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神「賢者が魔法を使えるなんて、誰が決めた?」  作者: 源泉
第四章:賢者は空気が読める

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7 正解が存在しない場合の選択

地下神殿へ続く入り口は、

今は見えない壁に守られていた。


薄く、しかし確かな結界。

ホタルが張ったものだ。


その内側へケンサクは進んでいる。


ホタルは、入り口の前で必死に光を揺らしていた。

本当は、その結界はケンサクを守るためのものだ。

外から不用意に人が流れ込めば、二次被害になる、とケンサクがホタルに指示した足止め。


それでも維持するには限りがある。



「……あっ!」



光が、ぴくりと跳ねる。


人混みの向こう。

見覚えのある、小さな姿。



「あの子は……!」



ホタルは、結界の内側から叫んだ。



「ねえ、ゼド!!お願い!!助けて!!」



その声に、村人たちがざわりと振り返る。



「……ゼド様?」


「勇者様の、お連れの……?」



押し合っていた人の波が、目に見えて緩む。

そこへ、神官が慌てて前に出た。



「これはゼド様……! このような騒ぎをお見せしてしまい、誠に申し訳ありません」



ゼドは神官を一瞥し、短く言った。



「平和を乱しているね。

……早く散らないと、勇者様に報告するよ」



その一言で、空気が変わった。



「ひっ!」


「……わかりました!」



神官を先頭に、人々は速やかに引いていく。


入り口の前に残ったのは――

ゼドと、結界の中で明滅するホタルだけだった。


ホタルは、すぐにゼドのほうを向く。



「ゼド!風魔法、使える!?」


「……使える、けど」


「ケンサクがね、よく分からないけど…… 空気が悪いから、風を使いたいって言ってた!」



ゼドは、思わず立ち止まった。



「……空気、が?」


「うん!息が苦しいって! たぶん、換気しないとダメなんだと思う!」



風魔法。

その言葉が、胸の奥に引っかかる。


――ゼドの扱う風は、攻撃魔法。

――攻撃は、勇者の仕事だ。

――自分が踏み込めば、役割を越える。



(……でも)



ゼドは、結界の向こうを見つめる。


あの先で、

人が倒れている。

命が、削られている。


敵はいない。

戦いでもない。



――これは。


敵を倒すためじゃない

人を救うために、“この場”を変える力だ


ゼドは、小さく息を吸った。

誰に向けた言葉でもなかった。



「これは、攻撃じゃない」



勇者に救われてから、初めて。


命じられたわけでもなく、守られる立場でもなく、

自分で選んで、その魔法を使う。



空気を循環させるための風。

低い場所に溜まった淀みを押し流す。

新しい空気を、送り込む。


その光景を、頭の中で描く。

詠唱の言葉が、喉にかかる。



――だが、まだ。

ほんのわずかな迷いが、残っていた。


そのとき。



「ホタルさま!!」



小さな声が、背後から聞こえた。


振り返ると、

小さな女の子が、必死にこちらを見上げている。



「お父さんと……おねえちゃんは?

まだ中にいるの?」



その一言で。

ゼドの迷いは、きれいに消えた。



(……ああ)



勇者の代わりになる必要はない。

でも。


勇者がいなくても、

救える存在には――なれる。



ゼドは、はっきりと詠唱を始めた。

風が静かに生まれる。


それは刃でも、衝撃でもない。

傷つける力ではなく、

命をつなぐための流れだった。



地下へ向かって、

風が走る。

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