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教導騎士の秘密

「そもそも、貴様がすべての元凶ではないかっ!」

「なんだと?」

「我が国の救世主たる〈ユニコーンの少年騎士〉を教導騎士なんぞに据え、危険に晒すなど、看過できん行為を平然と行いおって。恥を知れっ!」

「何を言うか。そもそも、セシィは私との約束を守るために、この世界に残ることを決めたのだ。ならば、私の頼みを聞いてくれて当然。それをおまえにとやかくいわれる筋合いはさらさらない」

「ふん、なにが約束だ。セスシスくんの毅然とした勇気ある態度を、自分勝手に解釈しおって。昔から、貴様はそうだった。年増になっても変わらんなっ!」

「……おまえ、いい加減に地獄に落ちたいようだな」


 先ほどからの口論は、いまだ続いていた。

 昔から、このふたりはこんな感じで、よく両家も許嫁にしていたなと思ってしまうぐらいだった。

 顔を合わせれば、殺伐とした口論を繰り返し、ときには暴力に訴えるこの将軍たちを、部下たちが意味深な表情で眺めている。

 俺はというと、さっきから西方鎮守聖士女騎士団の騎士たちに、俺がどうしてこの世界にいるのかということを簡単に説明していた。

 ちなみに、代官と役人はすでに退出させている。

 オオタネアとダンスロットの二人による恫喝混じりの口止めがどの程度の効果があるかはわからないが、多分、彼らは国家機密を漏洩することはないだろう。

 まあ、いつかは発覚するだろうことはわかっていたのであり、割り切って考えるしかない。

 そもそも、俺の素性が国家機密に指定されているのは、政治的な問題にすぎないのだから。

 

「……もともと、俺が自分の世界から来たのは、ツエフでのことだったんだ」

「ツエフって、〈白珠(はくじゅ)の帝国〉のことですよね。大陸で最初に〈雷霧〉に侵食されて滅亡した……」

「ああ、そうだ。〈妖帝国〉ともよばれていた」


       ◇


雷霧(らいむ)〉とは、この大陸の西方からこの世界を侵食し続ける脅威である。

 だが、それだけでは〈雷霧〉が人間界を襲う最大の脅威であるとまではいえない。

〈雷霧〉の最大の恐ろしさは、決して自然には消滅することがなく、そして際限なく膨張し続けることにあるのだ。

 一度でも〈雷霧〉に取り込まれた地域は決して人の領土には戻らない、と思われていた。

 しかし、そうではなかった。

 あるとき、西方において〈雷霧〉の脅威にさらされたとある王国は、何よりもその正体を探るべく、国家最強の騎士団に、惜しみなく可能な限りの聖なる祝福を与えた武具を与え、〈雷霧〉の中心へ向けての強行偵察を断行した。

 結果として、選ばれた約百人の騎士たちは全滅することになるのだが、そのうちの三人だけは情報という成果を持ち帰ったのちに亡くなっている。

 そこで、判明したことは、〈雷霧〉の中心には岩のような〈核〉が存在し、それが中心部から〈雷霧〉を放出しているという驚くべき事実だった。

 すなわち〈雷霧〉は一つの巨大な自然現象ではなく、一つ一つ〈核〉が設置されることによって陣取りゲームのように拡大していくものだということが判明したのだ。

 要するに、直近で膨張している〈雷霧〉については〈核〉さえ破壊してしまえば止めることができるということをそれは示している。

〈核〉がどのようにして設置されるのか、それが誰かの手によるものなのか、どのような仕組みなのか、詳細は一切不明のままであったが、何よりも重要なのは〈雷霧〉を止める術があるということだった。

