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聖贄女のユニコーン 〈かくて聖獣は乙女と謳う〉  作者: 陸 理明
第二話 教導騎士と少女たち
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招かれざる客

 俺たちは夕方から将軍の執務室に集まって、明日以降の訓練内容の確認をするための会議を行った。

 新米騎士たちとユニコーンとの「見合い」を前倒しすることになった以上、今日までの準備はおよそ無駄になるからである。

 会議の参加者は、オオタネア将軍と俺、先輩騎士であるアラナと俺の補佐であるユギン、隊長のノンナ、そして騎士ナオミ・シャイズアルである。

 騎士ナオミが呼ばれたのは、彼女自身に騎乗経験がほとんどないことから、その意見を聞きたかったからということと、十三人の新米騎士の中で最も頭脳明晰であると推薦されたためである。

 確かに、用意された彼女のファイルを見る限り、座学では抜きん出た成績を収めているし、その旨の推薦文も用意されていた。

 おそらくは参謀向きの人材なのだろう。

 妙に俺の方をチラチラ見てくるが、やはり俺の立場とかが珍しいのだろうな。

 もっと肩身が狭くなる前に騎士団に溶け込まないと、これから先がやりづらくて仕方なくなるだろう。

 ちなみに、ノンナの方は、俺の様子を伺ったりすることはほとんどしない。

 耳だけを常に俺に向けていて、俺の一言一句を聞き逃さないようにしているせいで、むしろ俺の方が緊張して変なことを言えないという弊害があるのだが。


「……で、普通の乗馬とユニコーンでの乗馬との違いは、だいたい、装鞍(そうあん)はしても装勒(そうろく)はしないってことだな」


 装鞍(そうあん)というのは馬に鞍を付けることであり、装勒(そうろく)とは馬銜(はみ)をつけないということだ。

 馬銜をつけなければ、当然手綱をつけることができない。

 鞍に関してはつけないと、さすがに長時間の騎乗ができないということから、ユニコーンたちにも我慢させているが、そんな奴らでも馬銜だけは嫌だと断固拒否するのであるから仕方がない。

 ちなみに鞍をつけるのを嫌がる理由は、直に処女の尻と太腿を実感したいという助平心であるから同情の余地はない。

 経験のないナオミはともかく、ノンナは不思議そうな顔をする。


「それだと、騎馬の運動を操作できないのではありませんか?」

「普通ならな。だが、ユニコーンは聖獣なんだ。口にモノを噛ませて綱を引っ張って言う事を聞かせるなんて、不遜だろ?」

「……言われてみれば。でも、どうやってこちらの意図を伝えるのですか?」

「基本は、声を出して指示をすることだ。あまり大声でなくてもいいが、人によって指示の細かさが違うから、そこを自分の愛馬とすりあわせる必要がある。あとは、(くび)やき甲の部分に触れて、簡易な〈念話〉で指示する方法もある。しかし、これは相当心を通わせないとできない」

「私の同期でも、できたのは一人だけでした。しかも、ほんの片言程度です。完璧な意思疎通ができる教導騎士殿が羨ましいぐらいです」


 と、本当に羨望の眼差しを俺に向けて、アラナが言う。

 威厳ある先輩騎士が持ち上げてくれたおかげで、二人の新米がさらに俺に対して尊敬の色を濃くする。

 若い女の子にそんな眼差しを向けられることに慣れていないのでかなり面映ゆい。


「普通の乗馬をしてきたものたちには、その違いがかなり大きいそうだ。馬は手綱で操るものという先入観が抜けきらないからな。もっとも、慣れてしまいさえすれば両手を空けることができるから馬上戦闘はものすごく楽になる。騎士ナオミはどうやら弓が得意らしいから、相当、戦いやすくなると思うぞ」

「そうですか。とても楽しみです」


 口の端をあげるだけの遠慮した笑いだが、この娘の笑い方は非常に上品だ。

 貴族の出とは聞いていないが、しっかりとした躾と教育を受けた娘さんなのだろう。

 男の子みたいな少年っぽい短髪、鼻筋が通って、墨で書いたようなまっすぐな眉を持ち、凛とした雰囲気の美少女だった。

 いちいち頷くところも、話の要諦ともいえる部分ばかりで、二言三言話せば想像以上の知性の持ち主だと判断できる。

 冷静沈着という言葉がぴったりと当てはまる。

 ただ、そのせいかやけに堅い印象がある。

 タナやミィナと比べると、どうしても真面目さが先に出てしまう感じだ。

 まあ、それも個性だし、逆にあいつらが暴走した時の抑えになってくれれば問題ないか。


「そのあたりの変化に対してすぐに対応できるのは、君らの中にいるか? いたら、教えてくれないかな?」


 一瞬だけ顔を見合わせてから、ナオミとノンナが話し合う。

 結論が出たのか、ノンナが言った。


「ミィナとクゥの二人は大丈夫だと思います。あとマイアンも、かも」


 さすがの昼のことなのでミィナ・ユーカーの方の顔は覚えているが、クゥというのは記憶にないな。

 まだ完全に名前と顔が一致していないのだ。


「クゥっていうのは?」

「騎士クゥデリア・サーマウのことです。ミィナが襲歩(しゅうほ)を得意とする乗馬の天才だとすると、クゥは後肢旋回や半停止といった小回りをきかせたりする曲芸じみた馬術の天才ですね。どんな馬に乗っても自在に操れるというのが彼女の誇りです」


