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聖贄女のユニコーン 〈かくて聖獣は乙女と謳う〉  作者: 陸 理明
第一話 西方鎮守聖士女騎士団
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警護役たち

「おい、そこから先は通行禁止だぜ」


 森の奥へと続く、馬車が一台ようやく進めるような細い道へ入ろうとしたら、その手前にある農家の中から三人の兵士が顔を出してきた。

 手にはそれぞれ鋼鉄の棍を握っている。

 目つきが悪く、凶相揃いの野盗くずれにしか見えない連中だった。

 そのうえ、こめかみに刀傷があるもの、唇が裂けているもの、片目しかないもの、どれもが戦によるものと思しき傷を有している。

 だが、初対面の印象通りの連中なら、あのオオタネアが部下にしているはずもない。

 面構えに相応しい歴戦の勇者であるはずだ。

 おそらく、その面構えをもって関係ない来訪者を追い払うために、わざわざ選別された連中なのだろう。

 もちろん、それ以外にも理由はあるだろうが、それは俺と同じはず。

 多少、同情をしないでもない。


「……悪いな。俺はここから先に用事があるんだ。行かせてもらうよ」

「なんだと、コラ。俺たちの言っていることが聞けねぇてのか、オラ」


 見た目に相応しい物言いだった。

 善良にして温厚な一般人なら、すぐにでもしっぽを巻いて逃げ出しそうな迫力がある。

 金を出せと言われたら、泣きながら出してしまうかもしれない。

 しかし、俺は善良でも、温厚でも、一般人でもなかった。

 加えて言うなら、いい人でもなかった。


「……あんたたち、俺のことを誰にも聞いていないのか?」

「誰にだよ」


 俺のことを招聘した人間は、おまえらの上司である将軍閣下なんだぞ、と言おうと思ったが、すんでのところでこらえた。

 近くの街で先に行ってろと指示されて別れたばかりの将軍の名前を出すのもいいが、ついでにこいつらの勤務態度についても調べておくか。

 俺だって、そのうちこいつらとは仲良くしなきゃならなくなりそうだしな。

 今のうちに素の態度というものを見せてもらっておこう。


「なんで、ここから先に行ってはいけないんだ?」

「ああん、そんなものをてめえに話す必要はねえな」

「だいたいなあ、ここから先に何があるのか、知らねえで入ろうとしたのかよ。この森は男子禁制、俺たちだって立ち入りが認められているのは、もうちょっと先までなんだぜ。てめえみたいなガキがおいそれと踏み込んでいい場所じゃねえんだよ」

