お兄ちゃんの文化祭
「いらっしゃいま……」
レジで本を渡すと、店員さんが一瞬止まった。
「ブックカバーお付けしますか?」
私が渡した3冊の本をひきつった笑みで見ながら、店員さんが尋ねる。
「あ、お願いしま――!?」
ふと『兄の生態』を挟んでいた2冊の本に目を移す。
『ツンデレに変身っ! ~入門編~』
『☆お兄ちゃんっ子になろう☆』
穴があったら入りたいを初めて経験した気分だった。
本を受け取って逃げるように家に帰った。
「ただいまー」
がちゃりとドアを開けると玄関先に兄が立っていた。
「あ、お兄ちゃんお帰り」
「美羽もお帰りー。かわいいケーキ売ってたから買ってきたんだけど……」
手に持っていた箱を掲げながら兄は微笑んだ。
「もう、お兄ちゃん! 何度も言うけどあんまり甘やかすのは――」
「じゃあいらない?」
「よくないただきます」
「そういえば、もうすぐ学校で文化祭あるんだけど……来る? ってかこのウサギさん崩されても凛々しい……!」
ウサギを模った可愛らしいケーキをざっくざっくと切り崩しながら兄はそう呟いた。
「文化祭?」
「そー、文化祭。吹奏楽部でライブとかもやるんだけど見に来るかなーって」
俺も出るんだよー、なんて兄は暢気にそう言った。
「クラスの出し物はダンスなんだけどね、それにも俺も出るよ」
そりゃあクラスの一員なんだから当然じゃないの? と問いかけようかと思ったがやめておく。
「チケットとか、いるの?」
なんとなく原型をとどめていないウサギさんのケーキを見つめながら尋ねる。
「うん、いるよ。だから来るならチケット発行しようと思って……」
「お兄ちゃんのことだからもう発行してたりしてー」
冗談めかしてそう言うと、兄はさっと映画のチケットのよう紙を出してきて――
「よく分かったな!」
「本当に発行してやがった……!」
喜び7割、驚き3割ぐらいの割合で私を見つめる兄の手からチケットを受け取る。日程的には空いているんだけど1人で行くのも……
「ま、暇だったらおいでー。クラスのことか個性的な子いっぱいいるから紹介してあげるし」
「そんなに個性的な人が多いの?」
「むしろ個性的な人しか見当たらないかもねー」
多分兄もその個性的な人の1人なんだろうなー、なんて考えながら私はすっかり冷めてしまった紅茶を飲みほした。
さて続きです!
最近タイトルでネタ切れおこしております(((