プロローグとして残されたゴミ袋を使う
『ほら八話』と姉妹編です。
1 プロローグとして残されたゴミ袋を使う
何だか心身ともに疲れていた日、ふと目の片隅に一枚の透明なゴミ袋を見つけた。居住区の役所が指定している透明なゴミ袋に過ぎない。その日は特に吐き気がするほど体調はすぐれなかったけど、その一枚がなんだか無性に勿体なくてそれを始末してから休もうと思った。何か有効に使える手段はないかと考えた末に、床の間に飾られたガラスケースに入った人形を思い出し、その袋と雑巾を手にしながら、床の間に行った。
その人形は舞を舞っていて、水色の着物は色あせて当時のつやもなく汚れが目立つ。扇を持っていた腕も折れていて、見ているのがあまりにも痛々しい。それでも邪険にしないのは叔母が昔もらった大切な思い出が詰まっているものらしく、何年か前に叔母に対して「汚いから捨てよう」と言ったのだが、ダメと強く眉間に皺を寄せて言われた代物だからだ。
それでも叔母は忙しくてその人形を掃除しないものだから実際汚れていくし、結局どんどんだめになるという自分の勝手な思いやりをもって、ある程度きれいにしてケースごとゴミ袋に入れて置いておこうと思ったわけで、疲れとともにくる吐き気はつらいものだが、きれいに拭いた。
まあ、何十年という歳月を経た汚れは取れなかったがそれでもある程度はつやが出たことに満足し、最後は木枠で差し込まれたガラスケースまで拭った。
これを終えれば休めると、人形をケースへ戻し、いざゴミ袋で包もうとしたところ、……ゴミ袋がすこし小さくて入らない。
なんだかため息をついた。