2 イベント発生:地下神殿
勇者とその仲間の少年ゼドと別れたあと。
二人と一匹が森を抜けてしばらく歩いたところで、道が二股に分かれた。
「次、どっち行く?」
ケンサクが地図を見ながら立ち止まると、ホタルが急に元気になった。
「んー? なんかね、こっちから事件の匂いがするかも!」
そう言って、街道沿いの道をふらふらと飛び回る。
「ホタル様、事件の匂いはしないほうがいいんじゃ……?」
リテナが苦笑しつつ、その光を目で追う。
「まあそっちに進めば村があるようだし、そっちに行ってみよう。
ホタル、ナビに入れておいて」
「なんかその言い方は気になるけど……オッケー!」
その言葉とともにホタルから行き先を示す光が放たれる。
ケンサクたちはその光の方向へと進んでいった。
しばらく歩いた頃、前方で誰かが立ち止まっていた。
男と、手を引かれた小さな女の子だ。
「せっかく街までたくさん歩いたのにー!」
「しょうがないだろう、お店がやってなかったんだから」
ケンサク達が通りかかると、ふてくされていたようにしていた女の子の顔がパッと明るくなる。
「うわぁ!きれい!なんでひかってるの?」
その視線の先にはホタル。
「ふふ、もっと光ることもできるよ!ほら!」
「うわー!すごい!きれい!」
調子に乗ったホタルが女の子と遊んでいると、男が話しかけてきた。
「すみません、うちの娘が」
「いえ、こっちの光ってるやつも楽しそうなので」
「娘の機嫌が直って助かりました」
話を聞くと、街まで買い物に行ったのだが娘の欲しかったお菓子が買えなかったから拗ねていたのだという。
「あの子には母親がいないもので……、甘やかすのは良くないと思うのですが、なるべく望みを叶えてあげたいと思って」
「……」
男のどこか寂しそうに笑う姿に、リテナも曖昧に微笑んでいた。
「ああ、あなたたちの目指す村は、俺たちの村だ」
そのまま自然な流れで、一行は父娘の村まで一緒に向かうことになった。
村に着いた頃には、日が傾いていた。
父親の厚意で、空いている部屋を借りることになり、その夜は静かに休んだ。
――翌朝。
外が、妙に騒がしい。
人の声が重なり、どこか落ち着かない空気が漂っている。
朝食の準備をする父親と、それを手伝うリテナと顔を合わせるケンサク。
家の外へ出ると、村人たちが広場に集まっていた。
「また戻らなかったらしい」
「地下神殿だって」
「中に入った人が……突然倒れたって……」
ケンサクの足が止まる。
「地下神殿?」
話を聞くと、村の外れにある古い地下神殿で、 ここ数日人が戻らないという。
戻ってきた者も、 「中で急に立てなくなった」 「息が苦しくなった」 と口々に言うらしい。
そこでふと仰々しい身なりの男が声をあげた。
「これはやはり……呪いだ!」
ケンサクが視線を向けた先の男の頭のうえには村の地下神殿を祀る神官の文字。
それは職業ではなく、称号だった。
この村で彼がしてきたこと、その積み重ねがそのまま表示されている。
頭の上に視線を向けると名前と職業が見える世界で、称号までも見られるのはケンサクとホタルだけ。
やはり実際に神殿の神官の言葉には重みがあるのだろう。
村人たちはざわつき始める。
「……また呪いだと?」
「最近、多すぎる……」
「浄化の炎を――早く!」
その言葉を聞いた瞬間、 ケンサクの胸に、はっきりとした違和感が走った。
封鎖された地下。 次々と倒れる人。
そして――火を使うという話。
(……まずい)
頭の中で、湧き出るように知識が結びつく。
(地下、低所、突然倒れる…… 。
二酸化炭素、一酸化炭素……。
可燃性のガスもあり得る……)
思わず声が出た。
「……待て、それは危険だ!」
村人たちが一斉にこちらを見る。
「地下で火を使ったら……それこそ、取り返しのつかないことになるかも知れない!」
「え……? しかし、神官様が……」
ケンサクは一瞬、言葉を選んでから問い返した。
「……いったい誰が、呪いをかけたんですか?」
ざわめきが、ぴたりと止まる。
「え……?」
「そ、それは……」
視線が泳ぐ。
誰も答えられない。
「封鎖された地下で、人が次々倒れる。
それを“呪い”って言うなら、原因は何なんです?」
ケンサクは、広場を見渡した。
「名前のないものを、呪いって呼んでるだけじゃないですか」
ケンサクは、強く息を吐いた。
「とにかく、火は使わないでください。 中に入るのも、今は危険です」
ざわめきが広がる。
しかし村人たちに突然現れたケンサクの言葉は届かない。
「お願い!みんな、ケンサクの話を聞いて……!」
後から駆けつけたリテナの声も掻き消される。
「地下だ!地下神殿だろ!」
「また人が倒れたって……!」
「早く助けにいかないと……!」
人々の流れは止まらない。
「だから、入るなって言ってるだろ!」
地下神殿。
昨日から礼拝に行った者が戻らない場所。
呪いか。
それとも――




