6 ひそやかな村の眩しすぎる光
案内された先は――森の奥にひっそりと隠れるようにある、小さな村だった。
家の数も人の数も多くはない。
それなのに今日は、どこか浮き立つ空気が流れていた。
家々の軒先には花が吊るされ、子どもたちは紙飾りを抱えて走り回っている。
あちこちで人が笑い合い、祭りの支度に忙しそうだった。
子どもの両親はケンサクたちに村の中を案内してくれる。
「今日は年に一度のお祭りなんです。
息子はその飾り用の花を摘みに森へ……本当に、冷や汗が止まりませんでした」
泣いていた子どもは村の入り口で友達を見つけると、
「きょうね!魔物がいっぱいでね!!でもけんじゃさまがね!!」
と元気よく駆けていった。
両親は安心したように肩を落とし、苦笑する。
「まったく……祭りのお花を集めるのが楽しみなのは分かるんですけどね」
その会話を聞きながら、リテナの表情はすっかり明るくなっていた。
「わぁ、あの飾り可愛い!あ、こっちの布、色がすごくきれい……!
ケンサク、見て見て! これ、どうやって染めてるんだろう?」
「藍染め……に似てるけど、この色は植物の種類が違うな。
たぶんこの森なら――」
「わあ、やっぱりケンサクは物知りだね!」
楽しげなリテナを見て、ケンサクは安心したように微笑む。
(……両親のことを思い出して落ち込んでいたようなのに。
元気になってよかった)
一方で――
ケンサクはふと自分の肩に乗るホタルを見た。
(……珍しく静かだな)
ホタルはおとなしく、弱い光のまま漂っていた。
先ほど魔物の群れへ投げたことを少し後悔しながら、ケンサクは小声でつぶやく。
「……悪かったな、さっきの。怒ってるか?」
「怒ってないよ……ただ、なんか少し……」
ホタルの光が曖昧に揺れるだけで、言葉は静かにしぼんでいった。
村の中央あたりで、両親がふと振り返った。
「この村は森の中にあるから、昼間でも薄暗いことが多くて……
だから助けられているんです。勇者様が授けてくださった“光の化身”に」
「光の化身?」
リテナが興味深そうに目を輝かせる。
「はい。祭りでは、その光の化身の周りをぐるぐる回るんですよ。
“来年も平和に”って祈りながらね」
「ぐるぐる回る」
ケンサクが思わず聞き返すと、父親は嬉しそうにうなずいた。
「ええ。勇者様が教えてくださった儀式で、歴史は浅いんですが……
今ではそれが祭りになり、村の楽しみになっています」
(……光の周りを回る儀式。
あったな、仏教で似たようなのが……)
ケンサクの記憶の奥が、かすかに揺れる。
そのとき――
ホタルが急に光を弱めた。
「うーん、やっぱりなにか懐かしい感じがする……」
その声にケンサクは目を向けるが、ホタルはそれ以上何も言わなかった。
「そうだ!」
母親がぱっと明るくなる。
「せっかく助けていただいた御縁です。
よければ今夜のお祭りに参加していってください。
泊まる場所もお貸ししますし、ぜひ」
リテナの顔がぱあっと輝く。
「いいんですか!? あたし、そのお祭り見てみたい!」
「ささやかですが、村のみんなでごちそうを作って飲んで食べて……
助けていただいた恩人の皆さんにも、ぜひ楽しんでいただきたいんです」
「ホタル様!ごちそう楽しみですね!」
はしゃぐリテナの声に、
ホタルも弱い光ながら
「……うん、楽しみだね」
と応える。
ケンサクはふと気がついた。
村の人々は、ケンサクの頭上に“賢者”と表示されても驚かない。
ただ「貴重な職業だ」と言って感心する程度だった。
(……この村には勇者が来たことがある。
世界で唯一の“勇者”に会った人々なら、賢者の存在も受け入れやすいのか)
納得しつつも、胸にわずかに残る違和感は消えない。
(光、回る。似ているのは。盆踊りやその元になった踊り念仏、だな。
阿弥陀如来の儀式の多くは、“救い”だけでなく“浄土への導き”の象徴……)
ケンサクの瞳が、静かに色を深める。
楽しげなリテナ。
どこか落ち着かないホタル。
その二人の背を見つめながら――
ケンサクは小さく眉を寄せた。
(……勇者が伝えた祭り、か)
胸に沈む理由の分からない違和感だけが、静かに残った。




