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神「賢者が魔法を使えるなんて、誰が決めた?」  作者: 源泉
第二章: 検索履歴:旅の楽しみ方/勇者 焼け跡

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8 勇者の顔

事件のざわめきが静まった市場を離れ、

ケンサクは二人に先ほどの出来事を説明しながら街の外れへ歩いていた。


頭の上の「賢者(笑)」の件でこってり叱られたホタルは光をしゅんと落とし、

リテナはその様子に苦笑しながら慰めていた。


人通りは少なくなり、風だけが道を抜けていく。

陽ざしは穏やかなのに、どこか空気は重かった。


そして――


リテナがふと立ち止まった。



「……ここ、どうしたのかな?」



その先には、黒く焦げた一角。

家が一軒、まるごと“黒い塊”のように残されていた。

焼け跡というより、煤が影の形を取ったようだった。

ケンサクは近づき、炭化した梁に触れかけて手を止めた。



「……普通の火事じゃないな。燃え方が違う」


「あんた。さっきの賢者様じゃねぇか」



通りすがりの商人が声をかける。

先ほどの騒ぎを見ていたのだろう。



「ああ、そこは勇者様が“浄化”した跡だよ」


「……浄化?」



商人は声を落とした。



「一月前だ。悪さを企んでた連中が住んでたんだ。

盗みだの揉め事だの……まぁ、しょぼい小悪党だ。


……、だからってここまで焼く必要があったのかって声もある」



言いづらそうに視線を逸らす。



「勇者様に聞かれたらまずいから、誰も深く話さねえ。

この場所は……見なかったことにするしかないんだよ」



そう言って立ち去った。


そのあと、小さな少女が焼け跡を見つめながら近づいてきた。



「おにいちゃんたち、ここ……気になるの?」


「うん。どうしたの?」



リテナがしゃがんで目線を合わせる。

少女は唇を噛んで、震える声で言った。



「ママには、言っちゃだめって言われたけど……

あの時……勇者様、笑ってたの」



ケンサクはわずかに目を細めた。



「笑って?」


「うん……いつもの優しい顔じゃなくて……

全然ちがう顔で……こわいくらい、笑ってたの。勇者様、お顔がいくつもあるみたいだった」



少女の声は、焼け跡の煤のように震えていた。


ケンサクが他の住民にも尋ねたが、

誰もそれ以上のことは話さなかった。

まるで“何かに聞かれる”のを恐れるように。



その間、ホタルはふわりと浮いているだけだった。

普段なら場を和ませるように喋り続けるのに——

光は弱く、明滅もどこか乱れている。



「……ホタル?」



ケンサクが呼ぶが、返事はなかった。

神であるはずの存在が、ただ震えているように見えた。


あの焼け跡。

勇者の笑い。


あるいは――もっと古い、別の“顔”を。



ホタルの光はただ、弱く揺れていた。




焼け跡を離れると、風が冷たく頬を撫でた。

ケンサクが口を開く。



「……リテナが言ってたよな。

街道は安全だったって」



リテナは小さく頷く。



「うん。本当に魔物、ほとんどいなかった。

だから、この街で魔物が出るって聞いてびっくりしたの」



ケンサクは森の方を見た。



「街道に魔物がいなかったのは、大物が減ったからだ。

勇者の討伐で」


「それは……助かってる人もいっぱいいるよ。街まで安全に行けるし……」


「でも、大きい魔物に狙われてた中型・小型は天敵が消えた。

増えた結果、餌を求めて街に流れてきてる。

あの事件の背景の一つだろうな」



ホタルは言葉を挟まず、ただケンサクの肩に弱い光を落とした。



「だから、森の様子を見に行きたいと思ってる」



リテナは頷いた。

しかし、視線はどこか沈んでいる。



「リテナ、大丈夫か? さっきから少し……」


「……うん。大丈夫、だけど……」



笑おうとしたが、すぐに消えた。



「なんか……胸がざわざわして……自分でもよく分かんないの。

焼けた家を見たら……村のこと、思い出しちゃって……」



言葉にしようとすると、壊れそうに震えていた。



「……さっきの女の子の言葉が離れなくて。

そんなはずないのに……

もし、あたしの村のときも……って、つい……考えちゃって……」



ケンサクはしばらくリテナを見つめ、静かに

言った。



「……リテナ」



空を見上げ、息を吐く。



「これから旅を続ければ、今日みたいな場所は何度も見る。

勇者の影も、世界の歪みも……目を逸らせないものばかりだ」


「……うん」


「俺は、この世界に来て“止めろ”って言われた。

勇者の暴走を、世界の歪みを。

できるかは分からないけど……逃げるつもりはない」



少し歩き、振り返る。



「だから……リテナを危険にも、辛い目にも遭わせると思う。今日みたいに」



リテナの肩が小さく震えた。



「今ならまだ、村に戻れる。

俺はもう少ししたら街を出る。

それまでに……ついてくるかどうか、決めてほしい」



リテナは唇を噛み——



「……わかった。ちゃんと考えるね」



ホタルは二人の間を静かに漂いながら、最後まで何も言わなかった。



路地の影で、ひとりの少年がその三人を見つめていた。

ケンサクに棒切れを貸した、あの少年だ。



「……勇者様、変わったことがあれば報告しろって言うけど……

“賢者”が来たって、言ったほうがいいのかな……」




その呟きは、誰にも聞かれなかった。

森のほうから、ひやりと風が吹き抜けた。


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