お兄ちゃんの本
部屋に戻ってから早速『兄の生態』を開く。
まえがきをすっ飛ばして目次に目を走らせる。
「あった……お兄ちゃんが喜ぶこと……」
そのページを開くと、文字がぎっしり書かれていた。内容としては小説風に書かれていて、ポイントポイントで兄が喜ぶこと、おまけに喜ばないことを教えてくれるらしい。
内容を読み進めていく。朝の接し方から始まって――
「こ……これは……!」
あるシーンで目を止める。兄が妹に映画のチケットを渡して一緒に行く? と聞いている場面。
文化祭のチケットを貰った私と状況が似ている。
「どうやったらお兄ちゃんは喜ぶのかな……?」
周辺の文字を読んでみる。
『この場合はお兄ちゃんと映画に行くのがベスト。用事があるときはまた今度誘ってね、などの言葉を付け加えると効果的だよっ♪』
と書かれている。やっぱり兄の文化祭に行こうかなー、なんて思ってみる。
この意見は作者の意見であってどのお兄ちゃんにも当てはまるわけではないのだが、なんとなく説得力があるように思えるのだから不思議だ。
「お兄ちゃん! 私、文化祭行くよ。だから頑張ってね!」
笑顔で言いながら兄の部屋の扉を開けた。
「って……いない」
部屋には数冊の本が放り出されているだけで兄の姿は見当たらない。
「もう、本出しっぱなしにして………」
散らばっていた本の表紙を何気なく見る。
BL本
「お兄ちゃん……! 無防備すぎるよ……!!」
私はとにかく、お母さんやお父さんに見つかったらどうするつもりなんだろう……
本の表紙を眺めていると、ある考えが脳内をよぎった。
「もし私がこういうのを好きになったら、お兄ちゃんは喜んでくれるのかな……?」
思わず呟いて、そっと本を開く。
女の子みたいな男の子と普通の男の子が仲よさげに話している。距離がなんか近い。
パラパラとページをめくっていく。
「――っ!?」
お、おおお、男の子どうしでキスしてる……!?
いや、でもこれはそういう本であって……でもでもやっぱり……
「――美羽? 何やってんの?」
「うにゃあっ!? お、お兄ちゃん! なんでここにいるの!?」
「いや、だって俺の部屋だし……」
慌てて本を隠そうとした私を見て、兄は満面の笑みでこう言った。
「興味あるなら、貸そうか?」
「い、いい!!」
部屋を出て、扉を閉める直前に付け足す。
「そうだ、文化祭、行くから! が……頑張ってね!」
覚えている方はいるのでしょうか……?
できるだけ間を開けないように頑張りたいです!