1 街への道で
リテナの村から街へ向かう街道は、朝の光を受けてきらきらしていた。
木々の隙間から吹く風が心地よくて、森を抜けるだけで気分が明るくなる。
「……そういえば」
先頭を案内しながら歩いていたリテナの後ろで、
ケンサクがふと、飛び回る光へと問いかけた。
「街に行くとして、買い物とか宿とか……そういうのってさ。
お金、どうするんだ?」
「え?お金?」
ホタルがぽわっと光りながら、軽い調子で答える。
「なんか無一文で旅出されられたもんで」
「道端にある像とか、神殿に供えてあるでしょ?
あれ全部、私へのお供え物なんだから、神である私が使っても問題ない!」
「うわぁ……いや、正直助かるけど……」
「ただし小銭ばっかりだし、泥まみれで臭いのもあるけどね!」
ホタルは嬉しそうに光を揺らしながら、ケンサクの前でぴょこんと跳ねる。
「はい、ケンサク。今日のお小遣い〜!」
「これ、賽銭泥棒に見えない? 大丈夫?」
そのやり取りを見ていたリテナが、そっと口をひらいた。
「あ、あの……ホタル様、と呼んでもいいでしょうか?」
「え、様!?……なんか嬉しい!」
リテナはちょっと困ったように笑う。
「だって神様なんでしょ? 私が“ホタル”って呼ぶのは、なんだか失礼で……」
「そう! 私は神様!!」
ホタルが全力で光って喜ぶ。
リテナに合わせて、ケンサクは少しだけ迷ったあと、口にした。
「じゃあ俺も……ホタル、でいいか?」
(この光を“神”なんて呼んだら、街で変人扱いされそうだし……)
「別にいいけど……ケンサク、なんか失礼なこと考えてない?」
「うわ、本体より察しがいい」
ホタルはぷくーっと光をふくらませる。
「あ、あの……ホタル様、落ち着いてください……!」
リテナが慌てて宥めると、ホタルはすぐに機嫌を直した。単純だ。
しばらく歩いてから、ケンサクがふと思い出したように尋ねる。
「リテナ、昨日見たあの……狼みたいな魔物って、よく出るのか?」
「ううん、魔物なんて、本当に久しぶりの遭遇だったんだよ」
「そうなのか?」
リテナは空を見上げながら答える。
「勇者様たちや、勇者様を支える人たちが退治してくれてるから、
最近の街道はすごく安全なの。
本当に、ほとんど魔物を見かけなくなったんだよ」
「……え、それ完全に――」
ケンサクは思わず顔をしかめた。
「生態系、壊してない……?」
リテナはぽかんとしている。
ホタルだけが小さくうなずいた。
「うん、壊してるよ」
「断言するなよ神……」
「生き物の数ってね、ほんとは増えたり減ったりしながら保たれてるんだけど……
勇者、必要以上に全部倒しちゃうから」
「いやもうそれ、害獣駆除の域超えてるんだが」
リテナは複雑そうに指先をいじる。
「勇者様は……悪い人を守ってるだけ、なんだよね?」
「うん。でも“やりすぎ”ってことも否定できないんだ」
その声だけ、ほんの少し寂しそうだった。
道が緩やかに曲がる頃、ケンサクは前を歩いていたが、
後ろの会話がふと耳に入る。
「……実はね、ケンサクって転生者で、魔法が使えなくて……」
「……転生者!……だからちょっと雰囲気が……」
「でもね!リテナの村をちゃんと助けたんだよ!
誇らしいでしょ? さすが私の選んだケンサクだよ!」
(秘密にしといたほうがいいと思ってたことを……全部……
いや、でも褒めてくれてるし……怒りにくい……)
振り返ると、リテナが安心させるように微笑んでいた。
その、まだ慣れていない優しさが、胸にじんわりと沁みる。
そして――
曲がった先に、目的地の街が、ゆっくりと姿を現した。




