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神「賢者が魔法を使えるなんて、誰が決めた?」  作者: 源泉
第四章:賢者は空気が読める

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4 賢者は考えるのをやめました

群衆の波が、止まらなかった。

怒号とざわめきが混ざり合い、押し合う身体が前へ前へと流れていく。


ケンサクは必死に踏ん張り、腕を広げて人の流れを遮ろうとした。



手に松明を持つ村人もいる。

本当なら、入口で火を使わせるだけでよかった。

空気が薄ければ消えるし、引火性のガスがあったとしても、

入口付近ならまだ被害は抑えられる――そう判断していた。


しかし、中には女の子の父親、それを追ったリテナもいるかも知れない。


ホタルが昨日出会った女の子から聞いた話では、父親が神殿に出かけて戻らず、それをリテナが探しにいったという。



そうなれば、先程の作戦は試せるわけがない。



「待ってくれ!今は入るべきじゃ――!」



言葉は、足音に踏み潰された。

押される。

よろめく。



(止めなきゃいけないのに……!)



肩を誰かにぶつけられ、視界が一瞬揺れた。


気づけば、地下神殿の入口へと、群衆ごと流されていた。



(……くそ)



息を整える間もなく、ケンサクは肩にいるホタルへ顔を寄せる。



「ホタル。俺が使える魔法に……風を起こす

魔法はあるか?」



ホタルの光が、一瞬だけ揺れた。



「あるよ……」



間を置いて、続く。



「でも、知ってるでしょ。詠唱した瞬間に、君は死ぬ」


「……魔法の発動は?」


「その前に、ケンサクの命が尽きる」



理由は分かっている。

魔力ゼロの身体で魔法を使うということは、代わりに生命力を削るということだ。


しかも詠唱段階で尽きる。

効果を見る前に、終わる。



(賢者だって言われても……これじゃ、何もできない)



拳が震える。

知識はある。

選択肢も見えている。

それでも、使える手段がない。


気づけば、地下神殿の入口はすぐそこだった。



――暗い。

――空気が重い。



視線を走らせる。



「……リテナ……?」



すでにそこにはいない。

胸の奥が、ひやりと冷えた。



(まずい、もう中に入ったか……!)




まずは人の流れを、ここで食い止めるはずだった。


だが現実は逆だ。



村人を止めなきゃいけない。

そう思っているのに、身体は地下へ向かっている。


叫んでも、届かない。

足だけが、勝手に動く。

その瞬間、ケンサクは決断した。



「ホタル! 入口に軽量結界を!」


「えっ!? な、なんでそんな……!」


(今ここで人が流れ込めば、二次被害になる。

止める時間を作るしかない)



ホタルは一瞬迷ったが、すぐに光を広げた。

見えない膜が、入口に張られる。

それに気づかず突っ込もうとした村人たちは、見えない力に弾かれて足を止めた。



「……っ!?」


「やっぱり呪いだ……!」


「近づくな……!」



ざわめきが恐怖へ変わる。

ホタルが必死に声を上げた。



「ケンサク!!

中、危ないんだよね!?私は結界の維持で動けないし……どうするの!?」


「悪い、ホタル!そのまま村人たちを抑えててくれ!」



答えながら、ケンサクはすでに走り出していた。



「……入り口で、もう息が重い」



喉の奥がひりつく。

胸が浅くしか動かない。



「酸素が薄いのか?入口でこれなら……地下の奥は……」



不安が、次々に浮かぶ。


原因は酸欠だけか?

毒性のガスは?

ホタルは、外を抑えきれるのか?

考えは止まらない。


それでも、最優先の答えは一つだった。



「……リテナ!」



名を呼びながら、ケンサクは闇の中へ踏み込む。


彼女の無事を願い、

重たい空気を押し分け、

地下神殿の奥へと走った。

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