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神「賢者が魔法を使えるなんて、誰が決めた?」  作者: 源泉
第四章:賢者は空気が読める

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1 早すぎる再会


闇だった。


ただの暗さではない。

視界はなく、代わりに感覚だけが満ちている。


焼けた匂い。

湿った土の冷たさ。

舌の奥に残る、鉄の味。


遠くで、誰かが泣いている。

近くで、何かが崩れ落ちる音がした。


ゼドは立っていた。

見えないのに、分かる。


魔王が倒されていない世界。

勇者に出会う前の自分。


まだ職業を与えられている者が少なかった頃。

生まれながらに魔法を使えたというだけで、

幼いゼドは戦場に立たされていた。


――ここは、戦場だ。


その認識だけが、先に浮かぶ。


命令が飛ぶ。

名前を呼ばれる。

詠唱しろ、と。


魔法が使える。

だから撃て。

守れ。

下がるな。


誰かを救っている感覚はなかった。

ただ、言われた通りに魔力を流し、

言われた通りに立っているだけだった。


(……もう嫌だ)


思考が浮かびかける。


(戦いたくない、戦えない)


その瞬間、足が動かなくなった。

魔力が、底をつく。


熱が近づいてくる。

背後で、崩れる音。


――ああ、これは「死ぬ」。


恐怖ではなかった。

ただ、理解としての死がそこにあった。


そのとき。


光が差した。


どこから来たのか分からない。

影を作らない。

目を閉じても、消えない。


温かく、やわらかく、

それでいて逃げ場がない。


光は、助けを求める前に来た。


ゼドは選んでいない。

叫んでもいない。

ただ、包まれた。


白。

光。

熱。

安堵。


そこに「誰か」の輪郭はなかった。

人の姿をした存在ではない。


誰か、ではない。

――救い、そのもの。


声がした。


音にはならない。

言葉だけが、静かに浮かぶ。



「――君は、救われる側でいればいい」



一瞬、意味が分からなかった。



(……側?)



“助ける”でもない。

“戦え”でもない。


決定。



それに、選択肢は含まれていなかった。



――君は、守られる。

――君は、判断しなくていい。

――君は、戦わなくていい。



ゼドは、安堵した。



その軽さが、

何かを落とした感覚でもあった。



(……考えなくて、いいんだ)



光が、さらに満ちる。


痛みが消える。

重さが消える。

迷いが消える。


生きていい、と言われた気がした。

それは同時に、

生き方を決めなくていい、という意味だった。



――守られる存在。

――救われる存在。

――選ばれる側。


その言葉が、

祈りのように、

呪いのように、

ゼドの中に沈んでいく。


光が満ちて、意識が白くなる。


――こうして僕は、勇者様の仲間になった。


勇者の光は救いと共にゼドの髪の色を光で満たし、色を変えた。

『君の髪を見る度に、君を救えた誇らしい気持ちを思い出せるよ。

ゼドは私の正しさの証明であって欲しい』




目を開けた瞬間、天井があった。

木目の浮いた板張り。

古いが、きちんと手入れされた宿屋の天井。



「……夢か」



そう理解するより先に、身体の重さが戻ってくる。

ゼドはベッドに仰向けのまま、しばらく動けずにいた。


胸の奥に、まだ夢の中の白い光の残滓が引っかかっている。


昨日、森を抜けたところで、勇者は呼び出しを受けた。


『急ぎの用だ。ゼド、君は少し休んでから戻るといい』



大型の魔物に追い回され、疲弊していたゼドは、その言葉に従った。

この村で宿を取り、身体と魔力を休めることになった。



魔力が戻り次第、移動魔法で拠点に帰る――

それだけの、はずだった。

なのに。



「……外がうるさいな」



窓の外から、音が流れ込んでくる。

人の声。

複数の足音。

鐘の音が、短く、焦った調子で鳴っている。


ざわめきは、壁と窓を通してもはっきり分かった。



(……何だ)



起き上がろうとして、胸の奥がきしむ。

夢の余韻が、まだ離れない。

光。

声。

息を吐いた、その時。


外の広場のほうから、切れ切れの声が風に乗って届いた。



「……また呪いだ」


「最近、多すぎる……」


「浄化の炎を――早く!」



ゼドは、思わず顔をしかめた。



(呪い、浄化……?)



嫌な単語だった。

胸の奥が、条件反射のように冷える。

さらに、外からはっきりした声が飛ぶ。



「……待て、それは危険だ!」



距離はある。

だが、よく通る声だった。

妙に耳に残る。

少し遅れて、別の声が重なる。



「え……? しかし、神官様が……」


「炎で浄化すれば済む話じゃない!

 空気が――」



ゼドの眉が、ぴくりと動いた。

次の瞬間、さらに別の声が割り込む。



「お願い!みんな、ケンサクの話を聞いて……!」



その声は、途中でかき消された。

誰かが被せるように怒鳴ったらしい。



「……げ……」



その名前に、思わず声が漏れる。

ゼドはベッドの端に手をつき、ゆっくりと上体を起こした。


頭が、少しふらつく。

魔力は、まだ完全じゃない。

移動魔法を使うには、足りない。


外のざわめきが、さらに大きくなる。



「地下だ! 地下神殿だろ!」


「また人が倒れたって……!」


「早く助けにいかないと……!」



ゼドは、ため息を一つついた。

その直後、広場の方角から、怒鳴るような声が響いた。



「だから、入るなって言ってるだろ!」



……間違いない。



「……どうして、あいつらもこの村に……」



そう呟いて、ゼドは肩をすくめた。





第四章スタートです。

週に1〜2回ほど更新予定です。

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