8 空気が更新されました
(村人たちに突入させていたほうがよかったのか……?
いや、彼らは火を使うつもりだったから更に状況は……)
ケンサクが回らない頭で考えるが何も解決はしない。
その時、通路内に風が吹き抜けた。
自然のものでは、ありえない流れだった。
外の入り口から入り込んだ風は、通路を一気に駆け抜け、奥の空間を巡り、再び入り口へ戻るように循環している。
まるで、この空間そのものに「流れ」を作るような、不思議な動きだった。
ケンサクの頬を、冷たい空気がかすめる。
――息が、入る。
肺の奥まで、はっきりと空気が届く感覚。
ケンサクは思わず顔を上げた。
「……これは……」
喉がひりつきながらも、声が出る。
「魔法の……風……?」
隣で、リテナが大きく息を吸い込んだ。
何度も、何度も。
まるで空気の存在を確かめるように。
女の子の父親も、荒かった呼吸が少しずつ落ち着いていく。
リテナは、もう一歩進もうとして―― その場に崩れ落ちそうになった。
だが、倒れる前に、ケンサクが腕を伸ばす。
「大丈夫か?」
支えられたリテナは、震える指先でケンサクの服を掴んだ。
「……っ、は、はぁ、なん、とか……」
途切れる声で答えた、次の瞬間。
「ケンサク〜! リテナ〜!」
明るい声とともに、光が近づいてくる。
まるで救いそのもののように、ホタルがふわりと現れた。
その光を見た瞬間、リテナの表情が崩れた。
堪えていたものが、いっきに溢れ出す。
「……っ……」
肩を震わせ、声を殺して泣く。
救えなかった過去。
今、救えた現実。
その二つが、重なり溢れる。
ホタルは二人の周りをぶんぶん飛び回る。
「なんでこんな無茶したのさ!二人とも!お父さんも!!」
光が、怒ったように明滅する。
「特にケンサク!!自分で危ないって分かってたでしょ!?
なんで、もう!!暗い地下なんて縁起も悪い、し……」
そこまで一気に言い切った、その直後。
ホタルの光が、ふっと弱まった。
そして、まるで電源が切れたみたいに、ふわりと落ちる。
「……うう、バッテリー、切れ……」
「……ホタル。結界で入り口を守ってくれてたからな、ありがとう」
小さく呟くと、ホタルはかすかに光りながら、
「……早く……おいしいものを……」
そう言って、完全に動かなくなった。
その様子に、泣いていたリテナも、思わず小さく笑った。
通路には、ホタルの微かな光だけが残る。
その光に照らされて、奥のほうに倒れている人影が、いくつも浮かび上がった。
それは間に合わなかった人たち。
(……まずは、一度、外へ)
ケンサクはその光景を、リテナの視界からそっと遮るように立ち位置を変え、背中に手を添えた。
「行こう」
リテナは黙って、うなずく。
三人は、ゆっくりと、外へ向かって歩き始めた。




