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ホラー映画をテレビで見たあとに

9 ホラー映画をテレビで見た後に

家のテレビは薄型で、二年前に買ったものである。テレビの電波がデジタルからアナログへ変わる頃にはデジタル放送に対応する、という。実はそうとも言えなくて、何か取り付けなければデジタルに対応しなくて、その買う金もないから、正式名称を調べる気もしない。

まあ、そんなことをネタにしたくなくて、先日ホラー映画を見ていたのだが、これがまた怖い。何でもあり、テレビから人が出てくるわ、天井から人がぶら下がるは、子供は人の背中に乗っかるは映像技術が発達しているからリアルだし、そんなものを作ることが出来る人間だから本当にそういうことが起こりうるものだし、そういった妄想は呼び寄せるというか、たぶん世界は現実をそんなところからも作り出すのだろうと述べながら、怖がらせれば良いというものではないと不平を漏らしつつ、見るわけだから仕方ない。

健康に悪い映像を眺め、テンションが急速に低下するのを感じる。そうなると、誰もいないのでこんなの嘘臭いと虚勢を張る必要もなく、物音に素直にビクつくわけだ。真夜中だったのでさらに神経が萎縮し、自分のいる環境が妙に怖くなるという冷静なかつ妙な屁理屈をこね、しかしその屁理屈さえ超えていく恐れが助長されていく。

実はホラー映画のことを言いたいわけではなくて、テレビの位置が問題なわけで、それは部屋の内部の構造とそこでホラー映画を見た直後の自分の状態といった要因も重なって、それは起こったのだから……。

さて、夜中の十二時は回っていたのは確かで、矛盾する表現になるけれども静寂とざわめきが脳裏をまとわりつく状態だった。俗に言う嫌な予感というものです。そんなものは人生にとってとんでもないところで訪れることはあったけど、こういう些細な時間で当たった試しはない。

それでも気のせいと言い聞かせて、部屋の電気を点けたまま、風呂に入った。

湯船にあるお湯は昨日の残り湯に水を足したもので、多少汚かった。長い髪の毛が浮いていたので手ですくうと、栗色のぬめりの伴った細長い毛が手の平にこびりつき、その嫌悪感は神経をさかなでる。明らかに自分の髪の毛ではないから、気持ちが悪い。

しかし、冷静に風呂のお湯で流し、その長い毛はタイルをつたって排水口に達する。

そこには似たような長い髪の毛が溜まっていて、お湯が局地的にその排水口になだれ込むと、溜まっていた髪の毛がいっせいに浮いて増殖するような感覚に囚われ、一瞬そのままそこから何か出てきそうで不安を覚える。

そんなはずもなく、静かに放っておいて、湯船に身を沈める。

湯船の端から、水滴が落ちる。音がやけに響く。単調なその音に混じって、風呂場の外から何かが擦れている。

足音?それとも開けっ放しの窓から風が入って、カーテンでも揺れている?

あまり風呂から出たくない気分になる。

そうも言っていられない。風呂から上がり、パンツのまま、テレビのある部屋に向かう。電気が消えていた。点けていたはず?

そのまま入り、風呂場から漏れてくるわずかな光を頼りに蛍光灯の線を引こうとするが見当たらず、手が空を切るさなか、ある物音に気づく。先ほど風呂の中で聞いたものが鮮明に耳を擦っていたのだ。

暗順応で薄暗がりの部屋の様子がぼんやりと輪郭を伴ってきた。

壁際に鉄製の台に置かれたテレビの方からしていた。おそるおそる視線を向ける。

まさかテレビが点くんじゃわけないよな?本当に点いたらどうしよう?変な映像が映っているんじゃないか?人が映っていてそこから出てくるんじゃないか?

そんな不安を抱きながら観察する。

その不安は当たらずとも遠からず、テレビは点かなかったが、テレビの脇から足が出ている。

ちゃんと頭を拭いていなかったために、冷たい水滴が首筋から背中へ流れる。肌を沿って落ちる冷たさを伝って体温が急速に低下する……錯覚に陥る。

足が消えた。

また出た。

足を伸ばして、縮めて、また……。

擦るような物音をたてながら、似たようなしぐさを繰り返している。

獣の足が出ている。それは手なのかもしれない。人間じゃないだけ、マシなんだが怖い。

やはり電気を点けなければわからない。

今度を蛍光灯の線が首尾よく見つかる。

テレビの後ろからやはり足が出ている。

テレビと壁のわずかな隙間で隠れていたのだ。

どうみても猫の足……、オマエはなんでそんなところで寝ている。



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