 そのため、その王国は自国を救うためにさらに多くの騎士をつぎ込んだが、一度たりとも〈核〉を破壊することができず、すべての国土が〈雷霧〉に飲み込まれた。

 以降、大陸西北の国、西南の国は次々と飲み込まれていった。

 人類にとって最悪だったのは、大陸で最も優れた魔導技術を誇る〈妖帝国〉までが〈雷霧〉によって飲み込まれ、強力な魔導師の助けが得られなくなってしまったことである。

 ただの自然現象でないものに立ち向かうために、最先端の魔導の知識がないという事実が後手に後手に対応を遅らせて行った。

 このまま、大陸も、人類も、それ以外のすべての生物も、奇怪な脅威に侵されて滅ぼされるのも時間の問題と言えた。

 ……だが、ついに中原の大国バイロンにまで〈雷霧〉が到達した時、人類史上初めて〈核〉が破壊され、脅威の進行が止められるという快挙が成し遂げられる。

 それを成し遂げたのが、バイロンの西方鎮守聖士女騎士団。

 俺たちの所属する騎士団である。

 しかし、〈雷霧〉が何故発生したのかという疑問には、まだ正確な答えは出ていない。

 なぜなら、〈雷霧〉発生の最も古い記録は十二年前に遡り、その観測がなされた国が真っ先に消滅してしまっていることから、原因を特定することができないのだ。

 しかも、消滅してしまった国こそが、大陸で最も魔導文明が発達した、魔導の中心地でもある〈妖帝国〉であり、〈白珠(はくじゅ)の帝国〉ツエフだったのがさらに混乱に拍車をかけた。

 曰く、〈雷霧〉は〈妖帝国〉の発明した魔導兵器の暴走であり、その消滅は愚かな自滅である。

 曰く、〈妖帝国〉はいまだ健在であり、〈雷霧〉による版図拡大を狙っている。

 曰く、異世界からの攻撃が〈雷霧〉であり、対抗手段を持つ〈妖帝国〉が真っ先に狙われたのはそのためである。

 曰く、曰く……

 数多くの噂が流れ、誰も真偽を確かめる手段のないまま、風説だけが巷間でとりざたされていった。

 そして、未だ、〈雷霧〉の発生そのものについての明確な答えは出ていない。


       ◇


 実際のところ、俺はツエフ滅亡以前にこの世界に招き入れられたのだが、〈雷霧〉そのものに出くわしたこともないし、当時の〈妖帝国〉がどのような状況にあったかはほとんど知らない。

 それ以前にツエフから第三街道を東に行き、当時は健在だった〈赤鐘(せきしょう)の王国〉に逃げ出していたからだ。

 そして、一年後に〈赤鐘(せきしょう)の王国〉の王国が〈雷霧〉に侵食されると、また逃げ出して今度は〈青銀(せいぎん)の第二王国〉バイロンに辿りついた。

 バイロンは中原ではかつて権勢を誇った〈青銀(せいぎん)の王国〉ロイアンの正統な後継者として、西のツエフ、東のトワンと並ぶ歴史ある国だった。

 ただ、規模で言えば、旧い歴史ほどのものではなく、中堅国程度のさほど大きくない国であったが。

 旧い歴史があるにもかかわらず、旧弊にとらわれない国民の教育水準も高く、そのくせ、常に北の遊牧民からの侵略を受けていることから尚武の気風も備えた健康的な明るさを持つ、住みやすい国だった。

 そこで、俺は一人の少女とその家族に助けられ、いろいろあって今に至るというわけだ。

 だが、俺がバイロンにもたらしたわずかな情報が、その後の戦略に大きな影響を与えたことは確かだった。

 それは……


      ◇


「俺が、ここに招かれたのは、〈手長〉〈脚長〉と戦うためだった。いや、正確には、やつらに包囲されたある城砦都市を守るためだった」


 全員がきょとんとした顔をした。

 言葉の意味がよくわからなかったのだろう。

 いや、最初から抱えている先入観が理解を妨げたものだと考えられる。

 なぜなら、彼女たちの認識では、例の二種類の巨人の魔物は〈雷霧〉の中に巣食っているものであり、奴らだけで都市を包囲するということが飲み込めなかったのだろう。


「確かに今までの常識では、〈手長〉どもは〈雷霧〉とともに移動し、そこを巣にしているということになっている。しかし、俺がツエフにいたときは違っていた。あの魔物は〈雷霧〉とは関係なしに群れを作り、人を襲い、〈妖帝国〉と戦っていたんだ」

