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神「賢者が魔法を使えるなんて、誰が決めた?」  作者: 源泉
第四章:賢者は空気が読める

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5 エラー:実行手段が存在しません

外の光が、かろうじて届いていた。


地下神殿へと続く通路は、思った以上に長く、緩やかに下降する坂道だ。

石壁に反射する光は弱く、進むごとに空気が重くなっていくのが、はっきりと分かった。



(……息が、吸いにくい)



胸が圧迫されるような感覚。

深く吸おうとしても、肺の奥まで届かない。


ケンサクは歯を食いしばりながら、足を進めた。


やがて――

地下神殿の手前、少し開けた空間に出た。


そこに、いた。



「……リ、テナ……!」



声がうまく出せない。

呼んだ瞬間、ケンサクの喉の奥がひりつく。


リテナは、そこに立っていた。

正確には、立って“いようとしていた”。


その腕には、あの少女の父親が寄りかかっている。

引きずるように、必死に前へ進もうとしていた。


リテナの呼吸は浅く、肩が小刻みに上下している。

焦点の合わない目。それでも、前だけを見ていた。


さらに視線を奥へ向ける。


倒れたまま、動かない人影。

その手に握りしめられた松明やランタンはすでに熱を失い、転がっていた。



(……火、使ったのか)



理解が、遅れて追いつく。



(酸素が少ないところで火を焚けば……

残った空気まで、燃やして……)



命を狙う敵はこの空間にはいない。

だが、確実に――命が削られている空間だった。


ケンサクはふらつく足で駆け寄り、リテナの肩を掴む。



「リテナ……!」



その瞬間、ようやくリテナの視線が揺れた。



「あ……ケ、ンサ……く……?」



声が、途切れ途切れだった。



「……今、もどる、とこ……」



そう言いながらも、足は止まらない。

少女の父親に肩を貸したまま、前へ進もうとする。



「つかまれ、早く外に!」



ケンサクは無理やり体を支える。

だが、自分の足も、すでに言うことをきかなくなっていた。


加わる二人分の重さ。



(……まずい)



頭が回らない。

視界の端が、じわじわと暗くなる。



――分かっている。



原因は、はっきりしている。


酸素が足りない。

空気を、動かさなければならない。


解決する方法はいくつもある。

理屈は、全部そろっている。



――だが。



(……実行できないなら、ないのと同じだ)



魔法はある。

だが、使えば死ぬ。


知識はある。

実行している時間はない。


それだけのことだった。


ケンサクは歯を食いしばる。



賢者。

知識。

理論。



ここでは、何の役にも立たない。



「……意味が、ない……」



吐き出すように、そう呟いた。


賢者であることが、

この場所では何ひとつ、救いにならなかった。

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