9 ここからが始まり
ケンサクは街門のそばにひとり立ち、そわそわと落ち着かない時間を過ごしていた。
肩の上ではホタルが弱い光を灯しながら、なんとか話題を振ろうとしてくる。
「ねえケンサク、次はどこ行くの? 目的地!」
「いや……逆にどこに行くんだ?
某RPGなら『街に入れば自然と次の目的が決まる』ものなんだけどな」
ホタルは空中でぐねっと体をひねり、ため息みたいに光を揺らした。
「うーん……この世界はね、システム目線で言うと、もっと自由度の高い“オープンワールド”に近いよ」
「……グラ◯フ的な?」
「できればもっとこう……ゼル◯とか、ああいうのに例えてほしいなぁ。
まあ、いいけど!!」
ケンサクは肩をすくめる。
「じゃあ、今まで通り行き当たりばったりで行くってことでいいんだな」
「もっとこう……もっとこう……
――もう、それでいいけど!!」
二人の会話はいつも通りなのに、どこかぎこちない。
気を紛らわせようとしているのは、どちらも同じだった。
ケンサクの視線が、街道へと続く道に落ちる。
(……リテナ、来てくれるだろうか)
ふっと風が吹き、静かな門前に砂を転がした。
──そしてそのとき、
金色の髪が太陽の光に揺れた。
「お待たせ! ケンサク、ホタル様!」
リテナが駆けてきた。
息を弾ませながら、まっすぐにケンサクを見る。
「……あたし、一緒に行きたい!」
「本当に……来てくれるのか?」
リテナは息を整え、少しだけ胸に手を置く。
「……ケンサクと過ごした数日間ね、すごく楽しかったの。
でも、それだけじゃなくて……ケンサクが話してくれる“見てきたこと”とか“考えてること”を聞くと、
なんだか……世界がちょっと違って見えるんだ」
リテナは恥ずかしそうに笑って、でも目はまっすぐ。
「ずっと、勇者様が全部正しくて、
あたし達は守られてればいいって思ってた。
でも……今日のことを見て、
“本当かどうかは自分の目で見たい”って思ったの」
リテナの瞳に、ほんのり温かな色が混ざる。
「それにケンサクとなら……怖くても歩ける気がするの。
一緒にいたいって思ったの。……ダメ、かな?」
「……そんなわけない。心強いよ」
リテナは安心したように目を細めた。
その瞬間、ずっと弱かったホタルの光が——
ぱちん、と弾けるように強くなった。
「よーしっ!! 三人でレッツ旅路!
次の目的地は——あっち!!」
「……お前のいう『あっち』とは?」
「行けばわかる!!」
ため息をつくケンサク、元気にブンブン飛び回るホタル。
リテナが笑いながら紙袋を差し出した。
「それとこれ……ケンサクに食べてもらいたくて。昨日、宿のキッチン借りて焼いたの」
中には、村でもケンサクに焼いてくれた“ソーダブレッド”。
発酵なしで作る、リテナの家庭の味だ。
「考え事しながら作ったから……ちょっと混ぜすぎちゃったかもしれないけど」
ケンサクは袋を抱え、柔らかく笑った。
「……ありがとう。めちゃくちゃ嬉しいよ」
リテナの耳が少し赤くなった。
街門の横では、昨日と同じ門兵が声を張り上げる。
「商業都市グラディスへようこそ!」
変わらぬ調子で職務をこなしているその声を背に、三人は並んで門をくぐった。
歩き出した瞬間、ホタルがふわっと空に浮かび、前方を照らす。
「さぁ、行こう! ケンサク、リテナ!
私たちなら、きっと大丈夫だよ!たぶん!」
その声に、ケンサクもリテナも自然と笑った。
三人の影が、光の中でひとつ、またひとつと重なり合い、
新しい旅路へと伸びていった。
第二章 終わり




