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神「賢者が魔法を使えるなんて、誰が決めた?」  作者: 源泉
第四章:賢者は空気が読める

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9 否定された呪い

入り口まで戻ると、外の空気がはっきりと感じられた。

胸の奥まで届く、冷たくて軽い感触。

魔法の力が届けてくれた命を救った風。



その入り口のそばに、二つの影があった。


一人は白いローブに淡い色の髪の毛――ゼド。

もう一人は、あの小さな女の子だった。



ケンサクたちの姿を見つけた瞬間、女の子の顔がぱっと明るくなる。



「――お父さん!!」



叫ぶように駆け出し、父親の胸に飛びつく。

父親は一瞬よろめきながらも、すぐにその小さな体を抱き留めた。



「……すまない。心配かけたな」



声が、わずかに震えていた。


その様子を見て、リテナは大きく息を吐いた。

張り詰めていたものが、ようやくほどける。



「……よかった」



口から出せる言葉は、それだけだった。


ケンサクは、ゼドの前に立つ。



「ホタルに聞いた。本当に助かった、ありがとう」



ゼドは一瞬、視線を逸らし、それから小さく肩をすくめた。



「……僕だって、救うことくらいできるさ」



その言い方は、どこか相手にというよりも、

自分自身に言い聞かせているようだった。



ケンサクは深く追及せず、女の子の父親のほうを向く。



「中で起きていたことを、簡単に説明します」



父親は、神妙な面持ちでうなずいた。



「地下は、空気が溜まりやすい。

特に低い場所ほど、重たい空気が残る」



言葉を選びながら、慎重に続ける。



「たぶん、洞窟のどこかが崩れて、

以前あった“空気の通り道”が塞がれたんだ」


父親と小さな娘は、真剣に耳を傾けてくれる。



「そこへ、火を使った。

すると、息をするための空気が減っていって……」



酸素や二酸化炭素という言葉は使わない。

伝わる形に、噛み砕く。



「だから、人が倒れた。

呪いじゃない。仕組みの問題だ」



父親は、何度も頷いていた。



「……空気を動かせばいい、ということですね」



「そう。今回みたいに風を通すか、

空気が入れ替わる仕組みを作れば、短時間なら出入りもできる」



ケンサクは、はっきりと言った。



「呪いなんかじゃない」



父親は、深く頭を下げた。



「ありがとうございます……賢者様」



その横で、リテナは女の子の頭をそっと撫でる。


女の子は、まだ父親にしがみついたまま、離れようとしなかった。



「……この子のためにも、あまり無理はしないでね」



リテナの声は、穏やかだったが、強かった。

父親は娘を抱いたまま、しっかりと頷く。



「ええ、約束します。そして、必ずこのことは、村のみんなにも伝えます」



そう言って、父娘は村の広場のほうへと歩いていった。



その背中を見送りながら、ケンサクは小さく息を吐く。


こうして――

「呪い」は、否定された。


誰かの犠牲の上ではなく、

理解と選択によって。


静かに、確かに。

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