3 この状況に最適な処理を実行中……
リテナが震える指で奥を指し示す。
「こっち……早く!!」
リテナの声に押され、三人は一気に駆けだした。
走りながらケンサクは耳を澄ませる。風と木々のざわめきを切り分けるように。
「……群れだ。小型と中型が混じってる。それに――」
わずかに眉が動く。
「走ってくる音じゃない。“囲んでる”ときの動きだ」
ホタルが驚いたように光を揺らした。
「音だけで分かるの!?」
返事をする暇もなく、視界が一気に開けた。
巨大な木の根元。
その幹に背中を押しつけ、小さな子どもが必死に泣き声を噛み殺していた。
その周囲を――
イノシシ型の魔物が、低い唸り声を立てながら円を描いて歩いている。
リテナが息を呑む。
「助けないと……でも、数が多い……!」
ホタルが小さく声をあげた。
「私が強く光って目くらましして、その隙に――」
「ダメだ」
ケンサクは即座に否定する。
「視界を奪ったら、こっちも動きが読めなくなる。それに……あいつら、肉食じゃない。
縄張りに入った子どもを“追い出そうとしてるだけ”のはずだ」
リテナが目を丸くした。
「そんなところまで分かるの……?」
「なんとなく、だけどな」
(獲物として見られていないなら、気をそらした隙に助けられるはず……
だけどあの群れに巻き込まれたり、突進されたら危険には変わりない……勢い、獣、群れ……)
ケンサクの瞳が自身の知識を見つめるように淡く光を泳がせ、やがてやがて言葉をすくい上げる。
(……勢は弩の機なり。
弓が引けてなきゃ矢は飛ばない――つまり“勢い”を壊せば突進は起きない)
ケンサクは息を整えながら、群れの足の位置を見定め、自身の周りも見回す。
そして地面にしゃがみ、手近な草をつまんで匂いを確かめる。
「……ちょうどいい」
ぎゅっと握りつぶすと、鼻をつく匂いが立ちのぼった。
「ケンサク、それで魔物を追い払うの?」
「いや。たぶん逃げはしない。でも気をそらせる」
街で得た薬草の知識が頭をよぎる。
ケンサクは子どもと魔物の間へ、草をちぎって次々に投げた。
刺激臭が風に乗る。
途端――魔物たちの並びがぐらりと歪んだ。
「よし……まず一つ」
ケンサクはすぐに風を読む。
「風は東から。子どもは風上へ……あそこ、倒木の陰だと追いづらい」
「ケンサクが行くの?」
リテナが問う。
「ああ、俺が子どもを抱えて走る。だからリテナは――」
「待って!」
強い声でリテナが首を振った。
「体を動かすのはケンサクよりあたしの方が向いてるよ。農作業で鍛えてるから!」
ケンサクは一瞬驚き、それから頷いた。
「……たしかに。じゃあ絶対に安全な道を作る。任せた!」
駆け出すリテナの足に迷いはない。




