5人の溺愛者たちとの日常 1/5
続編ではないですが、日常編を。
本編はネーロしか喋らなかったので、一人一人のお話。今回はローゼオ。
作中に奴隷表現と、それに付随する表現が出てきます。残酷描写を付けるほどではないと思うのですが、苦手な方はUターン。
※2月8日・後書きにローゼオ基本情報追記しました。
私には5人の側付きがおります。
彼らは元々奴隷だったのですが、旦那さまの浮気癖を嘆いたお義母さまから、……そう、贈っていただいたのです。
旦那さまはしばらく経ってから彼らのことを知りましたので、私が彼らを自由にしてあげたいということをまだ知りません。お話しようと何度も思ったのですが、彼らの話をすると途端に聞く耳を持たなくなるもので…。困りましたわ。
さて、今日はローゼオと二人っきりです。
彼らは常に私の周りに居て世話をやいてくれるのですが、用事があっていないときもございます。そういうときでも、誰かは必ず傍にいるのですけどもね。
ローゼオはなぜか私の"足"が好きなのだそうです。隙あらば足元に跪いているんですの。『やめてほしい』と何度か言ってみましたが、その度に目を潤ませますの。私はその目に勝てたことがございません。
今日も今日とてローゼオは私の足元におります。今日は足をマッサージしてくれてます。最近、旦那さまと出歩くことや、私の用事で外に行くことが増えたので、足が疲れているだろうと労ってのことだとか。
本音を言ってしまうと、マッサージはヴェルデの方が上手です。ちゃんとツボというのがわかっているのか、夢心地になってしまいます。
でも、ローゼオが私のために一生懸命やってくれているのに、そんな水の差すようなことは言えません。
「ローゼオ、ありがとう。もう大丈夫ですわ。」
なぜあなたはそんなに残念そうな顔をなさるの?
「ラディナ様、気持ちよくなかったですか?」
「そんなことありませんわよ。とても気持ち良かったわ。でもローゼオが疲れてしまうでしょう?」
「オレなら大丈夫です。ですから…」
普通、使用人は自分のことを『私』と言うように指導しますが、彼らには自由に呼ばせております。その方が彼ららしく出来るかと思いまして。
ローゼオが懇願の眼差しで見つめてくるものですから、仕方なく私は『ご褒美』をあげることにしました。今日だけ特別ですよ?他の方がいると何やら言われてしまいますからね。
「ローゼオ、頑張ってくれたあなたに『ご褒美』をあげますわ。」
「ほ、ほんとですか!?ありがとうございます!」
とても嬉しそうに笑うローゼオ。この顔を見てるだけで癒されます。
ローゼオは私より幾つか年上のはずですが、その言動は年下に見えるんですの。アランとはまた違った幼さですわね。
ローゼオは少し緊張しているのか、慎重にスカートの裾を上げていきます。
そして、膝のところまで裾を上げると、私の膝に口づけをしていきます。両足を何度も何度も。
まるで大切なものを扱うみたいに優しく触れるローゼオの唇が擽ったくて、恥ずかしくて、なぜかお腹の奥がきゅんとしました。
??朝ごはん食べ過ぎたかしら。
この国では、女性が足を殿方の前に出すということは恥ずべきことだとされております。なので、どんな方もスカートは地面スレスレまで。
本来であれば、側付きとはいえ、こんな風に膝を触れさせるなんてあってはならないことです。
でも、私にとっては夜会や茶会などで胸をギリギリまで見せる方が恥ずかしいですわ。……私が些細なものだからかもしれませんが。
それに、殿方はお胸が大好きだと勉強しました。大きければ大きいほどいいんだそうです。残念ながら私は実家で受けた『閨の勉強』を活かすことは出来ませんでしたが、世の女性方はその胸を殿方に預けることによって服従の意を見せるそうです。
ですから、私には足よりもよっぽど胸を出す方が恥ずかしいんですの。彼らも、私の些細な胸は見せない方がいいとおっしゃいますし。
だからかしら。ローゼオに足を差し出すことにあまり抵抗は覚えません。勿論、他人の目がある時は決してしませんけど。そんなことより、
「ローゼオは本当に足が好きなのね。」
以前から思ってたことを告げてみました。だって私の膝ぐらいでこんなに喜ぶんですのよ?
