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神「賢者が魔法を使えるなんて、誰が決めた?」  作者: 源泉
第四章:賢者は空気が読める

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43/43

3 優先度が衝突しています

広場の騒ぎは、いっこうに収まる気配を見せなかった。


人々の声が重なり合い、熱を帯びていく。

ケンサクは群衆の前に立ち、必死に声を張り上げた。



「待ってください!危険かもしれないんですーー」



だが、その言葉は途中でかき消された。


広場の中央、神官が一歩前に出る。

先ほどから広場で「呪いだ」と声を上げている神官だ。



「皆、落ち着きなさい!」



静かな声だったが、不思議とよく通った。



「賢者様。以前にも、似たようなことがありました。

その時は、勇者様の教えのとおり、“浄化の炎”によって村は救われたのです」



神官は、ケンサクの“賢者”の表示を確かめるようにしてそう伝える。

ざわめきが、次第に納得の色を帯びていく。



「……そうだそうだ!」


「あの人が賢者様?だがこの村に詳しいのは、神官様の方だ!」


「呪いなら、また清めるしかない」



ケンサクは歯噛みした。



(同じ原因とは限らない、聞こえる内容からするとこれは……)



だが、理屈よりも「経験」と「信仰」が勝ってしまう空気だった。



「洞窟内の危険をどうにか分かってもらわないと、しかし何が原因か確定していない状態で……」



洞窟、空気、倒れる……、とケンサクは呟き考える。



(……もうこの流れは止まらない。だったら、地下の入り口まで行って、火を使わせるしかない。

俺の予想通りなら……火は、途中で消える)



ケンサクは言葉よりも行動で示すことを決意する。



その時、リテナは人混みでケンサクとは離れた位置にいた。



「……おねえちゃん!」



小さな声が、群衆の隙間から聞こえた。


リテナの袖を、幼い女の子がぎゅっと掴んでいた。

目は真っ赤で、今にも泣き出しそうだ。



「お父さんが……」



声が震える。



「もどらなかった人たちをさがしに、しんでんに……」



その言葉を聞いた瞬間。

リテナの表情が、はっきりと変わった。


視線が揺れ、呼吸が浅くなる。

目の前の少女と、過去の記憶が重なっていく。



――遺体を見ることもできなかった両親。

「浄化」という言葉で、すべてを焼かれたあの日。

正しかったと、頭では理解している現実。



リテナも正確には神殿の危険性を理解してはいなかった。


ただ、ケンサクの言葉には間違いがないと思っていたから、一緒に広場の人々を抑えようとしていた。

だが、今は自分の感情がそれを越えた。



(……この子に、同じ思いをさせたくない)



リテナは、しゃがみ込んで少女の目線に合わせた。



「……大丈夫」



声は、少し震えていたが、はっきりしていた。



「お家で待ってて。

お姉ちゃんが、お父さんを連れて帰るから」



少女は、驚いたように目を見開いた。



「ほんと……?」


「うん。約束」



そう言って、リテナは少女の頭をそっと撫でた。



次の瞬間。

彼女は立ち上がり、振り返ることなく走り出した。



その背中は、迷いなく地下神殿の方角へ向かっていた。



その時、ホタルが寝ぼけた声を上げながら家から出てきた。

最初に目にした光景は人混みをくぐり抜けるように走るリテナ。



「……あれ?リテナ……?」



次の瞬間、慌ててケンサクの肩へ飛び戻る。



「ケンサク!リテナがあっちに走って行っちゃったよ!」



ケンサクはホタルがぶんぶんと飛び回りながら示す方角を見る。

それは神殿のある方角。


ケンサクの視界が、ぐらりと揺れた。


目の前には、今にも地下へ突っ込もうとする群衆。

背後には、危険な場所へ一人で向かった仲間。



(止めないと……、でも、リテナも……!)



どちらかを選べば、もう一方が間に合わない。



「……どうすれば」



拳を握りしめる。


賢者なのに。

知識はあるのに。


この瞬間だけは、

最適解がどうしても見えなかった。



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