた。
「防具があっても余り、意味が無いかと思うが」
「駄目ですよ。防具無しでダンジョンに潜ったら、下着姿で外に出されますよ」
「下着姿? 聞いていたダンジョンと、随分。差があるな……」
「余りこの部屋で、話をすると。モンスターが湧いてきますから一旦外に出ませんか?」
女子冒険者は右ポケットから傷が入った石を取り出した。
「それ、ただの石だよな?」
「転送石です。魔力を込めれば、外に出られて。転送石で外に出た場所からまた挑戦できるんです」
疵が入った、銀鼠の色。その石を俺に見せる。
「これのことか?」
9個ほど拾った石を女子冒険者に見せる。
「それが転送石。ええ! 復活石に強化石、魔力供給石。希少価値が高いものばかり」
食い入るように俺の手元を見た。
「リスシ」「スシー」
ゴブリンが出現。
「湧いてきちゃったか……」
明るい部屋にゴブリンが3体。黒ずんだ石壁。
抜剣。
3撃で片付けた。
「動きが遅い……」
「……君が強過ぎな、だけだから」
「何も、落とさなかったか。脱出方法が解かったし、出るか」
傷が入った、石だけを右手で握り。魔力を込めるというのがよく解からないが、魔力を込める。
石が発光した、瞬間。
外に出ていた。
「何で私まで、一緒に出てきてるのよ。次回は君と一緒に、入るしかないじゃん!」
「……悪かった」
「君。ダンジョンのこと知らなさ過ぎ、折角だから。情報料は晩ご飯でどう」
「解かった」
親しい兵士から言われたことだが、直ぐ食事に誘う女には気をつけた方がいいとさ。
少し警戒しておくか……。
【煤竹の牙亭】で食事をすることになった。
「はい、豚肉炒め2つね」
中年の小母さんが、料理を運んできた。
小型ナイフの刺し傷が見られる。薄汚れた机に豚肉炒めとパンが入ったお皿を2人分、置かれた。
注文前に自己紹介を行った。
彼女の名前はルネス・エタン=リタル、17歳。これからは、女性と呼びべきだな。
お皿に載ったフォークを豚肉に刺し口へと運ぶ。
美味しそうに食べる。
俺も食べてみたが、普通の味。不味くも無いが、特別美味しい訳でも無い。
王国軍の食事よりまし程度だ。
周りの机で冒険者たちが、杯を交わしたり。自分の武勇を語り合い、店の中は喧騒に包まれていた。そんな中で食事をする。
「家名はエタン=リタル。
若しかして、お父上のお名前はレヒツ中尉。
レヒツ・エタン=リタルなのでは」
2人共、食べ終わったので話を再開した。
机を両手で叩く。
「お父さんのこと。知っているですか! あれ、前は少尉だったのに……。こんなこと聞くのは、どうかなとは思ったんですけど。お父さんは、どんな感じでした?」
「優秀な尉官……。そんな話が聞きたかった、訳じゃないですよね。
レヒツさんは毎日、元気でした。あと世話を焼くのが好きな人かと」
「お父さん……。ずっと長男が欲しかったのに、3人とも全員。女の子だったからかな…………」
木製のコップを口に近づけ、水を飲む。
「あっ! ダンジョンの話でしたね」
机に石を並べて、置いていたら。小母さんが、空になった2人分のお皿を下げてくれた。
「右から。転送石、強化石、復活石、魔力供給石です」
右の石は、銀鼠で普通の石みたいな色だが、疵入り。
次の石は、桔梗色。解り易く言えば、青紫色。
次の石は、茄子紺。
最後の石は、勝色だ。
「ダンジョンのモンスターを倒すと、砂化します」
「砂化。生きていないのか?」
「正確には、砂化する前まで生きています。話を続けます、倒すとお金だったり。古代石だったり、稀に武器や防具を落とすことがありますね」
「俺が、聞いていた話と。随分違うな(兵士たちの情報が古かったのか……)」
「ダンジョンについて、詳しく教えて貰えるか?」
「ええ、もちろんです」
「ダンジョンの中には、罠が仕掛けられてあったりする。ダンジョンも存在します」
「あと、体の傷と物に入った疵は、外に出ると消えます」
2人共に数度、席を立っての長時間の会話。店の中には飲んだくれが1人、机を枕にして寝ていた。
「そろそろ、飲食店の方は閉めさせて貰うよ。まだ話したいなら、部屋に宿泊したらどうだい?」
思春期の子供では無いので、サラッと受け流す。
「帰りましょうか、フェトルくん」
「そうだな。店主、長時間くつろがせて貰ってすまなかった」
【煤竹の牙亭】の外へと出た。
この世界に循環している魔力、それは無限に存在する訳では無い為。
魔法技術を利用した。軍事、医療に関係ない全ての魔法と魔力を使用する製品に対して。
エンセクター王国から、使用制限令が発令されている。
宿屋の外は、冬季の気象状況も相まって暗闇だった。
「真っ暗……。明かりよ、精霊の力によって。灯りたまえ《光球》」
暗闇を打ち消した明かりに、朱色の髪と少し外気によって。ほんのりと赤らめた顔が、照らされる。
光に照らされた髪の毛は、甘そうな蜜柑のようだ。
「家まで送ります。と言うより、帰る方角が一緒なんで」
「お父さんに、教えて貰ったんですよね。本当にお喋りなんだから」
家へと帰りながら、レヒツさんとルネスさんは親子なんだな。などと頭の中で思った。