「……オレが好きなのはラディナ様の足だけです。他の女の足なんか好きじゃない。吐き気がする。」
いつも穏やかに笑っているローゼオからは想像がつかないほど嫌悪感を顕にした顔でした。私はこれ以上は聞いてはいけないと口を噤んだのですが、ローゼオが話始めました。
「オレは、奴隷時代にヴェルデみたいに傷は付けられませんでした。キレイなままの方が良かったからです。でも、いつも踏みつけにされたり、足を舐めさせられたりしてました。そうすると、まるでオレを服従させているような興奮を覚えるんだそうです。そういうことをさせられた晩は必ず切れるまで口をすすぎました。……女の足なんか薄汚れてる。何が足を出すことは恥ずべきことだ。足を出さないのは簡単に開くからだろと思ってます。」
「ローゼオ……」
彼らは奴隷時代のことをあまり語りません。当然です。そんなこと、誰にも言いたくないでしょう。ローゼオも本当は話したくないでしょうに、まるで毒を吐き出すように言葉を告げていました。
そんなローゼオが痛々しくて、彼のサラサラな薄くピンクがかった茶色の髪を撫でます。
「でもラディナ様は違います。ラディナ様の足はとても綺麗な足です。か細くてすぐに折れてしまいそうな足。誰も傷つけない、むしろオレたちを救おうと歩き回ってくれる尊い足です。貴女の足になら踏みつけにされてもいい。」
「わ、わたくしはそんなことしませんわよ!?」
「わかっていますよ。例えばです。ラディナ様の足に触れられる栄誉をオレに与えて下さってありがとうございます。」
そう笑って言うローゼオに私は愚かにも同情してしまいました。
以前、アッズローに言われたことを思い出します。
「ローゼオ、どうすればあなたの苦しみを消してあげられるのかしら…。私は何をすればいいの?」
思わずローゼオ本人に尋ねてしまいました。本来であれば、私が自分で考えることですのに。こんなことを聞いてもローゼオが本当のことを言うはずがないのに。
「ラディナ様のそのお気持ちだけで十分です。貴女に貰われたオレは幸せ者です。」
ほら。でもなんとしてでも聞き出さなくては。私はまだ何も出来てないんですもの。
目線だけで訴えてみると、観念したのか1つだけ望みを言ってくれました。
「……なら、ラディナ様の足に触れられるのはオレだけって言う『約束』をください。他の男になんて触れさせない、オレだけの『約束』を。」
「あら、そんなことでいいの?わかったわ。あなただけが私の足に触れられる。これからは何人たりとも触れさせないわ。」
「旦那さまにもですよ?」
「ええもちろん。というか、旦那さまは私の足、いえ体になんか興味を持ってらっしゃらないわ。触れることなんてないわよ。」
「…………そうですね。」
苦笑いをしながらローゼオは言いました。なんですの?
「あっ、でも侍女はいいのよね?お風呂とか足を洗ってもらっているのだけど。」
「『今は』まだいいですよ。……その内、ね。」
最後の言葉は声が小さすぎて聞こえませんでしたが、ローゼオが嬉しそうにしていたので良しとしましょう。
話が一段落つくと、またローゼオは両膝に口づけをしていきます。チュッチュッという音が部屋に聴こえてくるのが何だかいつもよりいたたまれなくて、『もう終わりよ』とスカートを元に戻しました。
でもローゼオはそのまま私の足を抱え込み、『ラディナ様の足は軽いですね。』と言ってきました。
確かに、私をいつも抱えるヴェルデからは『軽すぎる』と言われますし、ネーロも細すぎる私を心配して栄養管理をしてくれております。
ですが、貴族の女性は大体このようなものだと思います。まぁ私は他の方みたいに肉感的ではないですが。胸も些細ですしね!