「そうだ、とっとと帰りやがれ、このトンチキが!」


 うーん、意外と真面目なタイプみたいなんだが、言うべきでないヒントを口にしてしまっているんだよな。

 すぐに手を出したりしないのは、軍の兵士としては合格なんだが、いかんせん、頭の回転がよくなさそうだ。

 あと、口が悪すぎる。


「わかった、わかった。要するに、ここから先は、野郎が行ってはいけないってことなんだな」

「わかればいいのよ」

「だがな、俺の仕事のことも考えてくれよ。俺は届け物をしなければならないんだ。ここの先にある西方鎮守聖士女騎士団の宿舎と施設にな」


 それを口にすると、兵士たちはばっと後方に飛び退り、一瞬で三方から俺を囲みこみ、棍の先端を俺の喉と心臓と右手に突きつける。

 想像以上のいい動きだった。

 鍛え抜かれた戦士の行動そのものだ。

 なるほど、警護の部隊にしては人数が少なすぎると思っていたが、腕前の方は確かすぎるほどに確かだったのか。

 俺は自分の見る目のなさを恥じた。


「なぜ、ここが西方鎮守聖士女騎士団の敷地だと知っている? 公にはされていないはずだぞ」

「……だから、呼ばれてきたって言っているだろ」

「はあ、ここから先は男が入ったらまずいんだよ! 何度も言わせんな」

「なんで、まずいんだ?」

「それは……」

「こいつらがいるからだろ?」


 俺は、後方のある一点に目配せをして、「出てこい!」と叫んだ。

 ぎょっと、俺からは目を逸らさずに周囲を警戒する三人組。

 やはりこいつら優秀だ。

 敵と思しき相手から視線を外すなんて愚は犯さないで、視野を広げることで全体を見渡そうとしている。

 だが、次の瞬間、俺の後ろに現れたモノたちを見てさすがに驚愕し、顔を動かしてしまった。

 まあ、だからといって俺も逃げようとはしなかったが。

 慌てて逃げだして自由を回復する必要もないぐらいに、現れた連中を見れば俺の素性はわかるからだ。


「ユ、一角聖獣(ユニコーン)!」


 今まで自分たちを覆い隠していた光の結界を解いて、ただの馬より一回り大きい白い体躯と刀のような一本角を額に生やした伝説の聖獣が、続々と姿を見せ始めた。

 結界がまるで静謐な湖の水面のように波紋を広げると、プワン、プワンとユニコーンたちの頭が出て、ついで首、前半身、後半身が、歩みとともに俺たちの前に出てくる。

 そして、三十五頭がすべて揃った時に、三人組は俺とユニコーンを交互に見比べる。


「よし、おまえら。俺はちょっとこっちの兵士たちを説得しなきゃならないから、少し待っていてくれ」


 俺が話しかけると、ユニコーンたちは、つまらなそうに嘶いた。

 自分たちが姿を見せたことで驚く人間たちの反応など、見飽きていて興味はないということを言いたいらしい。

 しかも、三人組は男だしな。

 例の条件を満たしているから暴れだしたりはしないのが救いではあったが。

 ああなると俺ひとりでは止められない。

 助手というか、人手が必要になるからだ。

 俺の指示にユニコーンたちが従ったのを見て、三人組は呆けながら呟いた。


「ユニコーンと会話できる少年……。もしかして、あんた……」

「どうやら心当たりがあるみたいだな。わかったかい?」

「あんたが、あの……」

「ホントなのかよ……」

「でも、あれって、もう十年も前の話だろ。あんた、どう見たって、十六か十七じゃねえか。年齢があってないぞ」


 この国の人間の基準からしたら、童顔の俺は子供っぽく見えるのは確かだ。

 しかし、俺が若く見えるのは顔つきだけの問題ではない。

 なぜなら、俺はこの世界の物理法則と魔導法則の縛りを極端に受けづらい性質の持ち主であるからだ。

 

「あんたらが俺をガキ扱いするのは仕方ない。確かに見た目がこんなだしな。ただ、これだけのユニコーンと一緒にいるというだけで、それが身分証明の代わりにならないか?」

「……そうかもしれんが……」

「おまえさんの正体はわかったが、それでも上からの連絡がない以上、ここから先へ通すわけには行かねえんだよ」

「……俺たちはこの森の奥にいる、この国の宝たちを絶対に守らなきゃならねえんだ。ザン将軍閣下の命令書がなければ、例え、〈ユニコーンの少年騎士〉であっても通すわけには行かねぇ」


