4 サポートホタルと賢者(笑)問題
ケンサクたちは宿屋に部屋を取り、この街に泊まることを決めた。
ここの食堂は夜になると酒場としても使われるらしく、
活気のあるざわつきと、肉とハーブの香りが混ざった温かい空気に満ちていた。
「わぁ……おいしそう……!」
リテナは目をきらきらさせながら席に着く。
ケンサクも腰を下ろし、目の前に並んだスープと肉料理に思わず息を漏らした。
頭上ではホタルが、店の灯りに紛れるようにふわふわ漂っている。
さっき店主に「光る虫扱い」されて捕まえられかけたとは思えないほど、
今はすっかり“変わったペット”として自然に受け入れられていた。
さっそく夕食を口に運ぶ。
「おいしい……!」
リテナがほほえむ。
「うん、たしかに」
ケンサクも頷いた。
そしてふと思い出す。
「……でも、パンだけは……リテナが作ってくれたほうがうまかったな」
「えっ……」
リテナは一瞬固まり、頬を赤く染めた。
「そ、そんなことないよ……!
ただ、ママに教えてもらったやり方で焼いてただけで……」
「いや、本当にうまかったよ。
リテナの家で食べたのも、今朝くれたのも。
材料の小麦がいいのもあるんだろうな」
リテナは照れくさそうに指を絡めた。
「……ありがとう。
ママのレシピも、パパの畑の小麦も……褒めてもらえて嬉しい。
じゃあ、また焼いてあげるね」
「楽しみにしてる」
その穏やかな空気をぶち壊すように、
向こうの席から“ふわふわ”とした足取りでホタルが戻ってきた。
「ケェンサク〜……リテナ〜……
おさけって……おいしいねぇ〜……」
「お前、酒飲んだのか」
「だって杯が近づいてきて……吸い取れって言ってる気がして……」
「絶対気のせいだろ」
ホタルはぐにゃりと輪郭をぼかしながらテーブルに落ちた。
「ふへへぇ〜……」
完全に酔っていた。
「この世界での仮の姿だもの〜、少しくらいいいじゃない〜……
だって私はあ……あ……気持ち悪い〜!!」
「うわ、ほらもう行くぞ!」
ケンサクは慌ててホタルをつまみ上げ、階段を駆け上って部屋へ戻った。
部屋に戻ると、ホタルは水で顔を洗ったようにシャキッと元に戻っていた。
リテナとは別の部屋を取ったケンサクはベッドに腰掛け、
そんなホタルにじとっとした視線を向ける。
「ふぁ……さて! 新しい能力を紹介しようじゃないか!」
「お前、飲んでたのに切り替え早いな」
「こんな姿でも神ですから!状態異常無効!!」
「ただし無効になるまで時間がかかる、と」
「まあまあ、細かいことは気にしない!」
ホタルは空中で一回転し、光を散らした。
「ケンサクのためのサポートを、いくつか追加したよ!」
「追加?」
「まずはこれ!
《軽量結界》!!」
透き通る薄膜の光がケンサクを一瞬ふわりと包んだ。
「……おお?」
「魔法攻撃は無理だけど、物理を少しだけ弾けるよ!
ただし持続時間は短い!」
「ホタルにしては珍しく便利だな。で、デメリットは?」
「軽量版だから!これを使うと私のバッテリーがすぐ切れる!」
「チャージ方法は?」
「食事をするか、生き物から吸い取るか!」
「……ホタルって、ホタルでも幼虫のほうだったりする?」
「幼虫は飛ばないでしょ!!」
声が一段大きくなった。
ホタルは気を取り直し、別の能力を見せる。
「次! 目的地の方向を光で示すやつ!」
窓の外へ向けて、小さな光の矢印をぽんと飛ばした。
「おお……これは普通に便利だな」
「でしょ!
あとね、ケンサクのステータス自動ログ!
体調も疲れも、だいたいわかる!」
「それはちょっと恥ずかしい」
「周囲の魔力も感じられるんだよ!
ほら、この宿屋の下……虫、めちゃ溜まってる」
「言わなくていいことを言うんじゃない!!」
ホタルは誇らしげに光を膨らませた。
「どう? ケンサクのために強化してきたんだ!」
「……正直、助かる」
ケンサクが素直に言うと、ホタルは嬉しそうに跳ねた。
「勇者には色々持たせてあげたのに、ケンサクには何も渡さず行かせちゃったからね。反省した!」
「なら遠慮なく……相談なんだけど」
「なになに?」
「名前はともかく……職業が丸見えなの、なんとかならないのか?」
ケンサクは自分の頭を指さす。
ホタルがきょとんとする。
「リテナは“マナーだから勝手に見るのは失礼”って言ってたけどさ……
他人から丸見えってのは、抵抗がある。特に俺は」
「う~ん……この世界全員の共通仕様だからね~。
空の色変えるくらいには難しい」
ホタルは一度悩んでから、ぴかっと点滅した。
「あ! “追加メッセージ”なら足せるよ!」
「追加?」
「例えば——
《賢者(笑)》!!」
「おい」
「じゃあ《賢者かな?》!」
「悪化してるだろ!」
「じゃあ《賢者(仮)》!」
「それもやめろ!!」
ホタルはふわーっと笑い、光をころころ揺らす。
「おいお前、まだ酔ってるだろ!
今からこの宿の下の虫のところに連れてってやる!」
「ひゃ〜! 逃げろー!!」
廊下に響く騒がしい声。
それを聞きながら、隣の部屋のリテナはくすりと微笑んだ。
「……ホタル様とケンサク、なんだか楽しそう」
街の喧騒とは違う、静かで温かい夜の気配が、宿屋の二階に満ちていた。