「ちゃんと食べておられますか?」
「私が食べているのはあなたたちが一番よく見ているじゃないですか。むしろ、以前よりも食べていますのよ?」
そうです。以前は、食事も一人で取っていましたから、残してしまうことの方が多かったです。……料理長には申し訳ないですが。
でも、彼らが来てからは残すことも、食事が寂しく思うこともなくなりました。彼らが一緒に食卓に着くことはありませんが(誘ってみたのですが、私の世話で忙しいんだそうです。)、周りにいてくれるだけで賑やかですし、何より残そうとすると、口に入れようとしてくるんですもの。しかも嬉々として。
人から食べさせられるのはいくらなんでも恥ずかしいので、そんなことさせないように私は全部食べてしまうのです。そういう風にしていると、必然と体重は増えてくるので、逆に最近は太らないか心配してるんですが、彼らにはまだまだ足りない様子です。ブクブクになってしまったらどうしてくれるのかしら。
朝食や昼食の量は増えましたが、夜は以前として増えない、というより減ってきてしまってます。
理由は旦那さまです。
以前はあまり屋敷に帰ってこない方だったのに、最近は時間さえあれば戻ってくるのです。当然、夕食を一緒に取る機会が増えましたが、私にはその時間がとても怖くて、食事があまり喉を通りませんの。
旦那さまの監視は日に日に酷くなるような気がしてます。さすがに部屋にまで見張りを立てられるのは嫌だと言えたので、今この部屋には私とローゼオだけですが、扉のすぐ外に見張りはおります。……息が詰まりそうですわ。
しかも、私の行動を把握しないと気がすまないのか、見張り役はもちろん、私の侍女にまで私の一日の行動を報告されているそうです。
旦那さまが帰ってこられる際に私が玄関でお出迎え出来なかった時は、それはそれは凄い剣幕で問い詰められました。家令が何とか宥めてくれたので、タイミングが悪かっただけだと信じてもらえましたが。
旦那さまは一体どうなさってしまったのでしょ。結婚してからというもの、あまり私たち二人っきりの時間というものがなかったので、旦那さまのことをよく知ってる訳ではありません。
ですが、社交界でその名を轟かせている旦那さまは、女性には優しく常に紳士的な方だとか。……遂に私は女性の部類に入れてもらえなくなってしまったんでしょうか。
一人考え込んでると、何か勘づいたのか『ラディナ様』と声を掛けられました。
「なぁに?」
「ラディナ様はお疲れみたいです。香りを焚きますから、少し寝てください。」
そう言うと、ローゼオは私を窓際のチェアに座らせて、自分は香りを焚く準備をし始めました。
ローゼオはお香に詳しく、自分独自の製法で香りを焚いてくれます。オイルだったりキャンドルだったりしますが、どれもいい香りで、気分をリラックスさせてくださいます。
夜の付き添いのときも焚いてくれるので、私は朝までぐっすり眠ることが出来るんですのよ。以前は寝つきが悪かったのが嘘みたいに。
日がまだ出ているので暖かく、さらにゆったりと香りがしてくるともうすぐに瞼は重くなっていきます。
「ローゼオ…こちらにきて……」
私が呼ぶとすぐ足元に来てくれるローゼオの頭を私の太股に乗せて、髪を鋤きます。
「ローゼオの髪は本当に気持ちがいいですわ…。癖になりそう…。」
「癖になってください。オレの身体は髪一筋まで貴女のものです。」
「ふふっ。うれしいことをいってくださるのね。ありがとう……」
ローゼオの優しさに心も体も夢心地になりつつ、私はゆっくりと意識を沈めていきました。
なので、ローゼオが何かを呟いたのが聞こえませんでしたが、まぁ起きたら聞けばいいかしら……。
*************
扉が開く音で目が覚めると、太股の上には未だにローゼオの頭。あら、一緒に眠っちゃったのね。
微笑ましさを感じて、また髪を鋤いたのですが、そのあと扉を開いてその光景を見てしまったアランとネーロに大分文句を言われてしまいましたわ。
曰く、ずるいと。なにがずるいのかはわかりませんでしたが、彼らの機嫌を直そうと私が皆の枕役になるのはまた別のお話です。
『あんな男のことなんか考えないで下さい。貴女はオレたちのことだけ考えてくれればいいんです。オレだけのことを……。』
次は誰にしようかなぁ~♪
※ローゼオ
ピンクがかった茶髪。肩に付くか付かないかの長さで、いつもは下ろしてるけど、たまに後ろで結ぶ。歳は奥様より上の20代前半。(奥様は10代後半)容姿は王子さまタイプの穏和で甘い顔立ち。奥様の前では大型ワンコだけど、他の人には基本冷たい。笑うこともしない。たまにアホな侍女さんが近寄ってくるけど、一刀両断してる。奥様大好きは誰にも負けないと思ってて、あとの4人が邪魔でしょうがない。