2 知りようのない答え
森に一歩入った瞬間、空気がひんやりと変わった。
湿った土の匂い、葉のざわめき、小さな魔物の気配。
数十メートル進んだところで、ケンサクが急に足を止めた。
「……これ、魔物の巣跡だな」
リテナが覗き込む。
「えっ? ただ土がぼこぼこしてるように見えるけど……」
ケンサクはしゃがみ込み、指先で土をすくった。
「この掘れ方は……群れで移動する魔物が“逃げるとき”の跡だ。
獲物を追うときじゃない。足の力の方向が全部バラバラだ」
ホタルがぱちぱち瞬いた。
「すごいね、なんで分かるの?」
ケンサクはさらに周囲を見回す。
「ほら、枝の折れ方。低い位置だけ折れてて、しかも内側へ曲がってる。
森の奥から何かが来て、こいつらが散り散りに逃げたんだ」
リテナは目を丸くした。
「そんなこと……見ただけで分かるの?」
「ああ……」
ケンサクは自分でも説明できず眉をしかめる。
ホタルはぴたりと動きを止めた。
その光はかすかに揺れ、真剣な響きを帯びる。
「……ケンサク。
君の前の世界じゃ知りようがない知識だよね?」
「記憶がないから断言はできないけど、……前世の知識に重ね合わせてるだけなのかもしれない。
ほら、もしかしたら前世の俺は猟師だったのかもしれないし」
軽い冗談のつもりだった。 だがホタルは即答した。
「残念だけど、それは絶対にないよ」
ぴしゃりと言い切る口調に、ケンサクは眉をひそめた。
「……なんで断言できるんだよ」
ホタルはケンサクの言葉に視線をそらし、小さく光を震わせた。
「だから、その知識は本来のケンサクのものじゃない。
もっと……“ここで伸びてる力”なんだよ、多分」
“この世界の知識を取り込み始めている”
そんな言葉を飲み込んだように、ホタルの表情は揺れていた。
ケンサクが返事をしようとした、そのとき。
少し前を歩いていたリテナが振り返り、血の気の引いた声で叫んだ。
「ケンサク! ホタル様!!
……この先に子どもがいる!
魔物に囲まれてる……!」
風が一瞬止まる。
ケンサクの表情が緊張に切り替わる。




