ご両親様へ
このお手紙は、無事にお手許にとどいたでしょうか。そのことだけを念じて、筆を執っています。
今日の朝、ワプサン地方に〈雷霧〉が発生したとの報告が入りました。ついに私たちの出征のときがやってきたのです。
この期に及んで、一度も挑戦できなかった様々なことが思い浮かび、今更のように悔やまれます。
お父様やお母様のように婚姻し、子をなし、そして育てるということが叶わぬ夢になるかと思うとただただ辛いです。
でも、私のように親不孝な娘を持ってしまったご両親様の辛い気持ちを考えると、まだ私の方が負けているのでしょうね。
ごめんなさい。
ご両親様、ごめんなさい。
私たちの屯所から眺める夜空の輝きは、故郷のものと同じものです。いつも、就寝前に夜空を見上げ、懐かしい人たちと土地の記憶を反芻しています。
その度に、どうして〈雷霧〉などというものが発生し、どうして〈雷霧〉は人を苦しめ、どうして神は私たちを〈雷霧〉から救ってくれないのかと考えてばかりいました。
そして、どうして、私たちが……
(※ 注 原文は文字が滲んでいて読めなくなっている)
サリスという騎士の友達がいます。
とても可愛い娘で、ご両親様もご存知のある貴族様のご息女なのだそうです。
明日の朝、私は彼女とともにワプサンに向けて出発します。
私と彼女はとても仲が良く、戦技訓練の時にいつも組みを作っていました。
あるとき、私は彼女に尋ねました。
「……貴女は貴族のお姫様なのだから、安全な場所に避難したほうがいいのではないか」
それについて、彼女は笑って答えました。
「何を言っているの? 貴女が〈雷霧〉に往くというのに、私だけが逃げるわけにはいかないじゃない」
「困るわ。その言い方。私のほうが逃げられなくなるから」
サリスは誇り高い少女でした。
気位ばかりの貴族ではなく、共に学んだ友達のために戦える本当の貴族でした。
なぜ、彼女のような有為の人材があんな穢らわしい〈雷霧〉なんかで死ぬような真似をしなくてはならないのでしょうか。
私にはこの世界が呪わしいです。
でも、ご両親様や妹たち、騎士団の仲間たちのことは愛おしくて仕方がありません。
また、皆様のお顔を拝見したいです。
もし、無事に戻ってこられたら、またお手紙を出します。
うまくいけば一時帰郷も許されるかもしれません。
それだけを楽しみにして、ここで筆を置きます。
御身お大切に。
ご両親様。