「……そんな話は初めて聞きました」

「当時の〈妖帝国〉は、鎖国状態であったからな。ごく少数の魔導師以外は、国外に出ることもなく、国内の情勢が漏れることはあまりなかった。特に、〈手長〉たちの跳梁が始まってからは、他国との交易を続ける余裕もなかったみたいだ」


 このあたりの事情は、俺も細かくはわからない。

 そもそも俺は〈妖帝国〉の連中にとって、高い額を投資して招き入れた傭兵にすぎず、自国の事情を説明するほどの必要性を感じていなかったのだろう。

 だから、ほとんどツエフのことは知らないといってもいい。

 ただ、俺が召喚された城砦都市についてだけは意外と覚えている。

 初めてきた異世界ということもあって、すべてが新鮮であったからだろう。

 色々と介添人役となってくれた人物に質問した記憶もある。

 だいたいの質問に対してはにべもなく返されてしまったのだが。


「でも、おかしくないですか? セスシスさんはこないだのタナたちの初陣で初めて〈手長〉と戦ったと言ってました。ツエフでは戦われなかったのですか?」

「ああ、こちらが準備を整える前に、一斉に攻め込まれてしまってな。どさくさに紛れて逃げ出すのが精一杯だった。それに、そもそも俺に期待されていたのは、戦いじゃなかったしな」


 あの介添役ともそのときにはぐれてしまった。

 あいつは今、どうしているだろうか。

〈妖帝国〉にはなんの思い入れもないが、あいつにだけは色々と感謝しているのだが。


「わざわざ異世界より戦士を喚んでおいて戦わせないというのは、意味がわかりませんが……」

「……なんていえばいいかな。俺は、囮として用意されたんだよ。囮」

「囮ですか……」

「ああ、おまえたちの中にも知っているモノはいると思うが、俺はこの世界の物理法則にはほとんど支配されない。この世界の武器で傷をつけることはできるが、致命傷にいたらすには魔導的な力が必要となる。異世界から召喚されたものの最大の利点は、この不死身性にあるんだよ」

「まさか……」

「そう、そのまさかだ。俺は、この不死身さを生かして、ツエフの正規兵の盾や囮となり、魔物たちを引き付けるためだけに喚びだされたというわけさ」


 そのツエフの城塞都市は規模こそ大きかったが、正規の兵はほとんどおらず、戦える魔導士というものもいなかった。

 思い出してみると、なんらかの大きな研究のための都市であったらしく、普通の都市のような一般人も極めて少なかったような覚えがある。

 そのため、魔物の群れに包囲されてもまともに戦うこともできず、じりじりと休む間もなく繰り返される襲撃によって戦力を削られる時間が続いていた。

 他の都市からの援軍はなぜか来ず、このまま皆殺しにされるのは時間の問題というときになって、魔導師のギルドが戦力を異世界から召喚することを提案した。

 本来、そんな困難な魔導は国を挙げて行わなければ不可能であるらしい。

 しかし、その都市はある儀式魔術のために特化した特殊な環境にあったため、生贄さえ吟味できればという好条件のもとにあり、背に腹はかえられない魔導士たちはなんの罪悪感もなく、召喚の儀式を行った。

 そして、召喚されたのが俺である。

 その時の儀式の影響で、記憶の大部分が吹っ飛び、今では自分の名前さえ覚えていない。

 魔道士たちは、俺に対して〈支配〉の魔導を使い、俺を完全に支配下においたと考えていたらしい。

 だが、異世界人である俺は、この世界の物理法則にも従わないが、魔導に対しても十分な耐性があり、ほとんど効いてはいなかった。

 ただ、介添え人だけは薄々勘づいてはいたようだったが。

 しかし、あいつは何も言わなかった。

 もしかしたら、言えなかったのかもしれない。


「でも、セシィはすぐに回復しちゃうけど傷はつくし、不死身ってわけじゃないでは?」

「その答えは簡単だ。俺の身体は、完全に俺の世界のものというわけではないんだ。むしろ、すべてこの世界のもので、魂だけが俺といっていい」

「どういうことですか?」

「俺はこの世界の人間の肉体に、自分の魂を憑依させることで召喚されたんだよ」

「えっ?」

「もともと、この肉体の主はツエフの騎士の少女のものだったらしい。ところが〈妖帝国〉の魔導士どもは、その少女を生贄というか触媒にして、俺の魂を召喚したんだ。そして、召喚された俺の魂はその少女の肉体を、俺のもともとの肉体の情報に合わせて改造・再構成し、そして俺がこの世界に誕生したんだ。だから、俺は半端にこの世界の(ことわり)に影響を受け、傷もつくし、年齢(とし)も少しだけだがとる。これでも召喚されたときは、お前たちよりも少し年下ぐらいだったんだぜ」