 三人組は、一度は下げかけた棍を再び俺に突きつける。

 その動作に反応して、背中のユニコーンたちが威嚇のいななきを飛ばし始めた。

 しかも、数頭ではなく、全頭だ。

 こういう時、こいつらと俺は信頼の絆で結ばれているんだなと思える。

 俺の敵は、こいつらにとっても敵なのだ。

 しかし、この三人組は使命を果たすために、筋を通そうとしているだけだ。

 しかも、自分たちの使命の本当の意味を理解している戦士たちでもある。

 俺はこいつらのことが好きになった。

 どうやら俺の招聘については、完全に初耳らしい。

 身分を保証してくれるオオタネアもここにはいないしな。

 だから融通が効かないとわかっていても、命令書にない行動はとれないし、とってはならないというのは警護役としては当然のことだ。

 守るべき相手の安全のためにも

 そこで、どうやってこの場を収めようかと思案していたとき、今度は例の細い道の奥から声をかけられた。


「お待ちしていました、騎士セスシス・ハーレイシー。ビブロンから〈遠話〉をもらいましたので、西方鎮守聖士女騎士団の本部からお迎えに参りました」 


 兵士が普段着るスモックとズボンを軽やかに着こなし、紋章の刺繍された袖なしの外套を纏った、背の高い女性がやってくるところだった。

 やたらと癖のある丸い髪型が印象的だった。

 こちらの様子を見て、不審げに目を細める。


「なんのゴタゴタです? ユニコーンまでが結界を解いて、しかも尋常ではないぐらいに落ち着きがない。何かあったのですか」


 最後のは、俺ではなく三人組への問いかけだ。

 身なりからして、この女は西方鎮守聖士女騎士団の騎士。つまりは単純な上下関係で言えば、三人組の上司だろう。

 俺に対するものよりも、幾分、親しげな感じがする。


「……こいつ……いや、彼が命令書にもないのに、奥へ入ろうとしていたので、ここで引き止めています。正体は、多分アラナ様の言う通りの人なんでしょうが、俺らは、命令書にない人物は決して中に進ませてはならないと厳命されていますんで」

「それとも、アラナ様が命令書を手元にお持ちなのでしょうか?」


 アラナという騎士に対しては、敬語を使うんだな、こいつら。

 しかも、形式的に上司だからという感じではなく、敬愛しているような素振りも見せる。

 なるほど、こいつらに好かれるぐらいだから、いい騎士なのだろう。


「いえ、持ってきていません。私は、騎士ハーレイシーを迎えに来ただけですから」

「ならば、通せませんな。アラナ様、御手数ですが本部まで戻って命令書を受領してきてください。話はそこからでさ」


 意外と頭の固い連中だ。

 上司にわざわざ引き返して、筋を通せと主張している。

 普通なら怒り狂われるところだろう。

 だが、使命のためなら上司の不興を買うことも辞さないという態度。

 実にいいな!

 俺は気に入った


「……騎士アラナ。こいつらの言い分はもっともだ。警護役としては文句のつけようのない対応だ」

「しかし……」

「だから、騎士アラナはユニコーンたちを連れて、先に本部の方に行っていてくれ。ユニコーンはもともと西方鎮守聖士女騎士団の所属だから、命令書なしでも奥にいけるはずだ。俺の方は、後で改めて命令書をもった迎えを寄越してくれればいいさ」

「いや……あの……」

「それで、頼むよ。これから一緒にやっていく連中と騒ぎを起こしたくないしな」

「わかりました」


 この騎士も意外と飲み込みが早い。

 俺の指示通りに、ユニコーンたちを引き連れて、森の奥へと戻っていく。

 ちなみにユニコーンどもは、俺の言うことは度々無視するが、若い女の尻のあとはひょいひょい従うという腹が立つ連中でもあるので、俺がここにとどまると聞いていても付き合って残ってくれるやつは一頭もいなかった。

 それどころか、「大変だなー」とかいう息の吐き方をして挑発していく奴さえいた。

 あいつら、後で覚えてやがれよ。


「……なんで、残ったんだよ」


 三人組の一人が訊いてきた。

 心底、不思議そうだ。


「アラナ様に無理を言えば、俺らなんて無視して先に進めただろうに。なんで、しなかったんだ。それにあんただって騎士様だろ。一介の兵士に過ぎない俺たちなんだから、ただ命令すればいいじゃねえか」

「……うるせえ。真面目に使命を果たしているあんたらをバカにするような真似をしたくなかっただけだよ。それにさ……」

「それに、なんだ?」

「同じ童貞同士、仲良くやりてえじゃねえか」


 すると、三人組は一度顔を見合わせ、そして爆笑した。

 心の底から爆発するような笑い方だった。

 この一言で、この三人組は完全に俺に対して心を開いてくれたようだった。

 俺はそのまま三人組が番をしている農家に連れ込まれ、彼らが秘蔵していた酒を勧められた。

 昼から飲むには、実にうまい酒だった。


 …………数時間後、もう一度迎えに来た騎士アラナ・ボンは、警護役の三人組と一緒になり酔っ払って歌を合唱している俺を見て、卒倒せんばかりに驚くのであった。

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