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神「賢者が魔法を使えるなんて、誰が決めた?」  作者: 源泉
第一章:【悲報】転生チュートリアルが適当すぎる【チートなし】

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13 借り物の知恵と背中


古井戸を離れると、ケンサクは二人に軽く手で合図し、

人目の少ないリテナの家の裏庭へ向かった。


朝の光はまだ弱く、空気はひんやりとしている。

けれど、先ほど胸を締めつけていた緊張は、少しだけ和らいでいた。


ケンサクは振り返り、静かに言った。



「二人に……ちゃんと理解してほしいんだ」



地面に膝をつき、砂の上に円を描きながら話し始める。



「まず――この村の流行り病は“呪いじゃない”。

目に見えない小さな“病気の素”みたいなものがあって、それが体に入ったんだ」



村長とリテナが小さく息を呑む。


村長は苦い顔をしながら言った。



「私は賢者様のお話を聞いて、なんとなく理解できたのですが……勇者様が“呪いだ”と断言されて……

皆、その言葉を信じてしまっております」



その光景は、リテナの記憶も抉った。

患者を集めた小屋と遺体が、炎の魔法で焼き払われた日。

視線が揺れ、胸に痛みが走る。


ケンサクはそれに気づき、声を和らげた。



「呪いじゃない。

見えない“悪いもの”が、水に混じっただけなんだ。

祈っても恐れても消えないけど……避ける方法ならある」



砂に描いた円をなぞりながら続ける。



「川沿いの古い井戸は、増水すると川の水がそのまま染み込む。

死んだ動物の残骸や生活の汚れが混ざることもある」



リテナが小さく問う。



「……その“悪いもの”が、病気の原因?」


「そう。目には見えないけれど、体に入ると危険なんだ」



ケンサクは描いた円を二つに割る。



「でも、中央の井戸は深い地下水を吸ってる。

あそこには川の汚れが混じらない」



村長の顔にわずかな安堵が浮かぶ。

ケンサクは指を三本立て、ゆっくりと確認した。



「病気を出さないために大事なのは三つ。


 一つ、古井戸は封鎖する。

 二つ、飲み水は中央の井戸だけを使う。

 三つ、水に違和感があれば、必ず“煮沸”する。


……これだけで、病はほとんど防げる」



リテナは目を瞬かせる。



「煮沸って……本当に効果あるの?」


「あるよ。病気の素は熱に弱い。

 だから勇者が“焼いた”行為も、広がりを止めるという意味では正しかったんだ」



村長は深く頷き、呟く。



「……私たちでもできる対策ですね」



ケンサクは続ける。



「万が一また病気が現れても、守ることは三つ。


 汚れたものに触れたら手を洗う。

 患者には“水薬”を飲ませて水分を補う。

 患者に触れた手で顔を触らない。


これだけで、村は守れる」



リテナはぎゅっと拳を握りしめた。



「ねえ、ケンサク。

この話……村のみんなにも直接言ってあげられないかな?」



村長も深く頭を下げる。



「賢者様が話してくだされば、誰も疑いません。

どうか……村を救っていただけないでしょうか」



ケンサクは一瞬だけ目を閉じ、やわらかく笑って首を振った。



「……俺は、人前で皆を導くような性格じゃない。

昨日来たばかりの“よそ者”が前に出るのは、反感を買うかもしれない。

村のことは、村の人が伝えるのが一番だよ」



——胸の奥では別の言葉が鳴っていた。



(俺には記憶がない。

なのに、見たり考えたりする度に……知らない知識が湧いてくる。きっと、これは俺の力じゃない)


(それに長くいれば、“魔法が使えない賢者”だとバレる。

そうなれば、示した対策まで疑われてしまう)


(旅の賢者が知恵だけ置いて去った——

その方が、この村にはきっといい)



それらを顔に出すことなく、静かに告げた。



「二人なら……村を守れる。

もう呪いじゃないってわかったんだ。

あとは、正しい方法を広めるだけだよ」



リテナの瞳に強い決意が宿る。



「……うん。あたし、やる。

パパとママみたいな人……もう出したくないから」



村長も深く息を吐き、頭を下げた。



「賢者様……感謝いたします。

必ず村を守ってみせます」



少しして、ケンサクはリテナに渡された荷物を背負い、軽く手を上げた。



「じゃあ……俺は行くよ」



その背中は静かで、少しだけ寂しげで——

けれど確かな意志を持って、朝の光へと歩き出す。



リテナは思わず一歩踏み出し、声を震わせた。



「……ケンサク……!ありがとう!」




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