 周囲が静まり返った。

 それはそうだろう。

 あまりにも外道、あまりにも非道な、惨すぎる魔導の現実を聞いてしまったからだ。

 生理的な嫌悪感を催さざるえない人外の儀式。

 許してはならない、そして、許すべきではない悪の所業。

 俺はそうやってこの世界にたどり着いたのだ。

 罪のない女の肉体を盗み、自分のものとしてふるまい続け、なんら償おうともしない。

 無理矢理に喚びつけられたからといってもそんなことは肉体を奪われた少女にとって、なんの慰めにならない。

 だから、俺だって、〈妖帝国〉の腐れ魔道士どもと変わらない。

 こいつらから嫌われ、虫のように蔑まれても仕方のない人間なのだ。

 自分の顔を鏡で見るたびにいつも思う。

 俺のために犠牲になった騎士の少女はどんな娘だったのだろう。

 あの介添え人は少女の身内だという話だった。

 俺を恨んでいたに違いない。

 なにが〈ユニコーンの少年騎士〉だ。

 気持ちの悪い吐き気を催す不気味な存在の俺が、まるで人のように振る舞えるだけまだ幸せじゃないか。

 掃き溜めの汚物。汚れ切った虫けら。腐りきった肉片。

 汚いというよりも、薄汚い、小汚いというのがお似合いのクズ。

 それが俺だ。

 だから、みんな。

 俺を軽蔑してくれよ。

 見捨ててくれよ。

 あの時のオオタネアのように、俺を助けたりしたら、きっと俺は……

 俺は……

 俺は……


「セシィ」


 タナが言った。


「それなのにこの世界を守ってくれるの?」


 ……えっ?


「……セスシス殿は、もう以前の記憶は戻っているんですか?」

「い、いや、ほとんど覚えていない。こっちに来てからのことだけだ」

故郷(ふるさと)の記憶まで奪ってしまったたんですか、私たちが……」

「ん、別におまえたちが何かをしたわけでは……ないぞ」

「同じことです。この世界となんの関わりのない人を無理矢理に喚びつけて、戦いの道具にしようとした上、大切な想い出まで奪って……。それを、あたしたちの世界の人間がしでかしたことなのは事実なんですから」

「……それなのに、この世界のために戦ってくれたの? 〈聖獣の森〉の王ロジャナオルトゥシレリアを命懸けで説得して、この国にユニコーンの騎士団を作るきっかけを与えてくれて、私たちが不甲斐なくて成果をあげられないのに危険をおかしてまで教導騎士になってくれて、なんども死にそうな目にあって……」

「だから、そう簡単には死なないんだが……」

「でも、〈手長〉にやられた傷はすぐに回復しなかったっ! セシィだって絶対に不死身ってわけじゃない。酷い手傷を負えば死んじゃうんだよっ! 自分の産まれた場所に帰ることもできずにっ!」


 タナが泣いていた。

 隣のナオミも、その隣のノンナも、ミィナも、ハーニェも……

 騎士たち全員が……泣いていた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。……私たちの無力をあなたに押し付けてごめんなさい」

