4 勝兵は戦わずして勝つ
ケンサクは小石を拾い、狙いを定める。
「……ここだ!」
“べちん”。湿った木の幹に小石がぶつかった。
低く響く音が森へこだまする。
「ギッ!?」
魔物たちが一斉に顔を向け、数頭が音の方へ走った。
ホタルがぱちぱち光る。
「……音だけで動いた!」
「湿った木は音を一方向に跳ね返す。“どこから来たか分からない音”は獣が一番嫌う」
ケンサクは次の音を作るために姿勢を変えた。
「ホタル、少しだけ光を強く!でも目を潰さない程度で」
「任せて!」
ホタルの細い光が、魔物の注意を散らす。
うす暗い森ではそれだけで動きが乱れた。
「リテナ!」
そしてケンサクが合図を出した――その一瞬。
リテナが木の根元へ飛び込み、子どもを抱き上げる。
「大丈夫、大丈夫……一緒に行こう!」
「――今だ、右へ! そのまま抜けろ!」
ケンサクの声が道を切り開くように響く。
倒木の陰へとリテナが滑り込み、魔物との距離が一気に開く。
子どもは小さく泣き声を漏らしたが、その身体は確かに守られていた。
「……よし、抜けた」
ケンサクが胸をなでおろす。
リテナは息を切らしながら笑った。
「ケンサク、すごい! 魔物倒してないのに助けられた!」
「倒す必要なんてない。“勢い”を奪えば、それで終わりだ」
(……これは恐らく、何かの兵法書で読んだやつだ。
異世界で誰かを救うのに役立つとは……前世の俺と、過去の偉人に感謝だな)
子どもがケンサクへ手を伸ばす。
「……ありがとう……お兄ちゃん」
ケンサクは不器用に頭をかいた。
「うん。無事でよかった」
その空気をぶち壊すようにホタルが口を開く。
「いやあ、大活躍だったね!私!
みたかい、あの華麗な光さばき!……ていうかケンサクなんかくさいよ!その手!草の汁!」
ケンサクはホタルの羽をつまんだ。
「……よし、ホタルには最後の重要な仕事だ」
「え!なになに!?」
「行ってこい!」
魔物の残党がいた方向へ軽く放られたホタルが叫ぶ。
「ひゃああああああ!?!?」
大きく光りながら飛んでいくホタル。
残っていた魔物が「ギャッ!」と悲鳴を上げて散っていく。
子どもは泣き止み、くすっと笑った。
リテナもその表情に笑顔を浮かべる。
「ホタル様、すごい!」
ホタルは地面に戻ってきて、ぐったりした声をあげた。
「……ひどい……でも役に立てたなら……まぁいいけど……」
ケンサクとリテナは思わず顔を見合わせ、同時に笑った。




