16 慈悲の余温
そのときだった。
「勇者様!」
静かに前へ出たのは、ゼドだった。
「この森には村もありますし……僕も今日は少し疲れました。一度、拠点に戻りませんか
あの魔物のような大きい魔力は、今は感じません」
勇者は、はっとしたように目を瞬かせた。
「そういえば……ゼドは祭りの視察に行っていたんだったね。迎えに来たのを忘れていたよ」
そしてゼドのボロボロな姿に気づき、眉を寄せる。
「私の代わりに来てもらった上に、こんなことがあって……。
本当に頑張ったんだね。ありがとう、ゼド」
勇者はそっとゼドの頭に手を置いた。
指先は信じられないほど優しい。
それからケンサクたちへ向き直る。
「改めて、ゼドを守ってくれてありがとう。あなたたちの旅に光がありますように」
柔らかな微笑みを残し、勇者は歩きだす。
その後ろ姿には風すら触れないような静謐さがあった。
ゼドは去り際、ケンサクだけを見て――
小さく、首を横に振った。
(……何も言うな、ってことか?)
この場を収めたゼド。
しかし、その意図までは読み取れない。
勇者と少年の姿は、木々の奥へ静かに消えていった。
ケンサクはようやく大きく息を吐く。
「……リテナ、大丈夫か?」
声を掛けられたリテナは、無理に笑みを作った。
「あはは……勇者様何度か姿見たことはあったけど、相変わらずオーラがすごくて……ちょっと気圧されちゃったよ……」
明るく振る舞おうとしているのが痛いほど伝わる。
すっかり存在感を消していたホタルがケンサクの肩にずり落ちるように乗った。
「私も……充電切れ〜〜……もうムリ〜……」
ケンサクは二人を見渡し、小さく息を整える。
ほんの一瞬の邂逅だったが、奇妙な違和感と圧倒的な力の差を嫌というほど見せつけられた。
「……それにしても勇者の姿、なんていうか……ゼドもそうだけど、画風というか、作品が違う気がする」
ケンサクが何気なく言うと、ホタルがきょとんとする。
「なんていうか、F〇のキャラクターみたいな」
「ファイナルファ〇ト?」
「それはジャンルもメーカーも違う」
「知ってたか、さすがケンサク!」
「まあな」
ホタルがぽそりと言った。
「光の戦士的な感じになっちゃったっていうか……彼女は勇者として――」
「ん?」
「え?」
「彼女?」
「え、うん。勇者のことだよ?」
ケンサクは固まった。
「勇者、女だったのか!?!」
その反応に、ぐったりしていたリテナがぷっと吹き出す。
「ちょっとケンサク……!あんなにきれいな人を見て、気づかないの?」
「いや、あまりに整いすぎてて逆に……判断が……」
「まあわかる。〇Fあるある」
「ケンサク、あたしの性別は女だからね!」
「それは分かってるよ!? リテナはどう見ても女の子だ!!」
珍しくケンサクをからかうリテナ。
その笑顔が戻ったことに、ケンサクは心底ほっとする。
(……リテナの過去。両親のこと。勇者への恐怖。
何かケアできる方法を探さないとな……)
ホタルがリテナの肩へぴょんと飛び乗る。
「あれあれ〜? リテナ、ケンサクに“女の子”って言われて照れちゃった〜?」
ホタルにからかわれて慌てたリテナは、耳まで真っ赤になりながら声を上げた。
「ちょっ……!ホタル様、違います!!
そ、そんな……“女の子”って言われただけで照れるわけ……ないし!
それに……ケンサクは、あたしを整ってないって思ってる可能性だって……!」
コロコロと表情を変えながら話すリテナ。
その様子があまりにも可愛くて、ケンサクはつい苦笑した。
「いや、整ってないなんて思ってないよ。
どちらかといえば……その……普通に可愛い顔立ちだと思うけど」
「~~~っ!?」
リテナは弓を落としそうになるほど動揺し、ホタルは肩の上で大笑いする。
「ほらぁ!やっぱり照れてる〜!」
「照れてません!!今のは不意打ちなだけで!!」
バタバタと手を振るリテナを、ケンサクは困ったように見つつも、どこか安心したように微笑んだ。
「ほら、そろそろ行こう。ここに長居したら、また別の魔物が出てくるかもしれない」
充電切れのはずのホタルは何やらリテナをからかいながら、リテナはホタルを捕まえようと追いかけながら、
三人は森の奥へ歩き出す。
先ほどまでの死線が嘘のように、朝の光が静かに差し込んでいた。
第三章おしまいです。
第四章準備中ですので、少しお待ちください……!