「すいませんでした」

「セスシスさん、謝らせてください」

「ハーレイシーさま……ハーレイシーさま」

「ごめんね」


 俺は慌てて何も言えなかった。

 だって、こいつらには何の罪もないんだぜ。

 謝られたって困る。


「……私たちがやるよ。新しく〈雷霧〉ができたら潰して、まだ残っている今までの〈雷霧〉もすべて消し去って、大陸を元通りの世界に戻すよ」

「戦って、生き抜いて、ユニコーンたちと〈核〉を潰しまくってやる」

「教導騎士がいつか笑って故郷に帰れるようにしてあげるよ」

「西方鎮守聖士女騎士団の底力を、あの糞ったれな煙に見せつけてやる」

「うん、そうしてやる」

「だから、セシィ……」


 騎士たちが万感の想いをこめて誓う。


「泣かないで」


 ……あれ、俺は泣いていたのか。

 指で目尻に触れると、確かに生温かい水がついた。

 しかも、大量に。

 袖口で顔を擦りあげる。

 泣いている顔を見られるなんて、男として恥ずかしいじゃないか。

 前に泣いたのは、いつだったのか。

 あれは、このバイロンに流れてきてすぐだったような。


「……おまえはいつまで経っても変わらんな」


 さっきまでダンスロットと激しく口論だか、口喧嘩だかをしていたオオタネアがいつのまにか後ろに立っていた。

 珍しく無表情だった。

 昔、こんな顔をよくしていたな。


「泣き虫のままだ」


 今、言わなくたっていいだろう。

 騎士達(おしえご)の前なんだぞ。


「西方鎮守聖士女騎士団っ! 貴様らの決意は承知したっ!」


 ダンスロットまでが、こっちを向いていた。

 少し涙ぐんでやがる。

 後ろに並んだ、王都守護戦楯士騎士団の連中まですすり泣いてやがった。

 なんなんだよ、抹香臭すぎるぞ。


「だが、私はまだ認めんぞ。貴様らが、この世界を、この国を、セスシスくんを守れるのかどうか、その実力があるのか、その資格があるのかっ!」


 西方鎮守聖士女騎士団の騎士たちが真っ向からダンスロットを睨みつける。

 侮辱されたと感じたのだ。

 しかし、そんなことを気にもかけずに巨漢の将軍は続ける。


「ふん、生意気にも将軍に喧嘩を売る度胸はあるようだな。よろしい、では試してやろう。ネアっ!」


 威風堂々とオオタネアに向き直り、


「我が王都守護戦楯士騎士団は、貴様の西方鎮守聖士女騎士団に公開試合を申し込む。形式は、五対五の団体戦だ。先に三勝した方の勝利。それで我々の精鋭に一矢でも報いることができるのならば、貴様らが〈雷霧〉との切り札になりうるものと認めてやろう。どうだっ!」

「……一週間後、代官所前の広場に来い。片っ端から潰してやる」

「よくぞ言ったっ! さすが私の元許嫁。根性だけは座っているなっ!」

「御託はいい。おまえこそ、吠え面かかないようにしろ」

「ふん、ではいくぞ、騎士たち」


 そう言い放つと、ダンスロットは外套を翻して、講堂を後にする。

 途中で一度だけ振り返り、


「セスシスくんに、久しぶりに会えて嬉しかったです」


 と、奴にしては珍しい小声で挨拶していった。

 それを聞いた西方鎮守聖士女騎士団の女どもはなぜか不機嫌そうに、美貌を歪めている。


「……聞いた通りだ、私の可愛いおまえたち。ああいう男の増上慢を許していいか? こちらを試すような上からのものいいに我慢できるか?」

「「できませんっ!」」

「しかも、我らの〈ユニコーンの少年騎士〉に色目を使いやがったぞ、あのダメ将軍は。野放しにしていいとおもうか?」

「「「決してっ!」」」

「……よし、わかった。おまえたち、一週間後に備えろ。あのバカの鼻をあかせてやるぞ。そして、我々こそがこの世界救済の切り札であるということを見せつけてやるぞっ!」


 少女たちは、オオタネアの檄に従って、拳を突き上げた。

 そして、怒涛の勢いで怒声を発する。

 俺にとっては何か得体の知れない熱いものが彼女たちを動かしていた。

 それがなんなのかはわからないが、俺はただ涙腺が緩くなるのを感じていた。

 

 昔のことを思い出す。

 十一年前のこと。

 オオタネアの言った一言。


「泣くなよ、バカ」


 ……忘れることはない、懐かしい思い出の言葉だった。

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