 ナオミの答えは明快だ。

 仲間に対しての信頼とさりげない自慢のようなものがあって、見た目のクールさとは裏腹に友達想いのタイプらしい。


「それじゃあ―――」


 その時、大きな音を立てて、執務室の扉を開け放ったものがいた。

 オオタネアの部下で、普段は秘書役も務める文人騎士だった。

 かなり慌てていて、いつもの冷静な様子はない。

 将軍はユギンと交わしていた会話を一旦止めて、問いかける。


「どうした?」

「西の警護役から〈遠話〉が入りました。王都に続く第十五街道沿いに、魔物が確認されたそうです。至急、閣下の指示を仰ぎたいと」

「なぜ、西の警護役からなのだ?」

「街道で魔物に襲われた商隊の生き残りが、警護役の詰所に飛び込んできたからだそうです」

「なるほど。距離的にはかなり近いからな。それで、その魔物はどこに向かっているというのだ?」

「それが……おそらくはここです」


 騎士アラナが立ち上がる。

 すぐに執務室から出ていこうとする。


「ちょっと待て、アラナ。……魔物の種類を聞いてからにしろ」

「……今の西方鎮守聖士女騎士団(うち)で戦える騎士は、閣下と私だけです。警護役は動かせませんし、新米どもに魔物退治はまだ早い。となければ、どのみち、出られるのは私だけです。すぐに準備して出撃します」

「まあ、待て。で、どんな魔物なのだ。ものによっては、私も出る」


 文人騎士は少し躊躇った後、


「完全な確認はとれていませんが、どうやら〈手長〉が二匹ということです」


 アラナの顔に動揺が走った。

 戸惑いと恐怖、怒り、そして憎しみ。

 様々なものが入り混じった複雑な模様。

 それもそのはずだ。

 彼女は一度だけ、〈雷霧〉の中に突貫し、戦い、そして生きて帰ってきた。

 その中であの魔物と死闘を繰り広げたのであろう。

 同じ釜の飯を食い、苦楽を共にした仲間を殺されたのだろう。

 決して許すことのできない怒りが炎となって吹き上げていくのを感じているのか。


「〈手長〉相手となれば、ユニコーンを出せ。おまえの相方は?」

「カーです」

「……カーなら俺が厩舎から連れてくる。だから、騎士アラナは西からの入口付近で待機していてくれ」

「お願いします、教導騎士」

「わかった」


 執務室を急いで出ていこうとすると、今度は俺が将軍に止められた。


「なんだよ?」

「おまえの相方も連れて来い。いや、動いてやってもいいというユニコーンは全頭連れてきたほうがいいか……。よし、そうしろ」

「……乗り手がいないと、奴らは何の戦力にもならないぞ」

「ノンナとナオミはすぐに宿舎に戻って仲間をかき集め、アラナとともに西の入口に集合させろ。簡易ではあるが、『見合い』をさせる。それで、相方が決まりそうな騎士がでたら、ついでに連れて行く。ユギン、私の栃栗毛の馬を引っ立てて来い」

「……そんな、まだ早すぎるのでは?」

「〈手長〉相手とは、私とアラナ、そしてセシィが戦う。新米どもは見学させるだけだ。ちょうどいい、滅多に〈雷霧〉の中から出てこない上、こんな人里まで奴らがやってくるなんてことはまずないから、よい授業になるだろう。早くしろ」

「わかりました」

「では、早速動け。これは命令だ」


 そう言われると、俺をのぞく全ての騎士たちが執務室から出ていく。

 さすがに軍属だけあって、一度方針が決定されればその行動は迅速だ。

 騎士とはされていても、まともに所属したことのない俺には真似ができそうにない。

 最後に残ることになった俺は一度だけ振り向き、将軍に向かって、


「俺だって、実戦は初めてなんだが……」

「他の連中には黙っていろ。おまえの仕事はユニコーンで〈手長〉どもの周囲をかき回すだけだ。もっと大切なのは、そのおまえたちの動きを新米どもに見せつけることだ。見取り稽古というやつだな。だから、それができればいい。主な戦闘とトドメは私たちが刺す」

「うーん、手柄はそっちもち?」

「おまえ、俗世の地位に興味が出てきたのか? 見損なったぞ」

「言ってみただけだよ。俺はここで手に入るどんなものも欲しくないからな。……じゃあ、駄馬どもを連れてくる。あんたも早く準備しろよ」

「ああ、わかった」


 俺は執務室を出て、すぐにユニコーンたちの住処としている厩舎に向かった。

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